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2.来世は絶対 結婚できますように

21世紀後半、AI革命によりロボット産業は、著しい発展を遂げた。


その中でも日本のロボット産業は、世界の最先端を担い、人型、動物型など、

多種多用のロボットを開発した。


しかしそれとは裏腹に、日本経済は衰退する一方で、介護用ロボットを手に

入れられるのは、一部の富裕層のみ。


そして私は、その中の一人であった。




くすっ。



私は突然、心の中で思わず笑ってしまった。

まさか、6歳の女の子になる夢を見るなんて…………。


夢の中で私は、カエルを探し、自由に動き周り、そして自由に歌っていた。

何より女の子の姿であった。



くすっ。



もう5年以上も寝たきりの私にとって、さっき見た夢は、心温まる素敵な夢

だったのである。


現実の私は、体も動かず、声も出せず、病院のベッドの上で、ただひたすら

最後の時を待っている。


癌が問題か、それとも心臓なのか…………。

何が悪さをしているのかさえ、よく分からない。


何せ私は、100歳のじじい、だったのである。




さっきまでは何ともなかったのに、現実を認識した私に突然、息苦さと胸の

痛みが襲い掛かる。



ううっ。


はぁはぁ。


急に胸が苦しい。


さっきまでは 何ともなかったのに…………。



そう言えば私は、数日前から、あご呼吸状態で排尿もなかった。



まさか さっきの夢は この世での最後の灯火なのか?



そんな思いが私の心を、過る。




そんな中、私の意識が段々、もうろうと、し始めた。


健ちゃんの通報で看護師が駆けつけたのか、部屋の中が慌ただしく感じる。

誰かが私に話かける声がする。



「○○さん○○さん しっかりして下さい!」。



でも苦しさで返事ができない。



苦しい…………。


助けて…………。


何とかしてくれ…………。



どうやら私は、チアノーゼを引き起こしているようだ。




やがて目の前が真っ暗になり、血の気が引いて行くのを感じた。


部屋の中がバタバタしているのを、どこか遠くで聞いているような、感じが

する。



これで私 死ぬのか…………。



そう思った瞬間、不思議にも、息苦しさを感じなくなっていた。

意識も、はっきりしてきた。


と同時に私の心の中に、人生の思い出が、断片的に蘇る。


そう、私は…………。




子供の頃は、色白、やせ型で、よく女の子と間違われた。


近所の男の子からは『中性ちゃん』と、からかわれた。

女の子と間違われないようにと、母親から青や黒色の服を着せられた。


あと、虫取りやカエル取りが好きだった。


近所の子供達と捕まえに行っては、家の中で飼育した。

飼っていた芋虫が、蛹から蝶へと成長した時は、本当に嬉しかった。




やがて時代が進み、家の周りにあった自然は全て、住宅地に奪われてしまっ

た。


私も勉学に勤しみ、中学、高校は成績トップ。

よく勉強した。


しかし、俗に言うガリ勉ではなかった。


友達とアイドルのレコードを聞いたり、アイドル雑誌を切り抜いたりして遊

んだ。


スポーツは苦手だったが、運動能力は高かった。


自分で言うのも何だが、容姿端麗でオシャレも好きだった。

学校では、よく、告くられた。


でも、つき合った事は一度もなかった。




大学卒業後は一流企業に入り、出世も同期では一番早かった。

何事にも要領が良かった。


お喋好きで話題も豊富、人を楽しませるのが好きだった。

よくモテた。


しかし結婚はしなかった。




退職後は独身のまま、自由気ままに生きた。

飲み会、音楽、ゲーム、ドラマ、アニメ、自分の好きな事を楽しんだ。


やがて体も不自由となり、介護が必要な時が来た。

しかしその時になって私は初めて、ある事に気がついた。


私は今、独りぼっちだと…………。




そのため、火葬費、埋葬費、入院費などを残し、残った財産で、健ちゃんを

購入した。


健ちゃんは、とてもお高かったが、私にはもう財産など必要なかった。


病室を訪れる人もなく、ただ健ちゃんだけが、私の心の支えだった。

ロボットだけが唯一の、私の心の拠りどころであった。




私の人生を一言で言うなら、とにかく自由に生きた。

自分の心に素直に生きた。


愛想笑いもしなかった。

嫌な事は嫌だと、はっきり言った。


自分自身にも自信があった。


後悔している事と言えば…………。


そう…………。


後悔は一つだけ…………。




私は人生の中で、誰からも愛されなかった。

誰かを愛しても、その人から愛される事は、一度もなかった。


正直、異性には、よくモテた。

しかし、そんなのは、どうでもよかった。


なぜなら私は同性愛者だった。




私が高齢の頃は時代が変わり、同性婚も認められる時代であった。


しかし私は、そもそもゲイなのに、ゲイの人を愛せなかった。

私はノーマルな男の人が好きだった。


だから好きになるのはいつも、ノンケだった。

当然ながら私の愛が叶う事は、一度もなかった。


青春時代に好きな人と、手を繋いで街を歩きたかった…………。


2人っきりでオーロラを、いつまでも眺めていたかった…………。


愛する人の側で、朝日をずっと見ていたかった…………。


そして…………。


本当は何より、女性として生まれたかった…………。




最後の時が来たのだろう。

私には、はっきり分かった。


今が死ぬ瞬間だと!



もし来世があるならば…………。


もし来世があるならば…………。


来世は 女に生まれたい。



そして来世は…………。



誰かに愛されたい…………。



来世は絶対 結婚できますように…………。



それが私の、最後の願いとなった。

私の魂は、すっと肉体を離れた。




気がつくと私は、真っ暗な闇の中にいた。


私は辺りを見渡した。


すると遠くに、白い光りを放つ、一筋の出口が見える。

私は光に導かれ、出口へと向かった。


…………。


すると…………。


突然、白い光の出口の横に、紫色の光を放つ、もう1つの出口が現れた。



「はて?」。


「この場合 どっちに行けば いいのだろうか…………」。




そんな中、いつの間にやら私の隣に、1人の女性が立っている。


女性の身体は、透き通り、白い簡素なローブを身にまとい、頭には、フード

を被っている。



きっと あの世への案内人なのだろう…………。



私は、そう思った。

そして案内人の後をついて、私は出口へと向かった。




2つの出口の入り口まで、たどりつくと、案内人は何も言わずに、紫色の出

口を指さした。


私は念のため、案内人に聞いてみた。



「まさか この入り口。 地獄への入り口じゃ ないよね?」。



私がそう言うと、笑い声のような声が、微かに聞こえた。



「くすっ」



ん?


くすっ?


空耳か?



すると案内人は以外にも、声を発した。



「大丈夫! 心配は いりませんよ」。



その声は私の頭の中に、直接、響いてきた。

この世のものとは思えないほどの、美しい鮮明な声であった。


安心した私は、案内人の言うとおり、紫色の出口の中へと入っていった。


すると、そこには…………。


辺り一面、紫色の空間が広がっている。


私の意識は段々、紫色の空間の中へと吞まれてゆく。


そんな中、遠くで誰かの声が聞こえた。


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