9.レーチェル湖 爆発
次の日、両親が出かけた後、私は異端者について、もう一度、考えてみた。
果たして私は本当に、異端者ではないと、言い切れるのだろうか…………。
もし、私が異端者だったら…………。
ふむ~。
異端者なんて結局は王国に いいように利用されるだけ…………。
結婚だって きっと誰かの側室に されるに決まっている…………。
もし私が仮に、異端者であった場合、私の幸せな結婚と言う人生の目標に、
大きな影響を及ぼす可能性がある。
ふむ~。
異端者でない事を 事前に確認できれば いいのだが…………。
そう言えば、昨日呼んだ本の中に『選別の儀式』と言う言葉が出てきた。
確か選別の儀式は、学校入学前に行われるとか何とか…………。
これは選別の儀式について、きちんと調べてみる必要がある。
私は両親の部屋から、再び辞典を持ち出し、選別の儀式について、調べてみ
た。
【選別の儀式】
『選別の儀式』とは『異端者を見つけるための儀式』を言う。
儀式は第2次成長期前の7歳前、通常、学校入学前に行われる。
選別の儀式には『真実の水晶(以下、水晶と言う)』と言う道
具が使われる。
7歳前の子供が水晶に手を乗せると、水晶は次のうち、どちらか
の反応を示す。
通常の子供…………『種』に反応し、水晶は青く点滅する。
異端者の子供…………『魔眼』に反応し、水晶は赤く点滅する。
これにより、異端者を見つける事ができる。
選別の儀式は元来、エリス歴525年にロザリア王国が『異端者狩り』の異
端者を見つけるために、始めた儀式である。
異端者狩りは、エリス歴525年から『アルテミスの乱』の同697年まで
続けられ、多くの異端者が、まだ子供のうちに処刑された。
アルテミスの乱以降は、選別の儀式は異端者狩りではなく『異端者保護』の
ための儀式となった。
選別の儀式で異端者と認定された者は、直ちに王宮に召し抱えられ、成人に
なる12歳までの間、英才教育を受け、その身を保護される。
その後、その国の法律に従い地位と名誉を与えられ、王国に士官する事とな
る。
【真実の水晶】
『真実の水晶』は『オーパーツ』の一つとされる。
現在までに見つかっている水晶の数は、世界で3つである。
【オーパーツ】
『オーパーツ』とは、太古の昔から存在する、ある特定の不思議な力を持つ、
物体の事を言う。
女神エリスがこの世界を創造した際、その能力の一部が欠片となり、石など
の物体に宿ったとされる。
そしてその物体が長い年月を経て変化し、現在のオーパーツになったと言わ
れる。
未だ発見されていないオーパーツも、数多くあるとされているが、その実態
は明らかではない。
代表的なものに『真実の水晶』『奇跡の礎』などがある。
げげげっ!
選別の儀式って 異端者狩りの儀式じゃん。
と言う事は…………。
無料参加の強制参加!
ふむ~。
やはり私が確実に、異端者ではない事を 前もって 調べておく必要がある。
そうでなければ枕を高くして、眠れない。
でも、どうやって調べれば…………?
ん?
これ よく考えたら、現時点で魔法を使えれば異端者。
使えなければ異端者じゃないって 事じゃねぇ?
よし!
思い立ったが吉日!
早速 試してみよう!
私は、庭へと向かった。
そして崖と庭との境界にある、木柵の近くに佇んだ。
外は秋晴れ。
まさに吉日。
よし ここで1曲!
「何か良いことありそうな♪ 爺の予感♪ それルンルンルン♪」。
くすっ。
私は歌と振りの、できばえの良さに、思わず笑ってしまった。
そして…………。
「パン!」。
私は気合いを入れたるため、両手を思いっきり叩き、音を響かせた。
そして両腕を前に突き出し、手の平をレーチェル湖へと向けた。
よし準備完了!
「それではこれより 魔法を試してみる!」。
私は胸を張り、大きく息を吸い込み、吐き出した。
そして…………。
「よ~し!」
「行っくぞ!」
「水神!」。
…………。
爽やかな風が吹いていた。
私は何気に水の最上級魔法から唱えてみた。
だって かっこいいし…………。
が、何も起こらない。
じゃ、次は中級魔法。
「よ~し!」
「行っくぞ!」
「…………」。
「あれ?」。
私は攻撃用の中級魔法を知らなかった。
私は前に突き出していた両腕を、一旦、下におろした。
私の、とりごし苦労であったか…………。
「くすっ」。
あれこれ心配していた自分に対し、私は思わず、笑ってしまった。
その後、私は首を回し、両腕をぶらぶらさせた。
そして小さな深呼吸を一つした。
そして…………。
「じゃ これで最後 ウォーターボール」。
私は両腕を下したまま、準備なしの状態で、軽い気持ちで魔法を唱えた。
どうせ何も起こらない。
そう思っていた。
案の定、何も起こら…………。
その時である。
私は思わず、大声で叫んでいた。
「なんじゃい これ?!」。
何と!
