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9 ネットの最深部
先ほどもご紹介したとおり、竹田のおもな収入源は、とっぱらいの日雇い仕事4万円と、ネットの内職3万円の計7万円。とっぱらいの日雇いの仕事は、出店の焼き鳥屋の手伝いや、駅前のビラ配りなど、そのつど仕事内容がことなり、仕事終わりにその場で現ナマ入りの封筒を手渡しでもらう。中身はおよそ8千円~1万円ほど。一方、ネットの内職はというと、月末にその月の働きにおうじた金額が銀行振りこみで支払われる。額は平均3万円、その辺をいったり来たりなのだが、仕事内容がすこし変わっている。まぁ大半はパソコン一台、あるいはスマホ一個あればできる在宅ワークのデータ入力が主なのだが、それ以外が一癖も二癖もある、ハローワークでは絶対にお目にかかれないであろう、風変わりな代物ばかり。
いくつか例を挙げてみるとする。
ロンドン、またはパリ近郊の脱毛サロンの覆面調査員
・・遠っ!・・
箱根駅伝の順位予想のアルバイト
・・当たったとして、いくらもらえんだろ・・10万くらい?・・
名古屋から手紙を投函する仕事
・・犯罪のにおいが・・
ラクロス留年事業のネーミング、キャッチコピーのアルバイト
・・初めて聞くカテゴリー・・
つらい時に助られた島崎藤村の名言(杉田玄白、つんく♂でも可)
・・島崎藤村はともかく、解体新書の杉田玄白に名言なんてあんの?・・つんく!・・
スマホに向ってサッカーのことをしゃべるだけの声優の仕事
・・なんか、気持ちわるっ・・
奇妙な写真、投稿のアルバイト
・・前が前だけに、普通に感じてしまう・・
ともかく、このサイトの怪しさ、いかがわしさだけは伝わったのではないだろうか。
竹田は、そんなバラエティ職にとんだ数ある仕事のなかから、なぜかアダルトに関する入力作業という仕事をチョイスする。どういった仕事なのか詳細をみてみると、用意されたネットのアダルト漫画に、題目と簡単なあらすじをつけるという仕事。
一個あたりの単価が100円。なので、一日10個の題目とあらすじをつけて、一日千円。休みなく働いたとして週7千円で、一か月はおよそ4週間だから4倍して4×7で28、月2万8千円となる。
休日返上でそのうえ、さらに竹田のガリッガリで貧弱な体にムチうって、どうにか月3万円を捻出する。儲からないとは聞いていたものの、想像以上に内職の現実はきびしい。
竹田はその日から、スケベなエロ漫画に目をとおしては題目とあらすじをつけまくった。
はじめは、股間の竹田jrが暴走し、てんやわんやだったが、数をこなしていくうちに次第にそんな雑念も消え、徐々にさとりの境地に。
せっかくなので一つ、竹田が性の欲求と葛藤したすえに、したためたエロ漫画の題目をみてみよう。(刺激が強いため、R指定とす)
| 保〇室にいくつか穴が開いていたので、フル〇起したそれがしの〇笛をかたっ端から〇れてみた |
そうして、アダルト漫画のエロの誘惑に見事うちかち、毎月コンスタントにおよそ3万円ほどを稼ぎだす竹田。しかし、そんな不埒な在宅ワークの仕事が、ようやく軌道にのってきたそんなとき、突然なんの前触れもなく仕事が打ちきられてしまう。なにか竹田の仕事に不手際があったのか、それとも知らぬまに発注元に失礼が生じていたのか、詳しいことはよく分からないが、結局原因も教えてもらえぬまま、仕事はそれ以来パッタリ途絶えてしまう。
ここが信頼に厚い、全国区のハローワークとはちがい、曖昧でいまだ法が不確かなネット内職のあやうさなのかもしれない。しかし、結末は尻すぼみ感を否めなかったものの、他にはないバラエティに富んだクリエイティブ?な仕事をできたという点においては満足している。
半年後、ダメもとで「お仕事頂けますでしょうか?」と再度メッセージをおくると、「メンテナンス中なので、しばらくお待ちください」と依然、終わりなきメンテナンスは続いていた。
・・ガンダムでも作ってんか?、おぃ・・
この内職仲介サイトの名は「どしゃ降り.com」という。その後も、懲りずにこの「どしゃ降り.com」のお世話になる竹田。
そしてアダルト漫画の次に、竹田が目をつけた仕事がこれだった。
1日1時間で高収入、月30万も夢じゃない!
