4.100歳じじいの目
どこからともなく、美味しそうな匂いがする。
その匂いで私は目が覚めた。
私はベッドから上半身を起こし、部屋の中を見渡した。
間違いない、やはりここは6歳の私の部屋だ。
これは夢ではなく、現実なのだ。
私は地球じゃない、どこかの星に生まれ変わり、そして前世の記憶を突然、
思い出したのだ。
私は、ゆっくりとベッドから起き上がり、出窓に座った。
そして現世の状況を今一度、確認してみる事に。
時刻は既に夕方であった。
母の名は『ユリナ』。
父の名は『カイル』。
その1人娘であるのが私『リディア』。
家族3人でこの家で暮らす。
私は現在、6歳。
私が住んでいるのは『フォルテ村』。
はっきり言って、ど田舎。
私の家は村の外れ。
家の周りに集落はない。
家は高台にあり、家の裏には大きな庭。
庭の周囲は崖地。
そのため庭の周囲には木柵。
木柵の側に、大きな大木。
そして崖の下には『レーチェル湖』。
その周辺は森。
庭から眺めるレーチェル湖は、とても美しい。
まぁ こんなところか…………。
それにしても私の知る世界は、何と小さな世界なのだろうか…………。
まぁ 子供だから仕方ないか…………。
私は出窓に座り、感慨に耽っていた。
その時ふと、窓から見える風景の中に、我が家へと急ぐ、馬に乗った人の姿
が見えた。
私はすぐに、
「あっ パパだ!」。
と叫んだ。
と同時にすぐさま、
「お母さん お母さん パパが帰ってきた~」。
と大きな声で、1階で夕食の準備をしている母に伝えた。
私は意識する事なく、いつもどおりの行動を、とっていた。
そして父親の出迎えのため、1階へと向かっていた。
しかし…………。
ここで…………。
ちょっと待った!
よく考えたら 前世の私は 父親とは初対面。
確か父は イケメンだったような…………。
何となく恥ずかしい…………。
しかし、そんな100歳じじいの揺れる乙女心など、6歳のリディアにとっ
ては、何のその。
早く パパに会いたい!
行け 行け 行け!
そう、私の心に命令するのである。
仕方なく私は、リディアの心の従い、1階へと向かった。
玄関へと向かう私。
1階には他に、居間、台所、物置、お風呂、トイレがある。
「チャリン チャリン」。
玄関の扉が開く、ベルの音が鳴った。
「パパ お帰りなさい!」。
そう言いながら私は父親に抱きついた。
私はリディアの心の、思うがままに行動していた。
父親は私を抱き上げ、私の目を見た。
「ただいま リディア。 聞いたよ 今日 階段から落ちたんだって?」。
きっと父は仕事の合間に、買い物に出かけた母から、聞いたに違いない。
私は少し反省している振りをしながら、小さく、うなずいた。
すると父は、私の頭を優しく撫でた。
「これからは 気をつけなきゃダメだぞ! そんなお転婆だと お嫁に行け
ないぞ!」。
その言葉に、私はちょっと、すねた振りをした。
そして、こう言い返した。
「いいも~ん 私 お嫁に行かないも~ん」。
その言葉を聞いて、父は笑っていた。
しかし、ここで…………。
ちょっと待った!
お嫁に行かないなんて とんでもない!
私は前世の死の直前 来世は絶対お嫁に行く と決めたのだ。
この発言は なしだ!
そして父に、こう言い直した。
「やっぱり私 絶対 絶対 お嫁に行くも~ん」。
それを聞いた父は、再び笑っていた。
私が言い直したのには、理由があった。
ずばり言霊だ。
つまり言葉には、神秘的な力があり、発した言葉通りの結果が現れる。
そう前世では、何の根拠もなく信じていた。
そのため前世では、否定的な言葉は一切使わなかったし、今世でもそうする
つもりだ。
なのに…………。
お嫁に行かないなんて とんでもない!
これは言い直さなければ!
そこで私は父に対し『絶対 お嫁に行くも~ん』と、言い直したのである。
100歳じじいの心が、リディアの心に、言い直しをしなさいと、命じたの
だ。
その後3人は椅子に座り、テーブルを囲み、食事をとった。
食事中、私は2人を、じっくり観察してみる事に。
娘としてではなく、100歳じじいの他人として…………。
私には、100年生きた前世の記憶がある。
つまり私には、100歳じじいと言う、目があるのだ。
これは今後の私の人生において、大きな武器となるに違いない。
多分…………。
私は父と母の様子を、さり気なく観察した。
父も母も年齢は、20代半ばであろう。
正確な年齢は知らない。
母のユリナ。
外見は、初めて見た時の印象のままだ。
良い所のお嬢さんにも見えるが、実際はどうなのであろう…………。
だが今世の記憶を思い出したせいか、どこか厳しいような印象も受ける。
そして父のカイル。
背が高く、足も長い。
肩幅が広く、筋肉質そうだがガッチリ体型ではない。
まぁ 細マッチョと言ったところか…………。
髪は母と同じ金髪で、真ん中分け。
目は青色で優しい目。
まぁ 一言で言うなら 白馬の騎士!
そんな父を、リディアは好きで好きでたまらない。
きっと幼少の頃の女の子は父に対し、こんな気持ちを持つのであろう。
まぁ 何れにしても…………。
この夫婦が美男美女である事には、間違いない。
そして、この夫婦の血を受け継いでいるのが私。
これは将来、有望株になる事、絶対間違いなし!
これ 結婚なんて楽勝じゃん!
私はそう確信した。
そんな中、父が突然、私に話しかけてきた。
「今日はやけに大人しいなぁ。 リディア 何かあったのかい?」。
ぎくっ。
私は100歳じじいの目を止め、リディアに戻った。
ここは誤魔化さなければ…………。
そこで私は、自分の髪を触りながら、父にこう返事をした。
「階段から落ちたせいか たまには おしとやかにするのも いいかなぁっ
て思って…………」。
「おしとやかだなんて 難しい言葉を知っているんだな リディアは?」。
父が、そう言うと、母は、すかさず、言葉をつないだ。
「たまにと言わず これからは いつもおしとやかで いて貰いたい もの
だわね」。
うほっ!
厳しい…………。
母の言葉に、私はうつむき「はい」と小さな返事をした。
それを見た父と母は、笑っていた。
前世の記憶が蘇った事は、父と母には、内緒にしておいた方がいいだろう。
それにリディアの心に、100歳じじいが取り憑いたと言う事を、父と母が
知ったら…………。
ふむ~。
考えるだけで恐ろしい…………。
何れにしても、この世界の事を何も知らずに正直に話すのは、危険な事のよ
うに思う。
その後、私は、今日のカエルちゃんとの格闘劇を、面白可笑しく、父と母に
伝えた。
父も母も大いに笑っていた。
しかしカエルがその後、どうなったのかは尋ねなかった。
もし面白ければ、ブックマーク登録、評価を頂ければ、嬉しいです。