3.地球ではない どこか
「リディア リディア…………起きなさい リディア…………」。
えっ?
誰?
「リディア…………リディア…………」。
誰?
リディアって誰?
…………。
はっと我に返った瞬間、私の瞳には、一人の美しい女性の顔が映っていた。
どうやら私はベッドの上に寝ており、女性はその様子を私の側で、見守って
いるようだ。
女性は金髪のロングヘアーで、自然なウェーブが柔らかにかかっている。
瞳は薄い琥珀色。
肌は色白。
顔のパーツは綺麗に整っている。
ん?
先ほどの 案内人か?
そんな中、女性は、私の頭を撫でながら優しい声で、私に話しかけてきた。
「あぁ よかったわ 目が覚めたのね」。
私は女性に尋ねた。
「ここは あの世ですか…………?」。
すると女性は、残念そうな趣で、大きなため息を一つ吐いた。
「あなたわね 階段から落ちたのよ! カエルを捕まえようとして!」。
へっ?
階段?
カエル?
どこかで聞いた事が あるような…………。
「『ヒール』しといたから 心配はないと思うけど…………。 今日は家で
大人しくしていなさい! お母さん これから買い物に行ってくるから お
外に出ちゃダメよ。 分かったの? リディア!」。
私は女性の言葉を聞いて唖然とした。
全く、意味が分からん。
そして何が何だか解らないまま、
「うっ うん…………」。
と返事をした。
その後、女性は立ち上がり、私の側を離れ、部屋を後にした。
一体どう言うこと?
階段?
カエル?
リディア?
それにお母さん?
私はしばらく間、その場でじっと考えた。
そして、はっとした。
あっ あれだ!
夢!
あの時の夢だ!
そう、今の状況は、私が死ぬ直前に見た夢の状況と、一緒なのである。
それも夢の続き。
しかも新たに母親まで現れた。
もしかして私は、夢の中に取り残されたのか…………。
それとも死後の世界は、実は夢の世界に過ぎないのか…………。
とりあえず私は、ベッドから上半身を起こし、部屋の中を見渡した。
間違いない。
この部屋の様子は、私が夢で見た光景と一緒である。
しかも夢とは思えないほどの現実感が、ここにはある。
ベッドはとても柔らかい。
窓からは、そよ風が吹き込む。
花瓶の花はそれに合わせて小さく揺れ、木造の建物のせいか、かすかに木の
香りがする。
これは現実なのか それとも夢なのか…………。
私は、ありきたりだが、とりあえず自分の頬を、つねって見る事に。
その瞬間、私は思わず声を上げた。
「手 小っちぇ~!」。
そう、私の手は可愛らしい子供の手だったのである。
私はベッドから飛び起き、鏡の前に立ち、全身を写した。
鏡に写る私。
思わす声が出た。
「わっ 何これ!」。
「ちょ~可愛い!」。
「なかなかイケてるじゃないの 私!」。
髪は黒髪ツインテール。
目は濃いブラウン。
色白でやせ型。
ピンクのワンピースが、とても良く似合っている。
それに母親に良く似ている。
「私まるで アイドル歌手みたい!」。
次に私は、後ろ姿も確認しようと、鏡の前で半回転して見た。
その瞬間スカートの裾が、ひらっと舞い上がる。
「ほぇ~~!」。
前世の青年期、女性アイドルのスカートの裾が、ひらっと舞い上がるのを見
て、私も一度あんな事をやってみたいと、思っていた。
それが今や現実に。
「うほ~~!」。
廻るわ 廻るわ 踊れや 踊れや。
私は何度も何度も回転し、ヒラヒラを楽しんだ。
私の心も舞に舞っていた。
ヒラヒラの後、私は再び鏡の前に立ち、鏡に写る自分を見つめた。
そして服を脱ぎ、鏡の前で全裸になった。
「ほぇ~~!」。
「…………」。
「ついてない」。
どうやら私は本当に、女性として生まれ変わったらしい。
次に私は、自分の胸を触って見た。
「あら…………」。
「…………」。
「まぁ 6歳だから仕方ないか…………」。
しかし念願の女性に、生まれ変わる事が出来た。
しかも美少女。
「超ラッキー!」。
私の口から、こんな自作の歌が飛び出した。
「体は6つの女の子♪ 心は100歳 爺の子♪」。
私は一通り自分の容姿を確認した後、服を身につけ、ベッドの上に腰掛けた。
そしてふと、ある事に気づいた。
さっき私は自分の現在の姿を、前世の生まれ変わりの姿として、迷う事なく
認識していた。
「ふむ~」。
やはり そう考えるのが自然か…………。
私は、ひとまず心を落ち着かせ、現在の状況について、冷静に整理してみる
事に。
まず最初に…………。
私は、階段から落ちた。
そして気を失った。
気がつくと私は日本の病室で寝ていた。
健ちゃんもいた。
死の直前だった。
あれは紛れもなく、私の人生そのものだった。
生まれてから死ぬまで、全て覚えている。
死んで目が覚めると、私はベッドの上にいた。
目の前に母親がいた。
私は『リディア』になっていた。
しかし日本で生きた記憶が、そのまま残っていた。
「ふむ~」。
さっきまでは気が動転し、混乱していたが…………。
冷静になって考えると私には、リディアとしての記憶も存在している。
案内人だと思い込んだ女性は、私の母親。
父親はいつも、日が沈む前に仕事から帰ってくる。
この前の休日は家族で外出し、その時捕まえたカエルが『カエルちゃん』
だ。
つまり今の私には、前世と現世の、両方の記憶が存在している。
階段から落ちたせいで、前世の記憶を突然、思い出したのか?
「ふむ~」。
じゃ、ここは一体どこなのか?
地球なのか?
いや 違う。
さっきの母の言葉。
あれは日本語では、ない。
英語でも、フランス語でもない。
聞いた事もない言葉だ。
そしてその言葉を、私は何の、ためらいもなく理解し、母に返事をしていた。
それに…………。
さっきの母との会話。
『ヒールしといたから 心配はない』母はそう言った。
この話を聞いた時は、何の事か理解できなかったが…………。
冷静に考えると『ヒール』が何かを、私は知っている。
私が怪我をした時、母がよく、私にかけてくれる。
『ヒール』とは、この世界で使われている魔法。
つまり治癒魔法の事だ。
何と!
この世界には驚くべき事に、魔法と言うものが存在する。
それは即ち、ここは地球ではない。
つまり私は地球ではない、どこかの星に生まれ変わった。
そう言う事になる。
なぜ、こんな事が起こりうる?
なぜ、前世の記憶が残っている?
記憶とは脳にあるのか、それとも魂にあるのか?
「ふむ~」。
何れにしても、答えは解らない。
それに今は、眠くて仕方がなかった。
やっぱりこれ、夢かも知れないし…………。
目が覚めた時、これが現実なら、その時はその時で考えようっと…………。
私はベッドに横になり、布団も掛けずにそのまま深い、眠りに就いた。
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