パっと見、なんの仕事かわからず、詳細をみても簡単なコピペ作業etcで固定報酬500万としか書いておらず、もはや如何わしさをとおりこして恐怖すら感じる内容である。
怪しい、前回のアダルト漫画の仕事もそうだったが、それの比にならないくらいに怪しい。しかし、このときは3万ほどの収入がなくなってしまったことに焦り、周りがみえなくなり、いかんせん正常な判断ができなくなってしまっていた竹田は、発注側の指示においそれと従い、ネットのテレビ電話のようなもので謎のセミナーに数人らとともに参加してしまう。
そこで聞かされた内容が、ねずみ講システムだった。
そのワードは何度か耳にしたことがある程度にしか知らなかったのだが、後日あらためて調べてみると違法ということが判明する。はじめに入会金という名目でA氏から10万円ほどを徴収し、その徴収されたA氏が今度は、新たにB氏とC氏を勧誘する。そしてB氏とC氏はまた別のD、E、F、Gと芋づる式に入会金をまきあげる。巻きあげた際に、勧誘した人間には何%かのとり分が支給され、このピラミッド構造の上にいればいるほど、報酬もたんまりという寸法である。
10万円の入会金と、このビジネスをまた別のだれかに紹介する、ただそれだけのことで知らず知らずのうちにお金が3倍にも10倍にも膨れあがるという夢のようなお話。なんとこの最先端ビジネスを嘘かほんとか、あの現アメリカ大統領も取り入れているとのこと。その経験者の体験談を、ひたすら1時間あまり聞かされる参加者たち。次第にその説きふせるような語り口調にひきこまれ、いつしか洗脳されていく竹田以下数名。だが、肝心の振りこむか否かの最終判断は、セミナー終了後、おのおの個人にまかせるとのこと。
・・んー、どうする竹田・・10万・・アメリカ大統領・・
しかし、入会金の10万円という大金もそうなのだが、このときの現アメリカ大統領がとにかく死ぬほど嫌いだった竹田は、この最先端ビジネスをやむなく断念する。
のちに分かることだが、この求人は最先端ビジネスでも、もはやネズミ講ですらない単なる求人詐欺で、ふりこめばまず入会金は戻ってこないと、どしゃ降り.comがサイト上で事前に注意喚起をしていた。
・・あっぶねぇな、おぃ・・これ詐欺じゃん、新手のふりこめ詐欺じゃん・・危うく、ひっかかるとこだったわ・・ってか、なんで普通の求人にまざって詐欺の求人があんねん、どちくしょう・・
まさにサイトの名の通り、振り込んでいたら竹田の心はいまごろ「どしゃ降り.com」なのであった。まったく、唐突な仕事のうち切りや、謎のセミナーでの洗脳からの銭ふんだくりと、ある意味こちらを飽きさせない当サイト。しかし、型破りでハチャメチャなのは実は、このどしゃ降り.comに限った話ではない。
というのも、いまだ秩序の保たれていない不安定なネットの世界には、このような法に触れるか触れないか、グレーゾーン極まりない如何様サイトが山ほど存在する。ここからはそんなネットの深みで、竹田が味わった恐怖体験をいくつかご紹介する。
ひとつめは先ほどの求人詐欺でも登場したネットのテレビ電話、いわゆる無料通話アプリの話である。日本にはLINEをはじめとする、スマホやPCで無料でチャット(文字での会話)や通話することのできるアプリ(機能、サービス)がいくつか存在する。スマホに見向きもしない自称時代に流されない男、ガラケー竹田はそのなかでもPCで利用できるアプリ「ZAREGOトーク」を利用させてもらっていた。
あるひの晩、別段おもしろいテレビもなく、ネット碁もさほど打つ気分ではないとき、竹田は夜な夜なこの無料通話アプリ「ZAREGOトーク」をパソコン上に起動させる。そして、チャットや通話で第三者と親交をふかめるのである。
