20.女のガキ
俺は北の大陸を旅していた。
旅と言っても、その目的は『異世界の転生者』を見つける事。
しかし100年前とは言え、まだこの大陸に、俺の事を知るものが、いない
とは限らない。
俺はコートのフードに『隠形の術』をかけ、常に姿を隠し、行動していた。
そんな中『エスフォーテ』の街で、ある噂を耳にした。
今年の秋頃、隣のフォルテ村で、威力ある魔法が使われたと…………。
ザナール人の威嚇であったと言う事だが、ザナール人の仕業ではない。
俺は、真相を確かめるため、フォルテ村へと向かった。
フォルテ村。
ここは100年前の戦いの際、壊滅的な打撃を受けた村だ。
しかし以外にも、村は見事に復興している。
村に着いた俺はとりあえず、湖へと向かった。
湖に着くと、確かに湖畔の木々は、その多くが倒されている。
噂通り、威力ある魔法が、ここで使われたのには、間違いない。
上級魔法か…………。
それとも、最上級か…………。
人々から情報を得るため、俺は村の広場へと向かった。
広場に着くと、そこでは、西の入り口付近で、中年の男が鐘を鳴らし、紙芝
居の呼び込みをしている。
俺は男の側に行き、机の上に置かれている、紙芝居の題材を覗いてみた。
すると…………。
そこには『世界のヒーロー 勇者オルティス!』と書かれている。
俺は鼻で笑った。
100年後の世界で俺は 勇者か…………。
とりあえず俺は、どんな内容なのか、しばらくの間、紙芝居を見物した。
そんな中、俺に100年前の記憶が蘇る。
アデールの街を陥落させた後、俺は一旦、ロザリア王国へ戻り、王に謁見し
た。
そして王に、ロザリア王国を俺に譲るよう、要求した。
しかし、そんな要求など、王が受け入れるはずもない。
譲らなければ、力ずくで奪うと王を脅したら、ロザリアの代わりに、アデー
ル地方を俺にくれてやると、言ってきた。
俺の狙いどおりだった!
俺はアデール地方で、国を建国し、王となった。
そして1年がかりで、何隻もの船を造らせ、軍備を整えた。
俺は南大陸に渡り、ザナール帝国を一気に、滅ぼすつもりでいた。
そんな折…………。
俺の目の前に、女神エリスと名乗る1人の女が、突如、現れた。
その女は言った。
「時を待ちなさい」と…………。
俺は最初、女が本当に、女神エリスなのかどうか、疑った。
しかし、女の身体は、透き通っていた。
そして空中に、この星を縮小した球体を出現させ、その中の1点を指さした。
女は言った。
「ここが 破滅の始まり である」と…………。
それを聞いた俺は、愕然とした。
エリスが指さしたその場所は…………。
前世の俺が住む世界で…………。
世界を破滅へ導いた場所と、同じであった。
偶然とは思えなかった。
俺は、女神エリスの存在を、信じる事にした。
そして、彼女と契約を交わした。
契約の内容は、俺の魔法能力を無限にする代わりに、今からおよそ、100
年後に生まれ来る『異世界の転生者』を見つける事。
そして異世界の転生者と戦い、この世界を救う事。
「異世界の転生者は 高貴な身分で生まれてくる」。
女神エリスは、そう言った。
俺は100年に渡り、女神エリスによって、俺の時間を止められた。
そして目覚めた今、異世界の転生者を探す、旅に出ている。
この世界で高貴な身分と言えば、ロザリア王国かアデール王国しかない。
ザナール帝国には、高貴な身分などは、存在しない。
力ある者だけが、生き残れる世界だ。
紙芝居を見ながら俺は、そんな事を考えていた。
その時である。
小さな男のガキの頭が、俺の体に、ぶつかった。
「お母さん 今 何かにぶつかった~」。
その言葉に母親は、辺りを見回し、男のガキに、こう返した。
「バカね~ 何も ないわよ~。 気のせいよ 気のせい」。
面倒に巻き込まれるのは御免だ。
そう思った俺は、その場から立ち去り、住宅街へと向かった。
そして住宅と住宅の間にある、狭い路地の中へと入った。
路地をしばらく進んで行くと、突然、後ろから、誰かに話しかけられた。
「あの~ すみません?」。
突然の出来事に俺は、一瞬、びくっとした。
まさか、この村に、俺を知っている者が、いるとは…………。
そう思い俺は、すぐさま後ろを振り返った。
すると…………。
そこには女のガキが1人、立っていた。
なんだ またガキか…………。
俺はガキを見下ろした。
ガキは、俺の視線に合わせ、俺を見ている。
ガキには俺の事が見えている。
「お前 俺の事が 見えるのか?」。
「まぁ 一応…………」。
このガキ 能力者か…………。
「お前 貴族か?」。
「いえ いえ いえ…………」。
貴族ではないのか…………。
と言う事は、俺の探しているガキではない。
まぁ 適当にあしらって すぐこの場から立ち去るか…………。
「俺に何の用だ?」。
俺がそう言うと、ガキから「こわっ」と言う心の声が聞こえた。
こわっ?
