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2 なまぽの為に


 小腹がすいたら、野草に味噌みそをつけてひとかじり。

 おれは今年で33をむかえる無職の独り身、姓は竹田。もちろん名前だってあることにはあるが、ここでは一切必要としないため省略させてもらう。黒いぼさぼさ頭にメガネで出っ歯と、容姿はいいとこ中の中。もちろん彼女なんていやしない。33年間、いたことすらない。

 そして近々、なまぽ(生活保護)をうけようかと企んでいる。働けないわけではない、バイトをすればなんとか生きていくだけの収入は得られる。でも、おれはあえて働かない。ただたんに働きたくないのだ。

 そう、いわゆる不正自給者をめざしている不届きものである。しかし、なかなか相手側の役所の職員も手ごわい。そりゃそうである、法にふれるかどうかの大事な大事な瀬戸際なのだから。

 でも、どうにかたのしく暮らしている。

 

 なまぽを受けるには4つの条件がいる。一つめは援助をしてくれる身内がいないこと。

 一緒に生活をしている人のなかに食べていけるだけの収入がある、もしくは3親等以内に生活を援助してくれる身内がいる場合はアウト。幸運なことにオレにそんな面倒みのいい親戚しんせきはいないし、一緒に生活している親も数年まえに他界、フィアンセなんている筈もなく、条件クリア。

二つめは資産をもっているか否か。貯金や土地など所有している場合は売却しなければアウト。オレはあいにく3流のアパート暮らしのため、この条件もあっさりクリア。(ちなみにパソコン所持はグレーゾーンらしい)

 三つめは月の収入が最低生活費を下まわっていること。具体的な額はわからないが、もはや働く気のないオレにとって最低生活費もクソもないので何とかこれもクリア、として。

 問題は四つめのこの条件。病気やケガなどでやむなく働けないこと。運がいいか悪いか、オレは子供のころから病気しらずのいわゆる健康優良児。ケガといってもやんちゃ坊主の勲章くんしょうともいえる、せいぜい青たん程度。収入がなくても単純に仕事がないだけでは、はたらける可能性があるかぎりは生活保護をうけられないという訳だ。オレにとっちゃ、ちいさいころから唯一の自慢だった親にもらったこの頑丈な体こそが、皮肉なことに一番のネックになってしまった。本当にこん畜生ちくしょうな制度である。

 そこでオレは考えた、どうやったらこの健康優良児ボディを、心にひと闇かかえた虚弱体質にかえることができるか。

 結論は・・無理だし、面倒。そもそも体調くずしてまで生活保護うけたくねぇ。

 そこで又も考える。どうすれば体調万全の状態のまま、国からお金をふんだくる、いやもとい、助成金をもらえる方法を。そもそも、そんな都合のいい方法があるのかどうかを。

 そして、ひとつの名案をおもいつく。それが生活保護なまぽの不正自給である。ようは「自分は体調が悪いんだ」ということを病院の先生に鼻息粗めにうったえかけ、その医師からもらった診断書を役所の職員にみせつけ、助成金をもらうという寸法である。なぜこんなずる賢い方法を思いついたかといえば、つい先日テレビのニュースでたまたま見たのだ。このやり口で国のスネをかじっている悪質きわまりない不正自給者がいるというニュースを。

・・世の中には、わるいこと考えるゲス野郎がいるもんだ・・

と思ったのがつい半月前、まさか自分がそのゲス野郎の犯罪者予備軍?をこころざすようになるとは。

 それはさておき、さっそくオレはとりかかる。まずはどうやって、医者にうつ病などの精神的な病であるとおもいこませ、診断書をゲットするか。だがこれには恐らく、2流劇団員並みの演技力が必要になる。