ちなみに言っておくが、おおかたリア充(リアルが充実)さんたちはこの無料通話アプリで実際の知人や恋人などとやり取りをし、(カメラがあれば画面をとおして)じつに有意義な時間を過ごしているらしいのだが、ここで竹田がいう第三者とは竹田と一切面識のない、どこの馬の骨かもわからぬ赤の他人である。(天涯孤独の身にほぼ等しい竹田にとって、知りあいは親戚以外皆無)
やり方は、まず「戯れ言ちゃんねる」という「ZAREGOトーク」が運営するサイトにアクセス(訪れ)し、そこで竹田同様、日本のいずこかで暇をもて余している人間を探す。(いわゆるヒマ人である)
そして毎秒更新されるサイト上の掲示板の書き込みのなかから、自分好みの相手をみつけ、その相手に一行ほどの気の利いたメッセージを送りつける。例えばこう。
例文 どうも~、さみぃ地方に住む、みそじのくそジジイで~す♬ 以後お見知りおきを・・
といった具合である。もちろん相手はおなごである。知りあいではない以上、輩であってはいけない。異性でなくては、おなごでなくては成り立たない。
だがしかし、なかなか一人だけに山を張っていては、返信はまず見込めない。一度、容姿端麗写メを添付している女性をマネて、とてつもなくイケメンの写真をプロフィール欄にはり、メッセージを送ってみたが、それでも返信率はさほど変わらなかった。
だから竹田は、もはや小細工などはせず(適当にアルパカなど、ラクダ科の愛嬌のある写真でもはっといて)できるだけ多くの女性にメッセージをばらまく。口八丁な不倫政治家や、好感度高めの浮気ママタレがやりがちな、俗にいう唾をつけるというゲスい手法である。
そしておなごからの返信を待つ。待ってこなければ、そのおなごとは縁がなかったと割りきり、即刻斬り捨てゴメン。そしてまた違うおなごにメッセージをおくる。実に単純明快。
20人にも送れば、少なくとも一人くらいは引っかかる。そこからようやく「ZAREGOトーク」のチャットでのやり取りが始まる。自己紹介からはじまり、いま何してんの?、夕飯食った?、このテレビ面白いよね、などと他愛もない会話ですこしずつ相手の警戒をときつつ、頃合いをみてとり入る。
そうして、若干の信頼をかち得たところでようやく「・・ってかさ、〇〇ちゃんってチャット派?、それとも通話派?・・」と待望の話題へと話を切りださせるのである。
でもここで、もしおなご側が「・・う~ん、アタシあんまり通話はやらないかも、ごめんね・・」とやんわりとした拒絶をしようものなら、やはり竹田のご希望にはそわぬ為、やむなく絶交となる。
え、なんで?、どうしてそんなに通話がしたいの?。別にチャットでもいいじゃん?、どちらにせよ、どうせどうなるものでもないんだし。ってか知りあって間もないのに絶交とか、マジきもいんですけど。とギャルの皆さんはお思いかもしれない、がしかしそれは違う。竹田は誰であれ、このとき無性におなごと通話がしたい、いや、通話がしたいというよりも、どんなおなごでもいいのでとにかく、久方ぶりにあの耳に心地いい高音をききたい。その一心で「ZAREGOトーク」をダウンロード(購入)したというのに、絵文字付きといえどチャットという無機質でたんぱくな文字の羅列だけではあんまりではないかと言っているのだ。少しでも、このおんぼろアパートで日々の荒んだ心を浄化し、現実逃避したい。耳にだけでも癒しを与えてやりたい。
かくして、毎度ちょうど塩梅のよい通話相手を、結局のところはゲットしちゃうテクニシャン竹田。
そして「通話?、いいよ・・チャットもだるいし・・」と承諾を得たおなごと通話を開始。
「・・こんばんわ~、竹田です~、よろしく~・・」
「・・あ、こんばんわ、〇〇です・・うふふふっ・・」
・・おぉ、おぉ、のっけからわろとるわろとる・・ええ感触や・・それに、なんて耳に心地がいいんだ♬・・
(ちなみに竹田はネットにおいても、ハンドルネームのような偽名は一切つかわない)
