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6.『イアール人』と『ザナール人』

明くる朝、私はいつも通り、母に起こされた。

そして顔を洗い、歯を磨いた。


その後は家族それぞれ、取り留めのない時間を過ごす。


そんな中…………。



「カラ~ン コローン カラ~ン コローン…………」。



村の中心部にあるフォルテ塔の鐘の音が、大きな音を立て鳴り始めた。


村人への出勤の合図だ。


村の大人達は一斉に家を出、各々の職場へと向かい始める。

帰りもまた鐘の音を合図に、村の大人達は我が家への帰路に就く。



「じゃ リディア 行ってくるわね。 危ない事しちゃ ダメよ!」。 



「リディア また後でな!」。



「行ってらっしゃい~」。



私は玄関を出、手を振りながら2人を見送った。

2人は別々の馬にまたがり、町へと向かった。




2人が職場に向かった後は、私の自由時間。

いつもなら、庭で花を摘んだり、虫取りをしたりするのだが…………。


だが今日からの私は違う。


私は、この未知の世界について、色々と勉強しなければならない。

私の幸せな結婚と言う、ハッピーライフのために…………。




私は家にある書物を、少しずつ読み始めた。


家にある書物と言っても、それほど数は多くはない。


私の部屋に子供用の本が6冊。

両親の部屋に、少し難しめの本が10冊ほど、ある程度である。


しかし私にとって、この世界の全てが未知の世界。

私の心は、本を開く度にときめいた。



一体 何十年振りだろう…………。


こんなに心がときめくのは…………。



この世界にはネットもないし、新聞もない。

情報をくれるのは本だけである。


本だけが唯一の情報源である。




その日から私は、父と母が仕事へと出かけた後、家にある書物を、少しまた

少しと読み続けた。


これだけ本を読んでいれば、肩の1つや2つ凝りそうなものだが…………。

だが全く凝らない。

目もショボショボしない。

さすが6歳。




さて、本を読む事で、この世界の事が少しずつ分かってきた。


まずは、結婚の事。


この世界では昔から『一夫多妻制』が慣習なようだ。

そして本妻を『正室』それ以外を『側室』と呼ぶ。


現在において、多妻をしているのは、貴族と一部の富裕層のみ。


それ以外の庶民については、経済的な理由により、一夫一妻制が通例との事。



となると…………。


私の結婚相手は 庶民になるのか…………。




私は、この人生において正直、地位やお金などは求めてはいない。


私の人生の目標は、ただ一つ。

幸せな結婚だ!


だから相手が庶民だろうと、全く問題はない。

逆に、貴族や富裕層と結婚し、正室や側室になるのだけは、ご免だ。


私は誰か1人を愛し、その人だけに愛されたい。




次は、私の母の事。


母は3ヶ月位前から、急に外に出て働き始めた。


この事を私は、我が家はきっと貧乏なのだろう。

だから共働きをしないと生活、出来ないのかな?


そう思っていた。

だが、実際のところは違った。




この村では男も女も平等に、労働が義務付けられている。


但し子供が生まれた場合は、その子の6歳の誕生日までは、母親に限り(い

ない場合は父親)その労働が免除される。


しかもその間の給料は、支給されるとの事。


だから母は、私が6歳を過ぎたので、仕事に戻っただけだった。



しかし…………。


労働が義務とは…………。


何て世界だ!




次は、フォルテ村の事。


フォルテ村は、隣街『エスフォーテ』に住む『エスフォーテ男爵』の領地

の1つ。


領主は『エスフォーテ・フォート・ガルーシラ』。


『エスフォーテ』は一族の名。

『フォート』は爵位。

『ガルーシラ』は名前。



この国では貴族のみ、一族名を名乗る事が許されている。


そのため庶民には、名前しかない。

当然、私にも親にも、一族名はない。



本を読む限りこの世界は 貴族社会が牛耳っているようだ。



また貴族の身分には、上から『王』『大公』『公爵』『伯爵』『男爵』と、

5つの身分がある。


『男爵』はその中でも、最低の位。

言うなればフォルテ村は、最低貴族が治める田舎村。




そして最後は『この世界の成り立ち』について。


この世界は太古の昔『女神エリス』によって創造された。


そして女神エリスは、この世界に2つの大陸を造った。

それが『北大陸』と『南大陸』。


その後、女神エリスは、この世界に2つの人種を創り出した。

それが『イアール人』と『ザナール人』。


両者とも、その姿は女神エリスと同じで、外見的な違いは全くなかった。




しかし体の構造に1つだけ、決定的な違いがあった。


それが…………血。


血の色だ。


イアール人は青色。

ザナール人は緑色。


色の違いはお互いを、本能的に『忌み嫌う者』として、敵と認識。

その結果、太古の昔から両者の殺し合いが絶えなかった。



こぇ~!


ただ血の色が違うだけで 殺し合いをするなんて…………。


この世界は何ちゅう世界や。


あり得ないわ!



そういや、私の血の色は青だったはず。

この話を読んで、今、思い出したわ。


確か母から『私達はイアール人』。

『もしザナール人に出遭ったら 何が何でも逃げなさい』。


そう教えられた。




念のため私は本のページで、自分の左手の人差し指を「シュッ」と切ってみ

た。



「痛っ」。



私は痛いのを我慢し、指を舐めずに、そのまま放置した。


その後、切り口から、血がにじみ出た。

青色だった。


前世の赤色に慣れているせいか、血が青いと言うのは…………。

何となく不気味。



まるで私…………。


まるで私…………。


宇宙人みたい!



と言うか、地球人から見れば、既に私は宇宙人。



「くすっ」。



私は思わず、笑ってしまった。



しかし血の色が違うだけで 殺し合いをするなんて…………。




そういや日本には、血を使った慣用句が、数多くある。


血が騒ぐ。

血がたぎる。

血にあらがう 等々…………。


もしかしたら血には、本能をつかさどる何か特別なものが、存在しているの

かも知れない…………。



「ふむ~」。




私は血の色について、前世の知識を基に考えてみた。


確か血が赤いのは…………。


血液には、酸素を運ぶ赤血球。

赤血球にはヘモグロビン。


ヘモグロビンには鉄分。

鉄分は酸素と結びつくと赤。


だから、人間の血は赤色。

こんな感じ…………。


まずここまでは、問題ない。



じゃ次、血が青いのは?



「ふむ~」。



そういや前世のタコやイカの血の色は、青色だったはず。


それは血液中にヘモグロビンではなく、何とかと言う物質が流れており、そ

の中に銅が含まれているから。


銅は酸素と結びつくと青になる。

だから、タコやイカの血は青い。


我ながら素晴らしい知識!



じゃ最後に血が緑なのは?



「ふむ~」。


「ふむ~」。


「はて?」。




何れにしてもイアール人とザナール人は、その血液の構造に違いがあるのは、

間違いない。


血液は心臓を経由し、常に体全体に流れている。

これが本能と関係しているのか…………。


私は何気に、そう感じた。


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