なんだそれ?
恐いと言う 意味か?
このガキ少し 頭が足りないのか…………。
「あなた 赤が青に見える魔法は 使えますか?」。
はあ?
俺は意表を突くその質問に、思わす大声を上げた。
「そんな魔法など あるわけないだろう!」。
全く話にならない。
赤が青に見える魔法だと?
馬鹿馬鹿しいにも、程がある。
そんな魔法、一体、何に使う気なんだ?
ん?
もしかして このガキ?
儀式前のガキか…………。
こいつ異端者だな!
「お前 異端者だな!」。
そう言って俺は一瞬、目を大きくし、ガキを見下ろした。
異端者は、前世の人生も経験している。
そのため、ガキと言っても普通は、その精神年齢や経験は、大人と変わらな
い。
それなのに このガキときたら…………。
赤が青に見える魔法だと?
本気でそんな魔法 存在すると思っているのか?
異端者と言う問いかけに、ガキは、
「いえ いえ いえ。 私は 決して 異端者などでは ございません」。
そう言って、激しく手を振りながら、異端者である事を、思いっきり否定し
ている。
はぁ?
このガキ 正真正銘の馬鹿だな?
まさか そんな嘘がバレないとでも 本気で思っているのか?
儀式前に能力者なら 異端者であるのは 普通 当たり前だろう?
俺は腹が立ち、強めの口調でガキに言った。
「お前 馬鹿か? 赤が青に見える魔法って 選別の儀式に使うんだろう?
お前は儀式前の子供だ。 なのに お前には 俺の姿が見えている」。
更に、こう続けた。
「つまりお前は既に 魔眼を持っているんだよ。 お前は異端者だ! どう
だ! これでも 違うと言うのか?」。
その言葉にガキは、考えている様子だった。
やはり こいつ 頭が足りんな…………。
前世で早死にしたとか そんな口なのだろう…………。
そしてガキは、小さな溜め息を吐い後、俺に向かって、こう言い放った。
「そうよ 私は異端者よ! でも私 異端者なんかになりたくない!」。
ほう…………。
異端者になりたくないとは…………。
珍しい…………。
是非ともその理由について お聞かせ願いたいものだ。
「なぜ 異端者になりたくない?」。
するとガキは、こう言った。
「私はただ 幸せな結婚がしたいだけ。 異端者になって 王国と関わるな
んて もっぱらごめんよ! 平凡でいいの 平凡でいいから 誰かと幸せな
結婚がしたいのよ! 悪いの?」。
またもや意表を突く返答に、俺は思わず、笑いがこみ上げてきた。
そして、鼻でふんと笑った。
きっとこいつは、前世で早死にしたか、少し頭が足りないのだろう…………。
それで、年相応の精神年齢をしているのか…………。
まぁ、腐っても異端者だ。
今から手懐けとけば、いずれ役に立つ日が、来るかも知れない。
「俺についてこい!」。
俺はガキにそう言うと、広場へと一旦戻り、湖から広場へと来る途中、見つ
けた、装飾店の前で足を止めた。
俺はガキ用の腕輪を買い、それに念を入れてやる、つもりでいた。
俺はガキの腕を掴み、その太さを確認した。
細い腕だ。
「ここで 待て」。
そう言うと俺は、周囲を見渡し、誰も見ていないのを確認してから、フード
を脱いだ。
そして店の中へと入り、ガキの腕の太さに合う、小さな腕輪を1つ購入した。
その後、店を後にし、誰も見ていないのを確認してから、再びフードを被っ
た。
俺は先ほどの、路地へと向かった。
そんな中、女のガキが「トコ トコ トコ トコ」俺の後をついて来る。
俺は段々、このガキが、哀れに思えてきた。
異端者で、子供の頃からこれほどの、器量よしであれば、王族や貴族と結婚
する事など、たやすいだろうに…………。
それを、たかが平凡な結婚のために、異端者を捨てようとは…………。
俺は、ガキのペースに合わせ、歩くスピードを、少し緩めた。
路地に着いた。
俺は、腕輪に念を入れた。
『隠形術』と『魔法無効化』の念だ。
しかしこの魔法 このガキに説明して理解できるかどうか…………。
俺はガキの目の前に、腕輪を突き出し、魔法について説明をした。
「1度しか言わないから よく 聞け! この腕輪には2つの魔法が かけ
られている。 1つは この腕輪をつけると この腕輪は周囲の者から見え
なくなる。 もう1つは この腕輪をつけると、その者は魔法が使えなくな
る。 但し 効果時間は2つとも1日だけだ」。
そしてガキに、腕輪を手渡した。
「選別の儀式には その腕輪をつけて行け! お前は異端者に ならずに済
む」。
俺がそう言うとガキは、お礼を言い始めた。
どうやら、このガキにも、理解できたらしい。
俺はガキから振り返り、路地の奥へと進んだ。
その時、後ろから、ガキの心の声が聞こえた。
「やった~!」。
その声を聞いて、俺は思わず、鼻で笑った。
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