他はどうか知らないが、おなごと通話がつながった時点で、竹田の目的はほぼ9割がた達成される。なぜなら耳の癒しに重点をおいている竹田は、はなっから出会いなど望んではいないからだ。それに、ZAREGOトークで固定さんと呼ばれる、パリピでいうところのセフレのような存在(今後もこまめに連絡を取りあう間柄)も別段欲してはいない。その人とは今晩限り、キザな言いまわしをすれば一期一会、チャラくいえばワンナイトラブだとおもっている。
まぁとはいえ、住んでいる場所が近ければ近いほど「・・今度、会わない?・・」といったあわよくば精神、下心がうまれるのも事実。しかし、この戯れ言ちゃんねるで出会うおなごはなぜか皆、そろいもそろって竹田の近隣には住んでいない。日ごろの行いが宜しくないのか、はたまた運命のイタズラか、まるで「こないで!」とでも言わんばかりの人里はなれた辺境ガールばかり。そのため竹田の財力では、もし首ったけのおなごが出来たとしても、新幹線、はたまた飛行機といった交通機関を乗りついで会いに行くのは、経済的にみても自殺行為であり、まずムリだった。(昔は、若気の至りで会いにいこうとしたことも何遍かあったが、いまは出会い目的ではなくなった自称ネット恋愛の申し子竹田)
それから30分、ながくて1時間も通話すればおおかた話題もなくなり、おたがいが飽きてくる。そうして、どちらからともなく電話プッツンで自然消滅。大半がこんな感じ。
・・お分かりだろうか?・・そう!、もはやプロフ(プロフィール)の写メ(写メール)などどうでもいい・・このZAREGOトークにおいてもっとも重視されるのは声なのである。リアル(現実世界)とは違い、顔が少々とっ散らかっていても、声がキュートであれば何も問題ない。むしろ優遇され、重宝される。プロフの写メは、ネット上で適当にひろってくれば事足りるが、声はそうはいかない、ごまかしが利かないのだ。(だが、あまりに顔立ちが整った写メは、すぐに偽造とバレてしまうためNG。中の上、何事もそこそこがベスト)
あるひの晩、竹田はものすごくグラマーでなおかつ、顔立ちもととのったまるでグラビアアイドルのような体形の、竹田採点ではほぼ満点の女性に、この戯れ言ちゃんねるで出くわしたことがあった。
(のちのち考えてみると、あれは明らかな偽造写メだったのだが・・当時、戯れ言ちゃんねるビギナーだった竹田には、残念ながら見抜けず・・)
チャットで、コミュニケーションののち、とんとん拍子に通話へ。
「・・あ、もしもし~・・竹田です、よろしく~・・」
「・・よろしくお願いします、〇〇です♬・・」
「・・!・・」
その声に衝撃ををうける。
・・な、な、なんて可憐で、声優さん顔負けのかわいらしいお声なのだろう・・気を抜くと、全身がとろけてしまいそうだ・・
その後も、たまたまやっていた深夜の声優番組の力も借りては、学生時代にはかなわなかった遅れてきた青春とやらを、安物のヘッドフォンごしに満喫する竹田。
「・・ねぇ、あの人のセリフ言ってみてぇ~な・・」
「・・え~恥ずかしい・・」
「・・ええやん、ええやん♬・・」
「・・う~ん、できるかな~・・」
え、何のろけてんの?、全然恐怖体験じゃなくない?。むしろ楽しそうでムカつくんですけど?、とギャルの皆さんからお叱りを受けるかもしれない。しかし、このくらいは勘弁してほしい。なぜなら、このおなごとのやり取りがZAREGOトークで竹田があじわった唯一のお戯れなのだから。
その一方で竹田は、このZAREGOトークで数々の辛酸をなめさせられてきた。
あるひの晩、竹田が出会ったそのおなごは、恐ろしいことに薬に夢中だった。
「・・ねぇ、きいてよ~・・このまえ会った薬の売人ひどいんだよ~・・アタシにだけ薬高く売りつけやがってさぁ~・・」
「・・へ、へぇー・・」
「・・そんでもって彼氏は帰り、車で事故るし・・もう最悪ぅ・・」
「・・そ、そりゃー災難でやんしたねぇ・・」
「・・でもさ~、あれは笑ったわ~・・」
「・・なんでしょう?・・」
「・・彼氏がさ~、事故ったと思ったらさ~、車おりて電信柱の前でなにかしてんのよ・・」
