10
10 ポルポ・ぽち枝
先ほどからちょくちょく言わせてもらっているが、ネット上にはほぼほぼクズしかいない。そんなことを断言してしまうと、ネットのちゃんねるに巣食う住民どもから、やれ「クズはお前だ」だの、やれ「ネット上の人間て、それすなわち現実の人間やろがぃ、リアルの人間やろがぃ」とお叱りのカウンターパンチをいただいてしまいそうなので、あらかじめ釈明させていただくと、ネットの人間というのは皆さんがおっしゃるとおり、そのどれもがまぎれもないリアルに実在しているひとつの生命であり、社会生活を営んでいるひとりの人間である。しかしである、そんな現実ではモラルのある真人間のおとなでも、ひとたびネットという媒体を通してしまうと、その自由さゆえにおのれでも気づいてない本性、いわば人間のきったない部分がウミのようにでてくる。
そんな人間のきったない部分が出がち、といった意味でネット上の人間は、たとえそれが人格者のお偉いさんであったとしても、圧倒的にクズの割合がたかいと、わたしはそう言っているのだ。(まぁ、かくいう竹田も、自分がクズであることにうすうす気づきはじめている)
なまいきにも中学時代に親にパソコンをかってもらって以来、ネットの大海原へと飛びこんだ竹田は、いままで数々のクズに出会ってきた。パソコン購入当初に出会ったクズはチャット上、次に出会ったクズはツイッター上、そして最後に出会ったクズはYOUTUBE配信者だった。
むろん竹田は、そのクズたちとネット上で一戦交えるわけなのだが、チャットもツイッターもYOUTUBEも竹田の揉め方はいつも一緒。
まずは竹田お得意のウィットにとんだジョークで相手の心をわし掴みにし、フランクな会話でじょじょに間合いを詰めていく。そして、半月後には信頼をかちえ、友好関係をむすぶ。しかし、しばらくすると竹田のその攻めに攻めた風雲児コメ(コメント)が、むこうのキャパ(キャパシティ=許容量)を決壊させてしまい、口論へと突入。そうして、ほとんどの場合が絶交にいたる。
しかし、さきほどから聞いていると、あれ?、なんかおかしくない?と、違和感をお感じのギャルもちらほらいらっしゃると思う。ってかそれって、竹田がチャットややれツイッターややれYOUTUBEでムダに攻めに攻めた風雲児コメなんかしてるからいけないんじゃね?、だから結果、相手をぷっつんブチ切れさせちゃってるわけであって、それって、それって、全部おまえが悪いんじゃん、とお指摘されかねない。でもそれは違う、まったくもって違う、全然違う、まるきし違う。こっちにだって言い分の一つや二つある。
というのも、わたしは問いたい。仮に仮にだ、チャットで本性をひた隠しにし、みず知らずの人間とあたり障りのないコメントのやりとりを何往復かしたところで何がたのしい?、同様にツイッター上で顔は知りえれど、その素人の人間、一般人ヒューマンと文字で波風をたてない持ちあげおべっかトークをして、むこうの完全なるイエスマンとかして何がたのしい?、YOUTUBE配信もYOUTUBE配信で、その配信者にこびへつらった、まるで宗教信者とでもいわんばかりのお手本コメントをして、その配信者のご機嫌うかがいをして気にいられて何がたのしい?
まぁはじめはそりゃ、そのお気に入り配信者に存在を認知してもらい、コメントを拾ってもらったら天にも昇る心地だろう。
それは竹田も経験済みであり、否定はしない。だが、一度コメントを読まれる喜びをしってしまうと、人間という欲望のバケモンは次回コメントした際にも、また読まれるのではなかろうか?、というあわい期待、あわよくば精神がおのれも知らぬまに芽生え、はじめは気にも留めていなかったのに、読んでもらえるなんて夢にもおもってなかったのに、そんな謙虚なへりくだったヘコヘコ低姿勢から一変、ただ一度読まれなかった、それだけのことで無視されたのではないか?、もしや嫌われてしまった?、といううぬぼれからの疎外感、あらぬ被害妄想にかられ、機嫌をそこねる。
そうして、どこぞの配信者に不毛なヨイショコメをつづけているそんなある日、その一見なんの変哲もないみずからのコメントが、配信内で物議をかもす。
おぃ、そのコメントはいただけないな・・てめぇ、〇〇ちゃんを傷つけてんじゃねぇよ!
