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12 なまぽの合否
なまぽを不正自給するために半年かけてとある病院に通院しては、なにかにつけて「死にたい」を連呼し、医者にうつっけがあることを刷りこんでいった竹田。そして、ようやく待望の診断書をゲットし、いざ福祉事務所なるところにのりこんでいく。
(以前に市役所1階の生活福祉課というところで、なまぽの相談をしていた竹田は、なまぽ申請に必要な書類{身分証、印鑑、銀行口座の通帳など、もちろん書きたてホヤホヤの診断書も}をしっかり持参)
受付で「・・あの、生活保護の申請をしたいのですが・・」というと、奥の部屋へととおされる竹田。そこで、担当職員がくるのを、ソワソワ貧乏ゆすりしながら待つこと5分。
現れたのは、公務員とはいささかイメージのかけはなれた、糸目で短髪の180はゆうに超えるであろう巨人だった。
「・・どうも、こんにちわ・・」
「・・こんにぢわ・・」
ご自慢の低温ボイスをひびかせてくる巨人。
「・・本日は生活保護の申請の件ということで?・・」
「・・あ、あぃ・・」
「・・ではですね、申請するにあたっていくつか質問させていただきますね・・」
そういうと、家庭の事情やら仕事面やらプライベートなことを根ほり葉ほり、どこぞのくそジジイ並みにきいてくる巨人。その問いかけに、すかさずピンとくる竹田。
・・こ、これがあの面接・・ネットの情報ではたしか、なまぽが必須であるという熱意を担当職員につたえるのが重要とのこと・・診断書はあれど、タニシやんと特訓した成果をだすときは、いま!・・
「・・えー、家族は両親ともに他界しており、ひとりっ子で兄弟もいないということですね、わかりました・・では次に、仕事は現在どうなされていましたか?・・」
「・・あ、仕事は日雇いのとっぱらいの仕事と、ネットの内職をしていまして、毎月およそ7万円ほどの稼ぎでギリギリ生活していけてたんですが、最近すこし病気をわずらいまして・・」
「・・病気?・・」
「・・はい、これなんですが・・」
と、満を持してとりだす、書きたてホヤホヤの診断書。
「・・ほぉ、うつ病・・ですか・・」
「・・あぃ・・このせいで、仕事をしたいという気持ちはものごっつあるんですが、如何せん体がうごかなくて・・」
「・・ほぉ・・」
「・・なにをしても面白くないですし、特にYOUTUBERのガバガバ配信なんて、視界にはいっただけでもう、ゲロゲロで・・」
「・・ほぉ、吐き気が・・」
「・・あぃ・・そんで、病気のせいなのか、ものごっつ死にたいですし・・今もここにくる途中、川があったんで、そこにいっそのこと飛び込んでやろうかと・・」
「・・いけません、早まったら・・」
「・・でも、もう自分で自分がわらんのです!・・好物の炊きこみご飯以外、めしもたいして美味しくないですし・・とてもとても、仕事をやれる状況じゃないんです・・」
「・・そうですか・・わかりました・・」
「・・あぃ、そうなんです・・ものごっつ・・」
「・・もの、ごっつ・・」
そうして、みずからの思いの丈のすべてを糸目の巨人にぶつけると、いくつかの書類に記入をすませ、その日の業務は終了。彼いわく、本日から1週間以内にケースワーカーによる抜きうちの訪問調査がおこなわれたのち、後日あらためてアパートに給付の有無がかかれた保護決定通知所なるものが送付されるとのこと。
それまで、特にやることのなかった竹田は暇つぶしがてら、もよりのコンビニで151円の商品に250円さし出してみたり、ひとんちの犬に餌づけし、さも飼い主ぶってみたり、放課後の小学校にしのびこんでは、誰もいなくなった体育館の天井にはさまっているボールを落とそうと尽力してみたりして、時間をつぶした。