「・・ほ、ほぅ・・」
「・・何してんのって聞いたら、事故ってオシッコちびったって、立ち小便してやがんの・・はっはっはっ!・・」
「・・ほ、ほぅ・・そ、それはおもしろい・・」
戦慄のほか、薬中の人間の笑いのツボはどうもわからんという教訓だけを得て、通話強制終了。(着拒(着信拒否)もぬかりなく)
またあるひの晩は、声やみてくれは問題ないのだが、少々情緒不安定のおなごに遭遇。
「・・じゃあ、また、今度~・・」
「・・うん、バイバイ~・・」
と竹田には珍しく、パリピでいうところのセフレのやり口で、このおなごをキープしたはいいものの、後日あらためて話をしてみると。
「・・ども~、久しぶりです~・・」
「・・・・・」
「・・あれ?、聞こえてる?・・もしもーし・・」
「・・いや、聞こえてるし・・」
「・・あれ?・・なに、もしかして、怒ってたり、する?・・」
「・・いや、怒ってねぇし・・え、ってか、なんで電話してきたの?、今さら・・」
となかなかのお怒り様。
その後、怒りの原因をさぐりながら、なんとか和解をこころみるも、結局理由はわからずじまいで関係は消滅。まぁ、メンヘラ気味の未成年のおなごは特にキレやすく、扱いは最高難易度なうえ、女心はなんとやらなのでムリもない。
またある晩は、鼻筋のとおったモデル体型のおなごと通話。
「・・もしもし~・・」
「・・あ、はい・・」
この女子大生のおなごは、スタイルもよくまずまずの美貌の持ちぬし、ゆえにまっ先に偽造写メの疑いがもたれたが、この頃ZAREGOトークにどっぷりとつかり、酸いも甘いも経験済みの玄人竹田には、なんとなしに分かっていた。このおなごの写メが嘘偽りではなく、まぎれもない正真正銘、自前写メだということに。
「・・晩飯は食うたんですか?・・」
「・・えっと、夕食はねぇ・・妹に生姜焼きつくって、自分もたべた・・」
根拠はない、ただの直感である。しかしその直感は、ものの見事に的中する。
「・・帰ってきたら夕飯が準備されてるとか、妹さんがうらやましいですわ・・」
「・・竹田さんは、夕飯は食べられたんですか?・・」
「・・えぇ、まぁ食べましたよ・・菓子パン一個ですが・・」
「・・菓子パン、だけですか?・・」
「・・えぇ、あだし逆流性食道炎なんで・・胃に優しいもんしか食えんのですよ・・」
「・・へぇー、それはお気の毒に・・」
と、なごやかな雰囲気をさっそくぶち壊していく根っからのあまのじゃく体質竹田。その後、なんとか軌道修正しわきあいあいと会話をすすめるも、またもてっぺん(12時)をまわった頃合いで、竹田のへそまがり気質に火がつき、素人≧モデル未満、=読モ(読者モデル)のおなごに急な問題提起をしはじめる。
「・・でもさ~、ミジンコちゃんってどう思う?・・」
「・・あぁ、あのモデルの?・・かわいいよね♬・・」
「・・まぁ、かわいいよ、かわいいけどさ~・・それだけだよね?・・」
「・・?・・」
「・・ようするにミジンコちゃんってさ、運じゃん?・・」
「・・運?・・」
「・・そう、だって親からもらった遺伝子であの顔に産まれてきて、モデルになったわけでしょ?・・」
「・・ま、まぁ・・」
「・・じゃあ、親の遺伝子のおかげであり・・それって100パー運でしょ?・・」
「・・でも、運っていうけどさー、ミジンコちゃんも見えない所でめっちゃ努力してるかもしれないじゃん?・・」
「・・まぁ、努力してるかもしれない・・いや、努力はしてると思うよ、モデルの頂点なんだから・・でもさ、努力はみんなそれ相応にしてるわけで、やっぱりあの顔がなかったらスカウトもされてないし、モデルにすらなれてない訳よ・・」
「・・んーわかんないよ、別の顔だってちゃんと努力して、頂点ではないにしろモデルさんになって頑張ってるかもしれないじゃん?・・」
「・・え?、別の顔で産まれてきて、努力してモデルになって頑張ってる?、だ?・・」
おなごのその不用意な発言が、竹田をモンスターへと豹変させてしまう。