 そこで何度か、友達にたのみこみ予行練習をおこなうことにした。

友達(医者役)「・・こんにちは・・」

竹田(患者役)「・・こんにぢは・・」

友達「・・今日はどうなさいましたか?・・」

竹田「・・なんか最近、調子が悪いっていうか、ずっと気分がすぐれなくって・・」

友達「・・ほぉ、具体的には?・・」

竹田「・・いかんせん高齢者と接する機会がおおいんですが、ジジイババアをなかなか敬えないっていうか・・最近テレビをみていても気づけば高額納税者やセレブ気どりのママタレを罵倒ばとうしていますし・・とにかく笑顔のすてきな人間を、手あたり次第に見下してしまうんです・・」

「・・ん?・・それ、いつもの竹田君やし・・うつ病の症状とはちゃうね・・」

「・・あ、ごめん・・もっかいやらせて・・」

友達「・・こんにちわ・・」

竹田「・・こんにぢわ・・」

友達「・・今日はどうなさいましたか?・・」

竹田「・・なんか最近、体がだるいし疲れやすくって・・」

友達「・・ほぉ・・」

竹田「・・以前より騒音も気になるし、音楽をきいても楽しくなければ、飯もうまくないんです(炊きこみご飯、大好きだったのに)・・」

友達「・・そうですか・、他に症状はありますか?・・」

竹田「・・そうですね・・そういえば、朝起きると無気力のときがありますね・・ほかには首筋や肩がこりますね、それに頭痛もひどいです、あと朝はやく起きてしまいます・・事故やケガも最近しやすいですし、息がつまって胸が苦しくなることもしばしば・・人生もつまらないですし、喉の奥になにかつかえてる感じもしますね(まれに炊きこみご飯が詰まってます)・・あ、あとテレビがくそつまらないです・・それと元来、仕事熱心で几帳面な性格でもあります・・なのに、仕事がおっくうでおっくうで能率も上がりません・・それに最近いつもイライラして、議論に熱中できません(そもそも生まれてこのかた、議論に熱中したことないんですがね)・・居場所がないような気もしますね、不登校で引きこもりがちな性格だからかな・・なにをするにも自信が持てないっていうか、やろうとしたことが思い通りできなくって・・特に楽しみにしている事もないですし(炊きこみご飯をのぞいては)、誰といてもいつも独りぼっちっていうか・・嫌なことをされても気づけば黙ってることがおおいです(炊きこみご飯に無断でパイナップルいれられるとか)・・とにかく、なんか元気になれないんです・・」

「・・うん、鬱っぽくていいとは思うけど・・思いあたる節、多くね?(それに、タキコミタキコミうるせぇし)・・」

「・・そうかな?・・」

「・・うん・・」

「・・じゃ、もっかいやらせて・・」

友達「・・こんにちは・・」

竹田「・・こんにぢは・・」

友達「・・今日はどうなさいましたか?・・」

竹田「・・生活保護とかではないんですけど、少しうつ病に興味がありまして・・っていうか、このまえテレビで見て、そういう道もあるのかって思っちゃったりなんかして・・でもホント違うんです!・・どうしたら薬もらえて、診断書かいてもらえるか・・ただ、それだけなんです!・・」

「・・なんか・・急に、下手くそじゃね?・・」

「・・・・・」

 ってな具合で、特に手ごたえも得られぬままリハーサルを終えた訳だが。まぁ、しないよりはマシと前向きにとらえ、いざ本番へ。

 まずは病院の先生に、自分の体調の悪さをアピールし、うつ病のけがあることを刷りこむ。刷りこみが完了したら、いくつか薬をゲットし、そのひは一時家へ帰宅。さすがに初診でいきなり診断書をかいてとせがんでも「なんやこいつ、頭おかしいんか、われぇ?」と気味悪がれるだけだし、かえって怪しまれかねない。ここは焦らず慌てずである。

 一か月おきの病院がよいのルーティーンをただ只管ひたすらにこなし、ひとりのお医者さんのゆるぎない信頼を勝ちえていく。これに限る。しかし、それには最低でも半年はいる。

 それまでネット(インターネット)の在宅ワークの仕事と、10万ぽっちの貯金を切りくずし、なんとか食いつないでいく竹田なのであった。

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