しまいには味方だとおもっていたリスナーの皆さんからもハブられ、コメント欄の秩序をつかさどる配信者の片うで兼しもべ、モデレーターという存在にコメントを削除され、タイムアウト(一定時間コメントを書き込めないようにすること)という鉄拳制裁をされる始末。それきっかけで、配信者とのあいだに修復不能なあつれきが生まれ、おのずと足も遠のきがちになり、自然消滅になるのが成れの果て。
お分かりだろうか?、そう!、たとえ媚びへつらって気に入られたとしても、有名配信者たちも所詮ひとりの人間、ヒューマンであり、現実世界より気遣いのおとるガサツなネット上ではまず、人間関係の悪化はまぬがれ得ない。とはいえ、逆にコメントをまったくしないで、ただその配信者の配信を静観して楽しめるかといわれれば、そんなクオリティがあるはずもなく。
やはり、なんやかんや言ってもテレビには敵わない。常日頃から血尿してまで四六時中おもしろいことを考えている頭のイカれた芸人や、デビュー当初のこころざしとはまったく異なる、夢の場所とはにてもにつかない芸能界のひな壇という段差にまよいこみ、生活費を稼ぐためしかたなくその段差に執着する、荒波にもまれにもまれてきた腹くくりバラドルには敵いっこないのだ。
なぜなら、そもそも覚悟がちがう。かれらは東京の某スタジオで日夜命をかけて戦っている。おおげさな話、仮に死に場所がここになってもかまわない。死因が笑いすぎによる心臓発作でもやむなし。むしろ、それを望んでいるかと錯覚させるほどの、ストイック過ぎるつんのめりスタンスの彼ら。そんな芸の吐出した真の芸・能・人にはもはや、尊敬の念しかないお笑い大好きテレビっ子竹田。よく出歯のタレントがいうであろう「収録現場は戦場だ!、一瞬たりとも気を抜くな!」と。
ちなみに、語弊があるといけないので念のためつけ加えておくと、配信者のその全部が全部、心づかいの行き届かない、ただ私生活を垂れながしているだけの、もはや憤りしか感じないガバガバ配信というわけではない。そりゃなかには、テレビのタレントと同等に、その配信という分野にその身をささげ、荒らし(コメント欄をとっ散らかすリスナー)の挑発コメントにも柔軟に対応する、プロ意識のかたまりのような「あっしこれでメシ食っていくんでぃ」という志高き配信者がいることも知っている。
しかしその一方で、どうしようもなくつまらない、小粋なコメントなしでは目も当てられない、しょうもな配信があまりにも多すぎる。その惨状たるや否や。
ある人は初見にもかかわらず、ファンになさけ容赦なく悪態づいてくる、自称最年少アイドル。ある人はツイッターのフォローをはずした途端、まるで正気をうしなった室内犬のように、自身の生放送配信内でその理由をみみやかましく言及してくるアバズレ嫉妬女。そしてある人は、障害者というフレーズに神経質になりすぎ、以降竹田をはれもの扱いしてくる偏見差別VTUBER。ほんと、ネットの民はどうしょうもない、どうしょうもない。
しかしそんな竹田にも唯一、コメントなしでも楽しめる配信者がひとりだけいた。それがポルポ・ぽち枝だった。彼と出会ったのはちょうど3年前の肌寒い秋のゆうべのこと。たまたまやっていた当時トレンドとなりつつある生配信。そこでYOUTUBERはおろか、あらゆるサイトの素人ガバガバ配信にいいかげん嫌気がさしていた竹田の耳に、ヘッドフォン越しにとどく奈良色つよめの関西弁。
「・・ねむりガス蛙おるで?・・」