「・・おぃ、それマジで言ってんのか?・・偽善者づらすんのも大概にしとけよぉこの、メス豚野郎がぁ!・・ミジンコちゃんがこの顔面、スタイル以外でデルモになる確率なんて、ホントにあるとおもってんか?・・」
感情の高ぶりからつい「モデル」も業界用語風にひっくり返る。
「・・デルモにはな、ある程度キレイにととのった顔立ち、スラっと伸びたおみ足、高身長でくびれのあるスタイルが必須やねん・・世間的には可愛いとされるごくごく一般的な顔立ち、体系の田舎娘が、実際にモデルになれる確率なんて、土木作業員がたまたま徳川埋蔵金掘り当てちゃうくらい微々たるもんやねんぞ!・・そういう無責任な発言が、リアルに顔をそむけちゃうイケメン大好き二次元腐女子ちゃんを量産すんねん!・・」
なおも竹田の魂の叫びはとまらない。
「・・ミジンコちゃんが別の顔面でもデルモになれるってんなら、女芸人たちは苦労しねぇやぃ!・・デルモのあなたがたはデルモにもなれるし、売れるか売れないかは別として女芸人にもなれるチャンスはあるけどなぁ・・顔のとっ散らかって生まれてきちまった受精のあいまいな女芸人どもはなぁ、デルモになりたくてもスカウトはおろか、そのチャンスが0,001パーセントにも満たねぇんだわ!・・もはや整形でも追っつかねぇ、魔法でそう取っ替えする以外方法はねぇんだわ・・悲しい、悲しすぎて涙ちょちょぎれてしまうな、おぃ・・それなのに、なにが人は生まれながらにみな平等だよ、何が憲法だ(憲法は戦争を未然に防止するためにつくられた立派な法律であり、まちがっても憲法批判などではない)身分制度のあった江戸時代となんら変わらねぇじゃねぇか・・なぁ、政府の官僚さんがたよぉ!(いっておくが、国民のため日夜汗水流してはたらくお役人は日本の誇りであり、国のために従事する政府官僚の皆さまがたには、尊敬の念しかありません)
そして竹田の不平不満はモデル業界をとびこえ、ついには芸能界にも飛び火する。
「・・それをいうたら芸能界もそう、音楽業界は昔にくらべ、すこしは歌のうまい連中が台頭してきてマシになってきたけど、かたや役者業界といったら、もう目も当てられん・・」
「・・え、どこが?・・」
なんとか反撃の糸口を探すべく、やっとのことで声を絞りだす、ルックスいいとこ中の上のおなご。
「・・どこが、だと!?・・全部に決まってんだろぅが!、このぉアバズレなんちゃって読モ風情がぁ!・・」
しかし、竹田のそのDVばりの怒号に、即刻かえり討ち。意気消沈、ちぢこまる。
「・・まったくどこに目ぇつけとんねん、いいか、よくきけ・・別にすべての役者を非難しているわけじゃねぇのよ、おれも・・元来俳優、または女優志望で下積みながく、歯食いしばって一生懸命4畳半の風呂なしアパートで節約生活して、飢えをしのいでいる連中はむしろ好印象、大歓迎ウェルカムなんよ・・事実、そういう役者さんは若手であってもストイックな演技派が多いようにおもう・・でもな一方で、一方でよ、ひょんなことからスカウトかなんかでたまったまデルモになって、専属雑誌?かなんか知らんけど、それを卒業したのを皮切りにエスカレーター式の進学校さながらに、役者の道にしれっと路線変更して・・そんで、とんとん拍子につまらねぇドラマで主演はって、映画でも主演はって・・演技力もねぇのにマスコミに騒がれて、世間様にもチヤホヤされちゃって・・そういう連中にいってるのよぉ!・・よぉー・・
