プロローグ 魔女に産まれた私
私はただの子爵の3人娘のうちの1人。
でも、普通とは少し違った
─────魔女
魔女、それは歴史上本当に実在した種族。
ある時は人間に手を差し伸べ、ある時は人間を襲い、ある時は世界を征服しようとした。
力あるものに人間達は恐怖し魔女を魔物と同等と謳い、人間と魔女とで戦争が起きた。
そして勝利した人間は魔女を徹底的に根絶やしにした…というのが歴史である。
だが、そんな歴史から200年後、私が産まれた。
初めて魔法というものを使ったのが4歳の時、食事に嫌いなものが入っていて抵抗してメイドの持っていたフォークを魔法で飛ばしてしまったのが始まりだ。
それからは私は魔物を見るような目で見られるようになった。
メイドには奴隷のように虐げられ、父には何度も叩かれた。
子爵家に魔女が産まれた…と、知られれば家は潰れるだけでは済まず、もしかしたら家族諸共死罪の可能性だってあるのだ。
腹違いの姉2人は私の事情は知らなかったが虐めていいものと認識したのか私を虐めに虐め抜いた。
「この役立たず!何度言ったらわかるの?ここ、ここよ。ここに埃があるの、もしかして頭だけじゃなくて目も悪いのかしら」
耳が痛くなるような笑い声が響きわたり私は蹴り飛ばされ姉のヒールが私の腹に食い込む。
─────くそ、こいつらに反撃出来れば。
その長い髪を引っ張り今まで言われたことを言い返せれば。
────でもそんなことは出来ない。
それをしたら更に父の反感を買い事故と称して私は殺されるかもしれない。
我慢するんだ、自分一人で…自分一人で生きていけるその体になるまで。
だがそんな私に好機が訪れた。
このアークウィン大国の第4王子、エリオット・アークウィンが私に婚約を求めてきたのだ。
いつ私を見たのか、いつ私を気に入ったのか、もしかしたら表向きの私の誕生日会にでも見かけたのだろうか。
でもそんなことはどうでもよかった、王子に顔を合わせるのに汚い面は見せられないと私は初めて丁寧に綺麗にされた。美味しいご飯、綺麗な服、綺麗な部屋を与えられた。
父も罵詈雑言を浴びせることはなくなり優しくなったのだ。
姉達も私を恨めしく見ながらも父に言われたのか私をいじめることはなくなった。
家族と離れ王子と散歩やお茶をするだけで、それだけで…幸せだった。
初めて楽しい、嬉しい、そんな思いを沢山味わえた。
でも、でも…そんな幸せはすぐに終わりを迎えた。
「ごめんなさいね?エリオットは私の事が好きみたいなの」
「聞いたよ、君はいつもリタをいじめてたんだって?家族をいじめるなんて…そんな非道なことをするような人だとは思わなかったよ。」
エリオットの誕生日会で長女のリタはエリオットと腕を組んで現れた。
──────私はきっと忘れない
冷たい目で私を見下ろすエリオットの顔も。
ニヤリと勝ち誇ったように笑う姉も。
──────忘れることなんてないだろう
「違う、私はやってない…!私は…!」
「うるさい!!よくもこの僕を騙してくれたな…!リタは洗脳されてた僕を救ってくれた…!こんなに優しい素敵な彼女を…そんな彼女をお前が…!」
私の言葉を一蹴し憎しみの籠った瞳で見つめてくる。
彼は、私の言葉に聞く耳なんて持たなかった
ついに私は家から追い出された。
エリオットの誕生日会、つまりは王族貴族が集まるパーティで問題を起こしたとされたからだ。
勝手に事を起こしたのは姉なのに、なぜ私が殴られないといけないのか。
ただの穀潰しの魔女である私はもう用はないらしい。
「この国から出ていけ!!もう二度と顔を出すな!!」
国から出るための金を投げつけられ私は締め出された。
「バカみたいだ」
ただ魔法が使えただけなのに。
私が何をした?人を殺したわけでも征服しようとした訳でもない、地獄から抜け出したくて必死にもがいていただけなのに。
どこにもぶつけられないその怒りを拳を握ることで耐えていた___その時。
忌々しい凛とした弾んだ声が後ろから聞こえてきた。
「あら、お姉様に男を取られた可哀想なリリー」
「……リマ」
次女であるリマが煌びやかなドレスを着て立っていた。
「可哀想に、追い出されたの?まぁそうよね、お父様激怒してたもの。家の恥はさっさと消えなさいな」
「…そうするつもりよ」
リタの横を通り過ぎようとした時
「あのふしだらな女のように野垂れ死んでしまえばいいわ、あははは!無様だったわよ、牢屋で痩せぼそって最後は餓死!あはは、滑稽ね!」
令嬢とは思えない笑い声が響きながら屋敷の扉が閉まる音がした。
───あの女のように?
「お母様」
私を産んだお母様は…病で死んだと言われていた。
違う、違うのだ。
私を産んだ母はきっと私が魔女だと判明した時__。
「なら、なぜ私は一緒に殺されなかったの?」
そんなこと分からない、分からないけど。
────あなたは悪くないわ、私の可愛い娘
幼い私の手を握る優しい母は。
苦しんで、助けを求め__死んで行ったのだ。
「…いつか必ず」
私はこれでも負けず嫌いなのだ。
いつか必ず、いつか__絶対に。
あぁ、嫌だ。
姉達の笑い声が耳に残っている。
────私はその日のうちに家を出た