2 高嶺の花との出会い
「ねぇ、無害君。私たちのサークルに入らない?」
茶髪でショートヘアーのいかにも活発そうな女子はこちらの返答も待たず話す。
「うーん、自己紹介したほうがいいよね。私は花巻紗羽。法学部3年で君たちの最高の会話を聞かせていただいていたものです」
第一印象の通り、はきはきと話し、フレンドリー感満載な女子は二カッと笑う。どうやら先ほどの俺たちの会話を聞いていたようだ。
「無害くん、しかしながら高木君へのツッコミとして平安時代とはセンスがある。確かに切り捨てても許されるのが武士の特権!よかったら私のおむすび食べない?」
「えーーっと、、、武士ではなく貴族です。そしてそのおむすびには俺と縁を結ぶ的な意味合いがあったり?」
「さすが浪人生!話が早い!」
ほっとけ。
「あ、今明らかに感情殺したでしょ?うんうん、やっぱ頭の回転が速くてしかも感情をコントロール出来てる!まさか食堂でミニうどんを食べてる時にこんな大物に出くわすとはね!」
花巻さんは何故か満足げに腕を組み、うんうんと頷いている。咄嗟のことで思わずいつもの調子で答えてしまったがそれさえも好印象だったようだ。十中八九テニスサークルの勧誘だろう。こんな形で勧誘されるとは思っておらず、思わず高木の方を見ると静かに花巻さんを観察していた。
「お話し中すみません、先輩はこいつを気に入った感じですか?」
「お、そうだね、高木君も中々魅力的だけど他のことで忙しいようだから大森君をスカウトしてました、ダメだったかな?」
「俺としても驚いてて、こんな新入生を試しながら勧誘してるサークルがあるとは思わなくて。花巻さん、でしたっけ。」
高木にしては珍しい、やや攻撃的な質問の仕方だ。最初に名前を言わなかったのもわざとだろうしこの花巻さんは俺たちがサークルの勧誘の仕方を毛嫌っているのを黙って聞いていたのだ。俺を浪人生としていじったり値踏みしたような発言。そのうえでの勧誘なのでこうなるのも無理もない。
「うーん、ますます高木君も誘いたいな。やっぱり大学はブルーオーシャンだね」
「いや先輩は3年生でしょ。もうブルーとか言ってられないんじゃないですか?もしかして流行りのブルーライトカットとかかけてますか?裸眼に見えるんですけどね」
「訂正!君の魅力はやや強すぎる!気のせいじゃないとしたら言葉の端々にチクチクとした刺激を感じるよ!それに君も十分レアな存在だよ、私を邪険に思いつつも彼を思っての行動。なにより私に媚びも売らず真っすぐ話すその姿。ゲームを極める時間を異性との時間に使うのも楽しいかもよ?ユニバーシティっていう大陸名。」
「、、、。」
これには思わず驚いてしまった。この花巻さんという人、多分そうとうに「キレる」。高木の言葉を正面から受け止めておいて高木の人間性も的確に見抜いている。無理にサークルには誘わずこいつの趣味であるゲームにも理解を示している。お互いがお互いを牽制しつつ、でもどこか友好的な雰囲気を作りだそうとしている。それに花巻さんは間違いなく可愛い分類に入る容姿をしている。そんな自分に飾らない言葉で話す高木が新鮮だったのだろう。
「全く、なんでこう偏りが出来るんだろうねー。こんな大物が2人も見つかるときもあれば私たちに少しでも良く思われたいのか謎アピールしてくる男子ばっかりの時もあるし。バランスが不平等すぎるよね、全国の中学生の偏差値ぐらい偏りがあるよ、全く。」
「先輩、あんまよくわからないです」
「高木君はもっと優しいボールの投げ方も覚えようね!?私も頑張ってみたんだけど君たちには敵わないから」
花巻さんはまたしてもニカッと笑う。完全に彼女のペースだが嫌な気持ちはしないし、俺は既に花巻さんとそのサークルにかなり興味を持った。
「花巻さん、そのポスターを見るにテニスサークルの勧誘ですか?」
「そう!私たちのサークルはちょっと変わっててね、こうしたスカウト形式を取ってるの!私たちのサークルに入る方法は2つ!このスカウト形式か友人の紹介のどっちかなんだ。だから高木君が私たちのサークルを知らなかったのはそういうことでした」
「なるほど、、、。それは狭く深いコミュニティで楽しくテニスをするためですか?」
「それもあるね!さっきの話にも合った通りテニサーってあんまり印象が良くないの。だけど大森君のように真摯にテニスに向き合っている人もいるしそういう人を私たちは求めてるの。それに本当はもう一つの方が重要で、、、」
「紗羽、先に行ってるよ」
まるでタイミングがわかっていたように、花巻さんが視線を向けると同時に立ち上がるもう一人の女子。花巻さんの正面、つまり俺の隣に座っていたその女子のことに今更ながら意識が向く。
「ふふっ、そう言うと思ったよ。じゃあミスター無害君はオッケー?」
「キャプテンがここまで話してる時点で問題ないと思う」
「あらま、ネタばらしされちゃった、自分で言いたかったのにー」
「私も会話に入りたかったのにいれてくれなかったからそのお返し。じゃあお先にね」
髪色は黒。おそらく食べ終わったのだろうお弁当箱をしまいながらポニーテールを揺らして立ち上がった時にちらりとその顔が見える。
ただただ可愛かった。思わず目で追ってしまうほどに。
「、、、桜木瑠奈。私の友達で、あの子が目的で入ってくるような人を弾くためだよっ!」
花巻さんは嬉しそうに、それでいて本人が居なくなったこのタイミングでその言葉を零した。
その目と発言はこちらの心理を見透かしているようで、どこか挑戦的な言い方だった。自分でも驚くほど動悸が早い。久しぶりのこの感覚。最後にこの気持ちを抱いたのは中学生か。体温がじりじり上がっていくのを察するがあいにく熱でも心不全でもないことはわかってる。
目を大きくしながらつぶやいた高木の言葉だけがその場に残った。
「高嶺の花に、、、一目惚れ、、、?」
高木の席からはあの人がずっと見えており、今の花巻さんの発言ですべてを悟ったようだ。俺の体は未だに動かない。
こんにちは、未定です。
初投稿から一夜明け、お一人の方がブックマークして下さり、高い評価をしてくださいました。
本当に、本当に嬉しい限りです!!!後書きさえも何を書けばよいか分からず稚拙な文章とは思いますがこちらで本音を少しだけ語らせていただきたいと考えております。
肝心の更新についてですが序盤のうちは毎日正午の12時にしようと思っております。
どんな内容でも構いません。評価など恐れ多く、些細なことでも構いませんので何か思うことがあればご指摘いただけると幸いです。このお話には所謂ヒール役や重い過去など一切登場しません。優しい世界で主人公が身分差のある恋に挑む様子を楽しんでいただけたらと思います!