その振りきったワードセンスに衝撃を受ける。
「・・やるけ?・・側頭部殴ったったら、血ぃ噴いてしぬやろ?・・」
・・な・・なんじゃ、この人?・・
「・・痛覚死んでんか?・・」
「・・弓使いはアホ・・」
「・・目薬はもう食う・・」
そのコンプライアンス度返しの、破天荒な彼の語りくちに、度肝ぬかれる竹田。
「・・もうくんなよ、目玉ど畜生・・」
「・・やべっ、鼻くそおる・・」
「・・座布団かぶったアホにやられる・・」
「・・くされ外道が、人は寝んねん・・」
とりわけ奇をてらったわけでもなく、その自然体からつむぎだされるムダに豊富な語彙力と、たくみな言い回し。そんな誰にもこびることのない唯一無二の存在、ポルポ・ぽち枝。この日を境に竹田は、彼のとりことなる。
それ以来、不定期でやっている彼の配信を夜な夜なききあさるポルポ・ぽち枝ヘビーリスナーの竹田。
「・・やったー、ヤシの実割れた♪、手首ネジ切れたけど・・」
「・・なんやあいつ、くるぶしガンガン殴ってくるやん・・」
「・・横隔膜がキューってなってる、死ぬ、皆さん・・」
「・・大地の剣でなんで細剣やねん、なぁ・・身の丈3倍以上はある剣やろ?・・」
彼の配信はとにかく面白かった。コメントはおろか、そのゲーム画面をみずにヘッドフォンの音声のみで、ラジオ配信としてきいても遜色ないほどに。
しかしなぜだか、猛烈に人気がなかった。竹田を含む、ある一部のコアな中年男子層からの信頼は絶大なのだが、それ以外からはちっとも支持をえられず、およそ知名度のものさしとなる登録者数はわずか1万人たらず。
一流のトップYOUTUBERの登録者数が数百万クラスとして、うん十万いけばそこそこ有名なレベルの敏腕やりて配信者。だとするとポルポ・ぽち枝の1万という数字は、素人配信者の部類では、まぁまぁがんばったじゃん、とほめられる程度の配信のみではまず飯はくっていけない、落ちこぼれ3流配信者だった。
そのうえSNSなどにめっぽううとい、無骨でがさつな彼の配信にモデレーター(コメント欄の秩序をつかさどる一リスナー)はおらず、配信のコメント欄は「死ね」だの「消えろ」だの「ち〇ぽ」だの「勃起」だのポルポ・ぽち枝のアンチ(反対派)コメントで荒れに荒れ、しまいにはスパムとよばれる海外のAI(人工知能)にもおすすめアダルトサイトのURL(ネット上の住所)を好き放題はられちゃう始末。
そう、まさに彼の配信はいうなれば、衛生面のととのっていない町はずれのスラムのような、きわめて素行のわるい配信者とリスナー同士の、下品とユーモアがかみひとえに混然一体となった配信だった。
もちろん、そのきわどさからポルポ・ぽち枝アンチが数多くいたことも事実。だがその反面、リスナーのコメントは8割りがたシカト、スパチャ(スーパーチャット=ネット配信でいうところの投げ銭)に至ってはピクリとも反応しない彼の傍若無人なふるまいが、幸いにも配信通たちにウケ、一匹狼な生きざまには好感や、なかには尊敬の念すらいだくものもいた、とかいないとか。
とにかく、1万人強いるポルポ・ぽち枝チャンネルの登録者のそのほとんどが、カルト宗教信者のような熱烈ぶりだった。しかし、そのくせ強めの性格ゆえに、リスナーともめることもしばしばだったポルポ・ぽち枝。