・・ちまたもちまたで、その美しすぎる容姿に・・わぁ、可愛い♬、カッコいい♬、イケメン♬、お人形さんみたい♬・・じゃあねぇんだよ、そこの小娘ならびに小僧・・そりゃ綺麗に決まってるだろうが、そもそもデルモあがりなんだから・・顔とスタイルで選ばれた、デルモあがりなんだからぁぁぁ・・終いには、ろくにドラマや映画に見識もないミーハーなティーンエイジャーどもが・・演技うまい!、マジ泣ける!、神!・・だのデルモあがりを持ちあげるだけ持ちあげて・・そんなんだからデルモもデルモで・・あぁ、この演技でいいんだ・・おれ、あるいは私って演技派なんだ・・もしかしたら、アカデミー賞だって夢じゃないのかも・・って幻想抱いちゃうんだよぉ・・あらぬ幻想抱かせてやりなさんな・・まったく、メディアってやつぁ悪気もなくむごいことしなさる・・イケメンや美人が必ずしも正義じゃねぇんだ、な?・・そりゃデルモなら、その顔とスタイルで売っているんだからキレイなのは当たり前、それに関してはなんの文句もねぇ・・へぇ~、デルモっちゅうのはそういうもんなんだな、程度・・でもな、役者となるとそうはいかねぇ・・顔だちはさておき、とにかく演技力、それがすべての世界なんだわー、お分かり?・・役者のみなさんは、その一瞬一瞬に心血そそいで、必死こいて、演技ってやつに大マジでとり組んではるのよぉ・・その世界によ、いくら顔やスタイルがすこしいいからって・・はい、今度は演技したいんです!、って簡単に役者に路線変更できるわけねぇだろ?、常識的にかんがえて、よぉー・・それこそ役者のみなさんがたに失礼千万・・そんなんだからきょうびの若手役者は、すこし演技のできる芸人やタレントにポジション奪われがちやねん・・そんなに整ってる顔が好きなんだったらなぁ、団地デパート主催のなんの足しにもならねぇマネキン選手権にでもエントリーしてろってんだ!、このボンクラどもがぁ!・・
こうして、深夜の竹田ZAREGOトーク独演会は、結果ひとりのおなごに大きなトラウマ(心的外傷)を与え、終焉をむかえる。しかしおなごもおなごで、ここまでケチョンケチョンにいわれて流石に黙ってはいられなかったらしく、最後に竹田に捨てぜりふをのこす。
「・・ひどい、ひどすぎる、最低!・・今日、人間の最底辺と出会いました・・あなたみたいな人間は頸椎損傷して、ほんでもって下半身麻痺にでもなればいいんだわ!・・」
育ちのよさそうなおなごに、ここまでのことを言わしめたのだ、そうとう竹田に激おこだったのだろう。
とはいえ、竹田の美形批判ともとれる発言にまっこうから噛みついてきたこのおなごは、まちがいなく顔面アベレージ高めの同類であり、それはあの読モ風写メが私物であることを物語っているのだった。
以上がZAREGOトークで味わった竹田の恐怖体験の実態である。
恐怖体験おまけ①
ネットという世界を語るうえで、アダルトは決して避けてはとおれない。それほどに昨今のネットのアダルトコンテンツは充実しており、ひと昔まえのビニ本(成人向け雑誌、いわゆるエロ本)や深夜のお色気番組の比ではない。まぁ、竹田のアダルト愛はまた別の機会にかたるとして、今回はそんなネット上にあふれかえるアダルト動画を、なんとか無料でみれないかと画策した際に、竹田がおちいった恐怖体験をひとつ。
パソコンが一家に一台、お茶のまに浸透する以前の、まだ家庭用パソコンが出始めのころ。ネットでAVのサンプル動画(30秒~1分ほどの無料動画)だけは見放題の時代。竹田は下心をだし、どうにか無料で自宅のパソコンでAVの本編を見ることはできないか、両手の人差し指でキーボードをカシャカシャいわしては、奮闘していた。
・・ん~・・なかなかでんなぁ、本編は・・
ちなみにいっておくが、こんにち映画やテレビ番組を許可なくアップロード(たれ流す)するのが犯罪であるように、当時もAV本編をネット上でアップロードすることは、法律で禁じられていた。
しかし、そんなことはしったこっちゃないアウトロー竹田は、夜な夜な目玉を血走らせては、その思春期特有のとめどなく湧きあがる性欲というやつに身をまかせ、日本のみならず、中国、アメリカなどの海外の安全性のかけらもないサイトを次から次へと渡り歩いていた。(世にいうネットサーフィンという芸当である)
そんなある日のこと、どのサイトが招いた悲劇なのかいまだ原因は謎だが、おのれのパソコンを立ちあげた拍子に、画面上にでかでかとあらわれる女の裸の宣伝広告。
