05:登録
少し青っぽいコンクリートの壁に白い蛍光灯のような細長いライトが照らされている、質素な空間。ただ、その中はやけに広く、かなり混みあっているようだった。
これが受付なのだろうが、ここら辺はイレブンレガシーには無かった表現だ。新鮮な感覚を味わいながらも、背もたれの着いた長椅子に腰をかける。
30分と言っていたがその間何をしようか。
他にすることもないし、このまま流れでも見ていようか。そう考えていたところだった。
「セカイ様。受験合格者のセカイ様はいらっしゃいますか、8番窓口までお越しください。」
不意に名前を呼ばれる。
はたと顔を上げ急いで向かう。向かえば、クリーム色の髪をショートにしたベレー帽を被った少女が受付窓口に立っていた。
「受付のリーアです。本日は試験合格おめでとうございます。それではこれから、適性検査を行います。こちらの《彗晶》に手をかざしてください。」
そう言って受付が差し出してきたのは、電子的に掌の形が表示されたアクリル板のような透明な板だった。
その下にはゴツゴツとした機械が置かれ、機械の中心には白紫色に光る円形の照明のようなものが取り付けられ、その板は何に支えられる訳でも無くそこに固定されていた。
コードに繋がれたその機械に、ゆっくりと手を置くと、青白い光の横線が下から上に、上から下にと何かを読み取るかのような動きで行ったり来たりする。
10秒あったかそれくらい経てば、光の線は消え、一瞬だけパチンと光ると受付から「手を離してください」と指示が出される。
それに従い、手を離すと、読み込みマークがくるくると回り、またもパチンと一瞬だけ光る。
そうすると機械からかは分からないが、空中に打ち込まれるようにして文字が羅列されていく。
《名称、セ#カイ###?の検査結果を発表。結果は、《魔闘士》。》
《魔闘士》、イレブンレガシー内で、最も多い職業と言われ、スキルや、剣術以外にも、魔法系スキルを使える職業の武器を使えるため、ゲーム内では1人で10役と謳われる程の利便性の高い職業だったのだ。
ただし、メインウェポンは剣なので、その他の武器は、ステータス補助とメインスキル1つのみしか使用できないので、本格的に全ての武器を使うとなれば、アカウントを複数作成する必要があるだろう。
「《魔闘士》ですね……あれ、名前が……?」
受付が不思議そうな顔をするので名前を見てみると、何故か文字化けしているようだ。
コンピューターの不具合だろうか。
ただ、魔法的な力で動いているだろうこの機械がバグなど起こすだろうか。
「……古い品ですので、誤作動でしょうか。ともかく、適性は出てきましたので良しとしましょう。それにしても珍しい職業ですね。」
イレブンレガシーではかなり人気で沢山いたのだかな。
まあ本来は選べるものでも無いはずの職業を選べた上で沢山いただけなので、珍しい職業だったとしてもおかしくは無いだろう。
「ここ15年は出てないですからね、期待してますよ。」
にっこりとそう言うと、一拍置いて下からすっと書類を出してくる。
「ではこちらに、契約のサインをお願いします。」
ずらりと文字が並ぶ書類の一番下に1本、長い線が引かれている。
書いてある内容としては、お前が死んでも責任は取れんよくらいの事だ。
俺は迷うことなくセカイの名前を書く。
それを受け取ると、窓口の上部に取り付けられた取っ手を掴み引き下げる。
出てきたのはアクリル板のような透明な板だった。
窓口と言うからにはそれは窓なのだろうが、どこか仄暗い光を纏っている。
その板をポチポチと押す素振りをすると、俺が署名した紙をぺたりと貼り付ける。
そうすると、紙の端から青い炎が灯り、一気に燃えて消える。
「はい、受理されました。《星盟書》はお手元の排出口からの受け渡しですので、少々お待ちください。」
そう言われ、少し待つと紫色の光が電子的に1点に集まっていき、カードのような形を作る。