あるときは、ゲーム実況を主としているポルポ・ぽち枝が、ある有名RPGゲームを途中で投げだしたことに憤慨したリスナーが、彼のツイッターのDM(ダイレクトメッセージ=メールのようなもの)に異を唱える文面をおくったことが発端。それに対し、われらがポルポ・ぽち枝も負けじと、カバがシカ食ってる捕食グロ動画をおくりつけ、応戦。(いざこざの結末は不明)
またあるときはアップロードやインストールなど、ゲーム実況にはつきものの待ち時間。その合間に各実況者、リスナーを飽きさせないよう趣向をこらし、自家製のシャレオツ画像をいちからつくりパソコンの壁紙にし、世間話などで場をつくろうなか、こともあろうか我らがポルポ・ポチ枝は、ネット上におちていたであろう「リバーウエスト上新城」という、躊躇なくポストに生ごみを詰めまくっちゃうような外国人が多数住みついている、みずからの現住所でもあるアパートを、プライバシーおかまいなしに壁紙にする大物っぷり。
そしてまたあるときには、クリア済みのゲームを2度3度楽しめるようにと、一定の決まりをもうけることで難易度をあげ、同ゲームにあらためて命を吹きこむ、いわゆる縛りプレイ。みな、RTA(何時間でクリアできるかスピードを競う縛り)や、ノーダメ(一切ダメージを受けない)クリアなど王道の縛りをするなか、ポルポ・ポチ枝、彼だけは世紀末縛り(放射能の蔓延した世界で、外に30分以上いてはいけない)や、モンスター歯抜け縛り(仲間にできるモンスターは歯が大部分ぬけおちていて、お粗末な人相のモンスターのみ)など、聞いたことのない、一風変わった独自の縛りをつくりあげ、リスナーたちをいい意味で翻弄。
しかしそうはいっても、ポルポ・ぽち枝もゲーム実況者のはしくれ。リスナーにいくら「ばか」や「キチガイ」や「おれの裏〇ジ舐めろよ」など罵詈雑言をあびせられても、なんだかんだ最後にはきちんと、ゲームをクリアする。(ただし、ハマったゲームに限る)
そのクリアの仕方も、よく私ども素人がやりがちな、ごくごく平凡になんの山場もないままクリアしてしまう退屈プレイングではなく、普段からほとんどレベル上げをしないせいか「・・え、このレベルでほんとにクリアできると思ってんのか、おまえ?・・」「・・いや、そのレベルと装備では100%クリアは無理なので、そろそろまじめにやってください・・」などと言われてしまうような低レベルで、毎回命からがらラスボスまでたどり着いては、無謀な戦いをいどむポルポ・ぽち枝。(本人いわく、特に縛っているわけでもなく、ただ普通にゲームをやると、どうしてもRPGはレベルが低くなりがち、とのこと)
でもそんな低レベルで、たとえリスナーに見放されようとも、結局は試行錯誤のすえに、針の穴をとおすような攻略法をみずから編みだし、それを実践しクリアしてしまう。
ときには日をまたぎ、10時間をゆうに超えることも。しかし、いくどとなき死闘の果てについにはミラクルをおこし、リスナーを感動させがちのポルポ・ポチ枝。その奇跡と呼ぶにふさわしい彼の神がかったプレイングには何度おどろかされたことか。
無骨で不器用、だがちゃんと結果をだし、やることはやる男、それがポルポ・ぽち枝。興味のある方はぜひ一度、実在するやもしれぬ彼の配信をその目で、そのまなこで見ていただきたい。
最後に数あるかれの異名と口癖、ときおり発する母国語?、それから収まりきれなかった彼のたましいの叫びを、可能なかぎりエピローグがてら紹介しておく。ちなみにポルポ・ぽち枝の名前の由来はよくわからないが、ポルポはイタリア語で「たこ」という意味らしい。




