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第1話 続き
最初に気づいたのは、彼のほうだった。
越してきて数日、静まり返った夜に、かすかな笑い声が壁越しに聞こえる。
気になって耳を澄ますと、呼吸まで伝わってきそうなほど近い距離で、女性が誰かと電話をしているようだった。
だが、それ以上に彼を惹きつけたのは——壁に空いた“穴”だった。
覗いてみようか。
その衝動は、ためらいを打ち消すほど強く、気がつけば彼は目を穴に近づけていた。
穴の向こう、柔らかな明かりに照らされた小さな部屋。
そこには、誰かに見られることを拒むどころか、むしろ受け入れるように、ゆったりとカーテンを閉じずに過ごす彼女の姿があった。
——覗かれていることに、気づいているのか?
それとも、気づいたうえで、あえて…?
彼女は鏡の前で長い髪を梳きながら、ふと壁の穴のほうに視線を向けた。
その瞳はまるで、「見ているんでしょう?」と問いかけるように、じっと穴の先を射抜いた。
彼は慌てて身を引いたが、心臓の鼓動は高鳴るばかりだった。
そして同じ頃、彼女の唇には小さな笑みが浮かんでいた——。