私の右手の手の平に、小さな水の玉が突如、現れたのだ。
私は急いで、手の平を上に向け、目を丸くし、それに見入った。
水の玉は、どんどん大きくなって行く。
野球ボール、バレーボール…………。
その大きさをどんどん増して行く。
私は慌てて右腕を、柵越しに前へと突き出し、手の平をレーチェル湖の方に
向けた。
どんどんどんどん、大きくなる水の玉。
私は段々、目の前で一体何が起こっているのか、よく解らなくなってきた。
はぁ?
こんなの地球じゃ あり得ない…………。
私 夢を見てるの…………?
私は、前世と今世の記憶がごっちゃになり、混乱をしていた。
そして、大きくなる水の玉を、ただ、ぼーっと眺めていた。
そして…………。
水の玉の直径が、私の背丈を越える程の大きさまで達した、その時!
「はっ!」。
私は、我に返った。
目の前に大きな水の玉が、私の手の平に、くっついている。
えっ!
うそ?
何? これ!
これ もしかして魔法?
その時、ふと思った。
これ 水の玉がこのまま大きくなって…………。
もし地面と接触したら…………。
そしたら私 どうなるの?
この場で魔法が 発動するの?
そしたら私 どうなるの?
もしかして私…………死ぬ?
「ぎょえーーーーーー!」。
「ドク ドク ドク ドク ドク ドク ドク…………」。
心臓が飛び出すかと思われるほどの、大きな鼓動が鳴り始めた。
水の玉が地面に達するまで、あと僅か!
「ひぃーーーーーー!」。
と同時に、私の口は勝手に開いた!
「ギャーーーーーー!」。
「何 これ!!」。
「誰か助けてーーーーーーー!!」。
「これ どうにかしてーーーーーーー!!」。
私は意識せず、その場で「バタ バタ バタ バタ」足踏みを始めた。
どうしよう どうしよう どうしよう!
私は、焦りまくっていた。
もう、後がない!
もう水の玉をどこかに捨てるしか…………。
でも どうすれば 水の玉 飛んで行くの?
考えている暇はない!
もう いいや!
もう どうにでもなれ!
「えーーーい!!」。
私は、水の玉をレーチェル湖に向かって、気持ちで投げ飛ばした。
すると!
水の玉は私の手の平を離れ、もの凄いスピードでレーチェル湖に向かって、
回転しながら一直線に飛んでゆく。
「ほっ…………」。
と安心したのも束の間、次の瞬間、水の玉が、
「ドッボーーン!!」。
と言う大きな音を立て、湖の水中へと、勢いよく突っ込んだ。
「バッシャーーン!」。
その周りに大きな、水しぶきが跳ね上がる。
と思いきや…………。
湖の水面が大きく窪み始め、窪んだかと思うと…………。
今度はそこから、ドーム型の光の玉が、水の中から、現われる。
そして…………。
光の玉は、あっと言う間に膨れ上がり…………。
その大きさが、直径10mほどの大きさまで達した…………。
その瞬間!
「ドッカカーーーーン!!!!」。
何と!
光の玉は、目映いばかりの閃光を放ち、その場で一気に、爆発したのである。
辺り一面、もの凄い爆発音が響き渡り、もの凄い速さで爆風が、四方八方へ
と広がる。
湖は再び、大きな水しぶきを湧き上がらせ、湖畔の木々は次々と、なぎ倒さ
れて行く。
鳥たちは、一斉に悲鳴を上げ、勢いよく上空へと、逃げ惑う。
「ひぃーーーーーー!」。
あまりの衝撃に、私は思わずその場に、尻もちをついてしまった。
と同時に、水しぶきが庭の上まで跳ね上がり、私の体に降り注ぐ。
「バッシャーン!」。
私は全身、水浸しとなった。
私は恐怖の余り、尻もちをついたまま、その場でガタガタ震えていた。
そして何が何だか、わけが分からず、ただ、その場で呆然としていた。
…………。
…………。
どれ位たっだだろう…………。
「ウゥーーーーー! ウゥーーーーー!」。
突然フォルテの塔からサイレンの音が聞こえた。
「はっ!」。
私は我に返った。
これ見つかったら やばいんじゃ?
早くここから逃げ出さないと…………。
私は、家に逃げ帰ろうとした。
しかし足がもつれて、なかなかまっすぐ、歩けない。
私は、四方八方によろけながら、必死になって家へと向かった。
そして、やっとの事で自分の部屋へたどり着き、水浸しのまま、布団の中に
隠れた。
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