・・ん?・・なんじゃ、これは・・
がんばって消そうと試みるも、ウインドウの右上に決まってあるはずのバツ印がどこにも見当たらない。藁にもすがるおもいで今度はESCキーを連打するも、それもまったくもって意味をなさず。
・・やべ、消えん・・どうしょ・・
そう、これがパソコン界隈でいうウィルスという代物である。しかし、年がら年中パソコンがなにかしらのウィルスに侵されている竹田はとり分けあたふたもせず、広告にかかれた文面を淡々と音読しはじめる。
「・・ええっと、なになに・・どすけべ奥さんにご登録ありがとうございます・・お客様の会員登録が正常に終了いたしました・・ご登録日より2日以内に、お振込みいただくと通常料金¥158000のところ¥55000・・」
・・たっか!・・
「・・料金が発生しております、2日以内に下記口座に料金をお振込みください・・」
とむこうの口座番号、ほかに竹田のIPアドレス、リモートホスト、ご利用のプロバイダ、ご利用ブラウザなど、知ってるかぎりのこちらの個人情報をこれ見よがしにひけらかし、さも脅迫めいて表記していた。
・・知らん!、どすけべ奥さんなんて、わしゃ知らん!・・
そんな竹田にさらに追いうちをかけるように、残りのふりこみ期限をご丁寧にも数値化した、よくサスペンスドラマなどで見かけるみなさんご存じ時限式タイマーが、広告端にとりつけられているではないか。その初めての時限式ウィルスに、さすがの竹田も戦々恐々としながらも、身におぼえのない自信のぬれ衣を晴らすべく、この広告に記載されているメアドに軽率にも抗議のメールを送ってしまう。しかしこれが、大きな間違いだった。
後日、返信されてきたメールには、世にも恐ろしい文章がかき記されていた。
「・・私は国際的なハッカーグループの一員です・・」
・・国際的なハッカーグループ・・終わりや・・
「・・2012年4月2日から2012年6月17日まで、あなたが訪問した成人サイト、どすけべ奥さんのウェブサイトを通じて作成したウィルスに感染しました。これまでのあなたのメッセージ、ソーシャルメディアアカウント、メッセンジャーからIPアドレスをたどりアクセス出来ます・・私たちはあなたのパソコンのデータをいつでも消滅させることができます・・2日以内に我々の口座に送金することをおすすめします・・」
・・IPアドレス、消滅・・こぅわっ!・・
衝撃の展開に、貧乏ゆすりと地団駄がとまらない竹田。恐怖で晩飯もろくにのどを通らぬまま、唯一のはなし相手兼親友であるタニシやんに救いをもとめる。
「・・あぃ、もしもし・・」
「・・あ、タニシやんけ?、助けてくれ・・国際的ハッカー集団に、殺される!・・」
「・・?・・」
しかし、そんな受話器のむこうで派手にとり乱すパニック竹田を、聖母のようなみこころで受けとめるタニシやん。次第に話していくうちに、落ちつきをとりもどす。
「・・そうなんよ、おれぁどすけべ奥さんなんてサイトしらんのよぉー・・潔白なんよぉ、タニシやんだって知ってるやんー、わぃが異常性癖の少女性愛、ゴリッゴリのロリコン体質だってぇ・・熟女となんて、口もききたくないのよぉ・・」
そんななか、パソコンにも割とくわしい頭脳明晰なタニシやんがあることに気づく。
「・・でもさぁ、たぶん、たぶんだけど・・IPアドレスって警察じゃなきゃ出元調べられんよ、たしか・・」
「・・え?、そうなの?・・」
「・・うん・・」
「・・でも!、でも相手は国際的ハッカー集団だよ!?・・そんなん、一市民のIPアドレスのひとつやふたつ、朝飯前のはず・・」
「・・あと、言いわすれてたけど竹田君・・その国際的ハッカー集団って文言・・それ今、巷をにぎわしてる詐欺の常套手段らしいよ・・テレビできょうも注意うながしてたよ、最近はやってるから気をつけろって・・」
「・・え、詐欺?・・そうなの?・・」
そうしてタニシやんの助言で、なんとか被害をまぬがれる竹田なのであった。