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6.神シャツ



 私は部屋に戻り、ベッドに飛び乗ってからうつ伏せになった。


「あああっ、もうっ! 好きな人と同居って最高!! 降谷くんと毎日一緒にいられるなんて幸せ。あぁぁっ、降谷くん大好きっ!!」


 ボフッ……、ボフッ……。

 興奮が抑えきれずに両手で交互に枕をパンチしながら甘い妄想にひたる。

 彼が顔を接近してきたことや、おひめさま抱っこをした時のことを思い出すだけでよだれが噴水のように湧き出てきた。


 降谷くんが家に来てから3日目でこんなにお近づきになれるなんて、遠くから眺めていたおとといまでが遠い過去のよう。

 5回フラれた時や、お弁当箱を振り払われた時はなんか嫌な奴って思ったりもしたけど、こんなにハッピーな未来が訪れるなんて思いもしなかった。


「筋肉質のたくましい体に抱きかかえられる日が来るなんて。学校中の女子に知られたら羨ましすぎて嫌がらせされちゃうかも。……えへへ、これも同居の特権よ。いつかは絶対降谷くんの彼女になって見せるからね! 私も女を磨かないとっ!!」


 勢いあまって枕にチューチューしていると、突然部屋の扉が開いた。

 そこでひやりとした空気を感じて扉の方に目を向けると、母が呆れた顔で立っている。


「……あんた、なにやってんの」

「えっ、な、なんもっ……。(やばっ!! いまの絶対見られたよね)で、私になにか用事?」

「洗濯物を畳んでくれない? お母さん、いまからちょっと買い物に行ってくるから」

「えーーっ、この時間に? もう夜の7時半だよ」

「ごま油を切らしちゃったのよ。近くのコンビニ行ってくるから洗濯物をよろしくね」

「はぁ〜い……。いってらっしゃ〜い」


 渋々とした足取りでリビングに行くと、ソファーには洗濯物が山積みになっている。

 テレビリモコンのスイッチを入れて洗濯物の横に座って畳み始めた。

 ところが、3つ目の洗濯物を手に取ると1つだけサイズ感が違う。

 これはもしやと思い両手に持ってバッと広げると、それは降谷くんのワイシャツと判明する。


「こ、これは……。降谷くんのワイシャツ。いや、彼シャツならぬ神シャツだ!」


 家族や彼女以外触れることのない降谷くんのワイシャツ。

 ここに置いてあるということは、私が触ってもいいっていうことだよね。

 お母さんも洗濯物を畳んでって言ってたし、私に委ねてもいいんだよね。


 とりあえず控えめにクンクンと匂いを嗅ぐ。

 だが、次第にその香りがやみつきになり、遠慮や警戒というものを忘れて顔面に当てて掃除機のように香りを吸い込む。


 んん〜っ、柔軟剤の奥には降谷くんの香りがちゃぁ〜んと残っている。

 さっきおひめさま抱っこしてもらった時に鼻をくんくんさせたから降谷くんの香りはインプットしたもんねぇ。

 あ、そうだ! 

 彼シャツに憧れてたから袖に手を通してみよっと。

 私はワイシャツを一度広げて手を一本ずつ通すと、ブカブカのワイシャツが身を包んだ。


「うふふっ。幸せ!! 彼シャツってこ〜んな感じなんだね。まるで降谷くんに抱きしめられているみたぁい。一緒に暮らしてるうちに降谷くんが私の魅力に気づいてこのシャツのように私をぎゅーっと抱きしめてくれたりして。きゃあああ!」


 胸の前に手をクロスさせて頭の中はほわほわとピンクの妄想劇の続編が始まると……。


「あのさ、俺のワイシャツを襲うのやめてくれない?」


 リビング扉の前から降谷くんの呆れた声が届いた。

 おそるおそる目を向けると、想像通りの表情がそこに。


「あは、あはは……。いまの見てた?」

「冷蔵庫に飲み物を取りに行こうと思って部屋を出た時にリビングからブツブツとひとりごとが聞こえてきたから、何かと思って聞いてたら……」

「え、えへっ。空耳だと思ってくれれば……」

「…………は? あ、はぁ……。もう二度と畳まなくていいから俺のワイシャツを返して」

「はい……」


 彼は私からワイシャツをぶんどると、「はぁぁ……」と深い溜め息をつき、頭を抱えたまま部屋へUターンしていった。

 えへへ……。

 だって、さっき降谷くんがおひめさま抱っこなんてしてきたから好きが止められなくなっちゃったんだもん。

 半分は降谷くんの責任だからねっ。



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