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16.キレーな髪



 ーー同日の夜11時。

 お風呂に出た後に机に向かう。

 降谷くんに似顔絵コンクールに参加すると宣言した以上、描きたくなくても描かなければならなくなった。

 自業自得なのだが、絵が得意じゃない分、このプレッシャーは半端ない。


 まずは下絵と思い、スケッチブックを机の上に用意して鉛筆を握る。


「はぁ〜あ……。誰の似顔絵を描こうかなぁ」


 りんかにモデルを頼んでみる?

 ううん、バイトが忙しいから断られるに決まってる。

 お母さんに頼んでみる?

 ううん、母の日のイラストじゃないんだからそれは嫌。全校生徒に笑われるのがオチでしょ。


 じゃあ……降谷くん?

 あーっ、無理無理! 見つめられてるだけでもキュン死するのに、意図的に見つめるなんて全校生徒に知れたら抹殺されちゃうよ。

 あっ! でもお絵描きくらいならいいかな。

 ちょっと練習程度に。


「降谷くんは〜、金髪で〜、くりっとしたぱっちり二重で〜、ぽってりとしたあひる口……っとぉ。うわっ! そうそう、こんな感じ。そっくり〜。私ったら天才! 隣には私の絵を描いちゃお! あっ、もしかしてこの紙を縦半分に折りたためばお互いの顔が重なってチューできるかも? よぉ〜しっ!! 似顔絵のみつき、待っててねぇ〜。いまから降谷くんの彼女にしてあげるからね!」


 私は鉛筆を滑らせながら自分の似顔絵をリアルかつ美人に仕上げていく。

 降谷くんに見劣りしない女にしてあげようと思いながら、線一本一本に幸せな願いを込めて。



 ーーそれから30分後。


「完成〜〜!! うんうん、二人とも上手に描けてる。美男美女でお似合いカップルじゃん。やだ私ったら絵のセンス抜群じゃないの?」


 クスクスと笑いながら肩を揺らし、スケッチブックから切り離した画用紙を縦半分に折りたたんで、角度がズレないように慎重に念願のチューをさせてみた。


「いやん。二人ったらラブラブぅ〜っ。イラストだけでもハッピーにしてあげなきゃね! ちゅぅ〜うっっ!」


 頭の中がすっかりピンク妄想に染まっていると……。

 突然、トントンとノック音が耳に届いた。

 直後に「みつき、起きてる?」と扉の外から降谷くんの声が!

 その瞬間、冷水を浴びたかのようにサーッと顔面蒼白に。


 まっ、まずい……。

 画用紙のイラストの降谷くんと私がチューしてるところを本人に見られたらドン引きされるよ。

 絶対絶対、見られちゃだめ!

 私は絵を見られないようにその上にうつ伏せになり、目を閉じて寝たフリをした。

 すると、ガチャッとドアノブをひねる音がした後に足音が接近してくる。


「入るよ。さっき買った色鉛筆お前が持ってったっけ? ……あれ、寝てる」


 画材屋で購入して後で渡そうと思っていたオレンジと赤と黄緑の色鉛筆が、袋に入った状態でいま私の隣にある。

 なぜなら私のエコバックに入れてたから。

 さっき描いたばかりのイラストを体の下敷きにしたけど、降谷くんはまさか私を起こしたりしないよね?

 私が起き上がった隙に見られてしまったら恥ずかしくて死んじゃうよ!!


 ドッドッドッドッ……。

 後ろめたい気持ちと恥ずかしさから心臓が狂ったように爆音をたて始めた。

 近づく足音。

 感じる気配。

 恐怖のオンパレードが背筋をゾクゾクと奮い立たせていく。

 起こされた挙げ句に下敷きになってる画用紙に興味を示されたらどうしようかと嫌な妄想が頭の中をぐるぐると駆け巡っている。


 早くっ……、早く色鉛筆を持っていってぇ〜〜っ!!

 心の中で叫びながら彼が部屋を出ていくことを祈り続ける。


 ーーところが、気配が最も接近した時。

 彼は私の毛束をすくってサラッと手ぐしを通した。


「キレーな髪…………。触れた時からずっと思ってたけど」


 呟くような声が聞こえた直後、真隣でカサッという音がしてから気配が消えていき、扉が閉まった。

 彼が部屋から出ていったことを耳で確信し、顔を上げると真隣に置いてあったはずの色鉛筆の袋が消えていた。

 次第に彼の言葉が現実味帯びていくと、体が飛び跳ねたくなるくらい軽くなって、飛び込み台からプールに着水するような勢いで布団にダイブ。


「ひゃあああっっ!! 降谷くんが私の髪を触って『キレーな髪』だってぇぇ。しかも、触れた時からずっと思ってたって!! それって、それって、それってぇ〜!!」


 うつ伏せになって興奮したまま両拳を交互に布団に叩きつけた。


 今日は激動の1日だった。

 でも、今まで一切手に届かなかった降谷くんをより身近に感じた1日でもあった。



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