するとそれから3日後、約束どおりケースワーカーらしきひとりの女が、わがアパートにやってくる。女は竹田が実際にこのアパートで生活をしているのか、誰かほかにかくまっている人間はいないか、人知れずDVはうけていないか、高価な貴金属類などは隠しもってはいないかなど、その痕跡をみつけるべく女泥棒キャッツアイさながらに部屋を徹底してあさっては、タンスの引き出しのいくつかが、バカになってしまった程だった。
そしてついに、運命の日がおとずれる。
アパートの1階ポストに生ゴミをうまくよけて入っていた書類を部屋にもちかえり、ちゃぶだいに陣どる竹田。ちょうど近くにハサミやらカッターやらがなかったため、はやる気持ちをおさえながらも、力ずくで封をこじ開けようこころみるも、紙がひしゃげてなかなかうまいこといかない。緊張とあいまって、呼吸、脈ともに爆あがりのなか、非常手段としてやむなく台所にあった包丁をもちだす山姥竹田。封筒に切りこみをいれ、やっとこさ開封、いざ中身をみる。
「・・こい・・こい!、生活保護!・・」
そこには横書きで、こう記されていた。
・・上記少年に対し、本日、生活保護法に基づく保護の決定の有無を通知します・・慎重な選考の結果、貴意に添いかねる結果となりましたことを、お伝えいたします・・
・・貴意に添いかねる?・・上記少年?・・
しばし頭がパニくって、状況がのみこめない竹田。
「・・え・・これって、え、ダメだったってこと?・・え、嘘でしょ?・・」
それから紙を手に、お口あんぐりその場にたちつくす。
「・・え、なんでよ・・診断書もってったやん、うつ病って診断されたやんけ・・どうなってんねん、おぃ・・あの糸目の巨人に想いつたえて、見知らぬおなごに部屋すき勝手漁られてんねんぞ、こっちは!・・そもそも、保護決定通知書って名前で、なんで貴意に添いかねてんねん、保護の決定を通知する書類ちゃうんか、おぃぃ!・・」
そのまま衝動的に部屋をでると、千鳥足で表をさまよいはじめるHP赤ゲージの虫の息竹田。
「・・なんでよー・・なんでオレだけ不正自給でけへんねんー、ボケぇカスぅアホぅ!・・」
そう意識朦朧フラついていた時だった。不用意に公道にとびだしては、ものの見事に車にひかれる。
「・・ドン!・・」
車道によこたわりピクリともしない竹田に、運転手がおそるおそる車から降りてくる。
「・・あ、あの、大丈夫ですか!?・・あれ・・え、もしかして・・死んでる?・・」
その言葉に反射的にとびおきる。
「・・だ・・誰が、死ぬか、てやんでぃ!・・お、おなごのビーチクなめずして、し、死ねるかってんだ、どちくしょうめぇ!・・」
その後、よろめきながらも人通りのおおい駅前の繁華街へとやってくる酔拳竹田。
「・・なんでよぉ、なんで貴意に添いかねんねん・・おぃ、説明してくれよ、安倍ぇ・・安倍ぇぇー・・」
そして足がもつれると、こんどは駐輪場の自転車の列につっこんでいく。
「・・ガチャァァン!・・」
そのまま立ち去ろうとするも、なけなしの正義感が邪魔して、結局は自分でなおすハメになる人間魚雷竹田。
「・・くそぉ・・ちっくしょー、うぅ・・」
すると、その駐輪所にみずからの自転車がとめてあったのか、はたまたそんな竹田をみじめにおもったのか、理由はさだかではないものの、自転車をなおすのを手伝いにあらわれる、ひとりの可憐な色白美人。
・・え、だれ?・・無言で手伝ってくれてんの?、この子・・なんて優しいんだ・・それに、かわいい・・ってか、スキ♪・・
そうして、突如まいおりた天使の登場により、不正自給のことなどすっかり忘れ、一瞬で恋におちちゃう面食いな竹田なのであった。
現在33歳、マイブームは焚火と太極拳。貯金1万8千円と貧困まっしぐらながらも、どうにかたのしく暮らしている。




