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4)小さな姫と小さな王子

 部屋の中ではコンスタンサ王弟妃殿下の私的な茶会が開かれていた。客人として招かれている旅芸人の面々は、場違いな雰囲気に緊張しつつ、全員が大人しくしていた。


 本日の主役の一人のためだ。大人たちはできるだけ静かに、何も気にしていないように振る舞った。


 コンスタンサのスカートを、本日の主役の一人の小さな手が掴んでいる。小さな顔がのぞいてまた隠れた。気づかないふりを続ける大人たちに安心したのか、先程よりも大胆に小さな顔が出てきた。


 たまたま目があったトニアは微笑んだが、小さな顔は慌てたように引っ込んでしまった。しばらくしてスカートの反対側から顔が覗いたが、エステバンをちらりと見て、今度はコンスタンサにしがみついた。

「フロレンティナ、どうしたの」

スカートに隠れている娘フロレンティナに、母コンスタンサが微笑むが、小さなフロレンティナ姫は、コンスタンサのスカートに顔を押し付け周囲を見ないようにしている。知らない大人たちを視界から消したところで、相手が居なくなるわけではない。幼い姫君にはまだそれがわからないのだろう。一生懸命になっている小さな背中が可愛らしい。


「ライムンド殿下がお越しです」

従者の先触れに続いて、ライムンドが現れた。

「ライ」

コンスタンサにライムンドが微笑む。微笑んだライムンドが伸ばした手に、コンスタンサのスカートから出てきたフロレンティナが、よちよち歩きで飛び込んだ。


 ライムンドに抱き上げられたフロレンティナは、途端にしげしげと大人たちの観察を始めた。

「ライと一緒なら安心だから大胆になったわね。フロレンティナ」

コンスタンサの言葉に、隣に座ったライムンドが頷いた。


 ライムンドの膝の上のフロレンティナは、コンスタンサの言葉通り、堂々と大人たちの観察をしている。

「首が座って、寝返り打つようになられてなぁ。伝い歩きもお可愛らしいと思っとったら、よちよちとお歩きになって、ますますお可愛らしくてなぁ」

すっかり好々爺となったクレトの笑顔に、一座の男たちが顔を見合わせた。


 期待に満ちた男たちの様子に何かを察した護衛が、小さく首を振った。クレトが別人になるわけがない。無駄な期待をした男たちにエステバンは苦笑した。


「それにしても、本当にライムンド殿下にそっくりでいらっしゃいますね」

エステバンの言葉に、若い両親が微笑む。

『私の子供の頃を知る人たちが、懐かしがっている』

「とくにシルベストレ陛下がね、よちよち歩きで一生懸命ついてきて、あの頃は可愛らしかったのにと、何度もおっしゃるの」

兄の言葉を紹介されたライムンドが苦笑した。


「やっとフロレンティナも慣れたみたいですから、ルシオに会いに行きましょうね。フロレンティナ、あなたの弟をお客様にお披露目しましょうね」

母コンスタンサの言葉に、フロレンティナがご機嫌な声を上げた。


 隣の部屋の揺りかごの中で赤ん坊が眠っていた。

「おやまぁ、ライムンド殿下。またお可愛らしくなられましたな」

揺りかごの中で、ライムンドそっくりの赤ん坊が眠っていた。フロレンティナが生まれたときと同じエステバンの言葉に、また笑いが広がる。


『見せたい絵がある』

ライムンドの合図で、壁にかけられていた布が外された。


 エステバンは息を呑んだ。


 フロレンティナがいた。懐かしい姿にエステバンは言葉を失った。

「フロレンティナ様よ。ライのお母様の。私たちも真似をしてみたの」

絵の中で、フロレンティナが微笑んでいた。膝の上に赤ん坊が座っていて、反対の膝に得意げな幼児がつかまり立ちをしている。

「赤ちゃんの頃のライと、シルベストレ陛下は今のフロレンティナよりも、少し大きくていらっしゃる頃よ」

「あら、まぁ。ライムンド殿下は本当にお変わり無くと申し上げますか、三人ともそっくりでいらっしゃいますこと」

トニアの言葉に、また笑いが広がる。


 もう一枚の絵には、コンスタンサとライムンドが並んで座っていた。ライムンドの膝の上には、二人の娘のフロレンティナが座っている。コンスタンサが抱いているのは赤ん坊のルシオだ。


「シルベストレ陛下とエスメラルダ陛下も、よく似た肖像画があるのよ」

コンスタンサの声に、フロレンティナが喃語なんごで返事をしている。

「今度はシルベストレ陛下のご一家と一緒の肖像画にする予定なの。フロレンティナも楽しみね」

わかっているのかいないのか、喃語なんごを喋るフロレンティナはごきげんだ。


「姫様がかけっこできるくらいに大きくなるまで、じじも元気でおりますからな」

クレトの言葉に、フロレンティナはご機嫌で叫ぶ。


「あら、木登りも教えてやってほしいのに、クレト、随分気弱ね」

ライムンドがコンスタンサに石板を見せた。


「あら、まぁ」

コンスタンサが笑い出す。ライムンドに石板を見せられたエステバンも、笑うと同時に安心した。ライムンドは、コンスタンサをそのままに受け入れてくれている。


『コンスタンサも、私と子どもたちに木登りを教えてくれるのだろう? 』


<完>


エステバンのお話にお付き合いをいただきありがとうございました。

12月20日7時に一人寝(二人の婚約時代)を投稿予定です。

12月21日7時からは【後日譚】父は子どもたちにかなわない。を投稿しております。お楽しみいただけましたら幸いです。

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