#2 まずは『のぞみ』で
僕は、16:00姫路発の、『のぞみ』に飛び乗り、自由席に腰をおろした。
平日の下りだけに、乗車率はかなり低い。
のぞみで岡山に行き、山陽本線に乗り換え、倉敷駅には16:48に到着予定だ。
姫路から岡山までは、僅か21分の距離。
考えてみれば、木更津にある自分の自宅から都心の会社までの通勤時間よりはるかに近いことに拍子抜けする。
僕は、車内販売で缶ビールを買い、渇いた喉を潤しながら倉敷に着いてからのルートをシュミレーションしようとした。
今日中に、木更津にある自宅に戻らねばならないため、倉敷滞在は18:30まで、と言う時間制限がかかっている。
しかし…僕が頭に浮かべる倉敷の町は、中学時代の自転車移動が前提となっているため、どうにもタクシーでの移動時間が読めない。
行きたい場所は、山ほどあるのだが。
大体のルートを考えておき、後はタクシーの運転手さんに相談だな、そう得心して、ややこしいことを考えるのはやめた。
そうして、この旅の成否は、タクシーの運転手に力量に預けられることになった。
「それもよかろう」
僕は、一人呟き、後ろを確認してからシートを倒し、窓を流れる風景に目を凝らした。
それにしても、どうして、僕は、自分の生まれ故郷に、23年もの間来ようとしなかったのだろうか。
両親が、倉敷を離れてしまっていると言う理由は半分は正解だろう。
だが、新幹線代が高いことを割り引いても、学生時代や、就職してからの独身時代に、来ようと思えば、いつでも来れたような気がする。
なぜだろうか。
僕は、流れる景色が、緩やかに溶けてゆくのを心地よく感じ始めていた。
「まもなく、岡山に到着致します」
車内放送が、虚ろな僕の意識を呼び戻した。
岡山から倉敷に向かう車中では、久し振りに倉敷の空気を吸える、そんなワクワク感に胸が弾んだ。
もうすぐ、僕は、23年振りに生まれ故郷に降り立つ。
倉敷の街並みは、僕をどのように受け入れてくれるのだろうか。