1項:神のミスと提案②
「……ミス?」
雄一は思わず聞き返した。神のような完璧な存在がミスをするという事実が信じられなかった。
「いやぁ、たまにはあるんだよ。私も完璧じゃない。特に最近は、ちょっと疲れが溜まっていてね……。君が事故に遭う予定は本来なかった。私の凡ミスだ。」
神は肩をすくめながら言い訳がましく微笑むが、その目には本当に申し訳ないという気持ちが滲んでいた。
「それで……僕は死んだってことですか?」
「うん、正確に言えばそうだ。でも、ただ死んだだけじゃなく、私が君をここに連れてきたんだ。だから今は、生死の狭間にいると思ってくれ。」
「……そんなこと、言われても……」
雄一は自分が死んだという事実と、この得体の知れない状況を受け止めきれずにいた。だが、神は静かに頷き、真剣な表情で続けた。
「もちろん、君にそのまま泣き寝入りをしてもらうつもりはない。私としても、償いをしたいと思っている。」
「償い?」
「そうだ。二つの選択肢を用意した。一つは、君を元の世界に戻すこと。ただし、事故の影響で体に負った傷や後遺症はそのままだ。それを受け入れて現世に戻るかどうかは、君次第だ。」
神の言葉を聞き、雄一は唇を噛んだ。元の世界に戻れるなら喜ぶべきだろう。だが、あの仕事漬けの生活に戻ることを想像するだけで、心が沈む。
「そしてもう一つは、君に新しい人生を与えることだ。異世界でね。」
「異世界?」
「うん。君が想像するような、魔法や冒険があるファンタジーな世界だよ。ただし、君には特別な力を授けよう。『一日一回、何でも創り出せる力』だ。」
神は自信ありげに言ったが、雄一は眉をひそめた。
「何でも……ですか?」
「そう。剣でもパンでも、城でも。もちろん制限はあるが、基本的には君の想像次第だ。どうだい? 少しは興味が湧いてきたかな?」
神はどこか子供のような笑顔を浮かべたが、その奥には深い意図が隠されているようにも感じられた。雄一はしばらく黙り込んだ。
「どうする? 現世に戻るか、新しい世界でやり直すか。君が選んでいい。」
迷いがなかったわけではない。だが、雄一はこれまでの日々を思い出し、異世界という未知の選択肢に惹かれている自分に気づいた。
「……異世界での人生、試してみます。」
雄一がそう答えると、神は満足そうに頷いた。
「いい選択だ! 君の力がどんな風に世界を変えるか、私も楽しみにしているよ。」
その瞬間、眩しい光が空間を包み、雄一の視界は真っ白になった。耳元で、神の穏やかな声だけが残った。
「さぁ、新しい人生を楽しんでおくれ——」