そこに白紫色の粒子が集中していくと、気がつけば少し紫の光を反射する銀色のカードが出来上がっていた。
「登録が完了しました、依頼の受注は明日からとなりますので本日は一度ご帰宅いただき、ゆっくりとお休み下さい。本日はお越しいただきありがとうございました、お気をつけてお帰りください。また明日会いましょうね。」
にっこりと掛けられたその言葉に、俺も少し微笑み返事をすると、言われた通り一度帰ることにする。
色々と今後の方針を決めなければならないからな。
俺は元きた壁を潜り、《聖部》を後にする。
外に出ると、一度体を伸ばし《星盟書》を確認する。
《星漂者登録証明書》
名称 : セカイ
職業 : 《魔闘士》
Lv : 1
ランク : 盾
登録聖部 : 《一式聖部》
どうやら《星盟書》はイレブンレガシーとあまり変わらないようだ。名前は自分で書いた文字がそのまま印字されているようだが、それはイレブンレガシーではなかった要素だ。
そしてランクだが、こちらもゲーム内でのランク分けと変わらないようだ。
その内容なのだが、下から「盾」「剣」「爪」「牙」「龍」「伝説級」「神話級」と言った感じだ。
そして、1番気になるところなのが、ステータスが確認できるのかと言ったところだ。
今のところ視界に変化は無いが、念じると見れる仕組みなのだろうか。
少し念じてみる。
すると、目の前にくるくる回ると読み込みマークが出てくる。回転の中央にloadingと表記されているこの読み込みマークはイレブンレガシーでもステータスの読み込みに使われていたものだ。
すると視界の下に白い線が現れ、その上にはDownloadの文字。初めてステータスを開く時に必ず出てくる読み込みバーである。
どうやらシステム的な構造はあまりかわらないようだ。
Download……
complete.
文字の表記が変われば、ブワッと広がるように文字が視界に現れる。
名称 : セ#カイ###?
職業 : 《魔闘士》
Lv : 1
現在世界 : 第1
《ステータス》
HP : 1206
攻撃力 : 524
防御力 : 252
クリティカル率 : 12.3%
クリティカルダメージ : 163.3%
《スキル》
《魔斬》
《螺旋斬》
《魔甲盾》
《オートスキル》
《パリイ》
『実績』
獲得数 : 未獲得
《《魔神器》スキル》
《朧風》
《空薙》
《装備》
《幻影の鎧》
《幻影の篭手》
《幻影の臑当》
《朧剣》
見た感じ名前が文字化けしていること以外は変わらないな。その上、右上には時間と箱のようなマーク、手紙のマークがある。
手紙のマークは通知だろうか。ゲームと全く同じだ
箱のようなマークはアイテムを見ることが出来る。
時間はまあまんまだが。
「――」
ステータスを眺めていると何か砂嵐のような音が聞こえてくる。
辺りを見渡してみるが、何も無い。他にこの音に気がついているものもいないようだ。
砂嵐のような音は、段々とキーンと耳障りな音に変わって行く。
何か、ラジオの周波数を合わせているような、不思議な音だ。
そして、ピッと何か電源が入るかのような音が聞こえてくると、不意に頭の中で声がした。
「――バグを検知しました。修正します。」
女の声だった。どこか透明感のある澄んだ声だった。
無機質な音のような、感情的では無い声だが、温かく包み込むような優しい声だった。
その声の後、俺の名前が一瞬消え、気がつけばセカイの文字が正しく直されていた。
「この世界を、どうか、楽しんでください。漂着者様。」
声の主は、最後にそっとそんなことを言って、ピーという機械音と同時に声が途切れる。
どういうことか理解はできなかったが、なにか、この世界に祝福されている気がして、少し軽やかな気持ちだ。
俺は《星盟書》をしまいこむと、足取り軽く、拠点となる城に向かうのだった。