19.黒ずくめの男
そして季節は、とうとう冬の終わり。
選別の儀式まで、残り数日となっていた。
そんな、ある日の事。
街の広場へと向かった私は、いつものベンチには座らず、広場の噴水の中に
立つ、女神エリスの像のもとへ、足を運んだ。
そして…………。
(エリス様 お願いします。 赤が青に見える 魔法を使える能力者に ど
うか 遭わせて下さい)。
そう、女神エリスにお願いをした。
切実な、思いだった。
そんな中…………。
広場西側の入口付近で「カラーン カラーン カラーン」と言う鐘の音が聞
こえる。
何事かと思い、広場西側まで行ってみると、そこには石畳の上に、大きな木
製の机が置かれている。
机の上には、木製の額縁に入った絵が、立てられている。
そして、その近くに立つ1人の中年男性が、手に持つ鐘を「カラーン カラ
ーン カラーン」と鳴らしている。
「さぁ 寄ってらっしゃい 見てらっしゃい! これから 紙芝居が始まる
よ」。
「カラーン カラーン カラーン」。
「坊ちゃん 嬢ちゃん 準備はいいかな? みんな 机の前に集合だ!」。
中年男性がそう言うと、机の前に10組程の、母子が集まってきた。
きっと、みんな、6歳未満の子供なのだろう。
私も、その中に混じった。
「カラーン カラーン カラーン」。
「みんな 集まってくれて 今日はありがとう。 それでは…………えへん。
これより…………。 紙芝居の…………。 始まり 始まり!」。
へ~。
なつかしい…………。
この世界にも 紙芝居なんて あるんだ~。
紙芝居のお題は、100年目の『聖戦』であった。
内容はだいだい、歴史書で読んだ通りだが、その中に登場する勇者オルティ
スは、風を切り、宙を舞い。
そして悪人ザナール人を打ちのめす。
まるでスーパーマンのようなヒーローとして、描かれていた。
ん?
私は、ふと、腕を組みながら、1人で紙芝居を見ている、男に気づいた。
男はスラッと背が高く、黒いフードつきのコートを着ている。
そして頭をフードですっぽりと覆い、上から下まで全身、黒ずくめの格好を
している。
いやね~ いい年した大の男が 真っ昼間から 紙芝居だなんて…………。
しかも全身 黒ずくめ…………。
こいつちょっと おかしいやつとちゃう?
その時である。
黒ずくめの男の側で、紙芝居を見ていた小さな男の子が突然、手に持ってい
た帽子を、石畳の上に落としたのである。
そして男の子は、帽子を拾おうと、その場にしゃがみ込み、帽子を拾って立
ち上がろうとした、その瞬間。
小さな男の子の頭が、黒ずくめの男に、ぶつかった。
小さな男の子は、頭を撫でながら、隣で紙芝居を見ている母親の顔を見上げ、
その服を引っ張った。
「お母さん 今 何かにぶつかった~」。
すると母親は、辺りを見回した。
「バカね~ 何も ないわよ~。 気のせいよ 気のせい」。
そんな中、黒ずくめの男は、何もなかったかのように、その場から立ち去り、
住宅街の方へと歩いて行く。
ん?
えっ?
もしかして あの男?
周りからは見えてない?
まさか!
あの男…………。
能力者だ!
私は、すぐさま、黒ずくめ男を追いかけた。
男は住宅街の一角にある、路地の中へと入っていく。
私も男を追いかけ、路地の中に入った。
路地に入るとその中は、とても狭く、少し薄暗く、そして人の気配を全く感
じない。
そんな路地に、黒ずくめの男と私が2人きり。
ちょっと 恐い。
でも…………。
そんな事 言ってられない。
これを逃せば こんなチャンス…………。
二度と 訪れない!
私は路地の奥へと進んでいく、黒ずくめの男を追いかけた。
そして男に追いつき、思い切ってその背後から、声をかけた。
「あの~ すみません?」。
すると男は、びっくりした様子で、すぐさま後を振り向いた。
そして私を見るや、冷たい視線で私を見下ろした。
「お前 俺の事が 見えるのか?」。
「まぁ 一応…………」。
「お前 貴族か?」。
「いえ いえ いえ…………」。
「俺に何の用だ?」。
こわっ!
男の言葉は、冷淡であった。
その言葉に、優しさの欠片など、微塵もない。
しかし私は勇気を持って、男に聞いた。
「あなた 赤が青に見える魔法は 使えますか?」。
すると男は突然、大きな声を上げた。
「そんな魔法など あるわけないだろう!」。
そう言って男は、私を怒鳴り、顔をしかめた。
そして、私の事をギロッと睨んだ。
「お前 異端者だな!」。
ひ~~~~~~。
この状況に私は、
「いえ いえ いえ。 私は 決して 異端者などでは ございません」。
私は激しく手を振りながら否定し、思わずそう答えた。
すると男は、強い口調で私に言った。
「お前 馬鹿か? 赤が青に見える魔法って 選別の儀式に使うんだろう?
お前は儀式前の子供だ。 なのに お前には 俺の姿が見えている」。
更に、こう続けた。
「つまりお前は既に 魔眼を持っているんだよ。 お前は異端者だ! どう
だ! これでも 違うと言うのか?」。
そうか…………。
そう言う事になるのか…………。
これは、下手な小細工をするより、正直に答えた方が、いいかも知れない。
私は小さな溜め息を1つ吐き、心を落ち着かせた。
そして…………。
「そうよ 私は異端者よ! でも私 異端者なんかになりたくない!」。
私は開き直り、大きな声で、自分の気持ちを男に伝えた。
すると男は、
「なぜ 異端者になりたくない?」。
と、私を馬鹿にした様子で、私に尋ねてきた。
私は恥も外聞も無く、正直な気持ちを男に伝えた。
「私はただ 幸せな結婚がしたいだけ。 異端者になって 王国と関わるな
んて もっぱらごめんよ! 平凡でいいの 平凡でいいから 誰かと幸せな
結婚がしたいのよ! 悪いの?」。
それを聞いた男は、鼻でふんと笑った。
そして少し考えた後、私にこう言った。
「俺についてこい!」。
すると男は、広場へと戻り、南の道沿いにある装飾店の前で足を止めた。
そして私の右手を掴み、何かを確認した。
「ここで 待て」。
そう言うと男は、辺りを見渡し、誰も見ていないのを確認してから、頭に被
っていた、フードを脱いだ。
私は男の顔を確認した。
すると…………。
えっ?
この男…………。
ものすごいイケメン!
何と男は、とても精悍な顔をした、ものすごいイケメンだったのである。
その後、男は、店の中へと入って行った。
…………。
きっとあのフードには、周りから見えなくなる魔法が、かけられて、いるの
だろう。
それにしてもあの男…………。
どこかで見た事あるような…………。
ふむ~。
きっと前世の知り合いの誰かに、似ているに違いない。
私はそう思った。
その後、男は店から戻り、再び周りを確認してから、フードを被った。
そして、先ほど2人が入った路地の中へと、戻って行く。
路地の中で男は、先ほど装飾店で買ったであろう思われる、小さな腕輪を、
コートのポケットから、1つ取り出した。
そして、両手の手の平で腕輪を包み、何かを念じ始めた。
…………。
その後、男は、その腕輪を、私の目の前に突き出した。
「1度しか言わないから よく 聞け! この腕輪には2つの魔法が かけ
られている。 1つは この腕輪をつけると この腕輪は周囲の者から見え
なくなる。 もう1つは この腕輪をつけると、その者は魔法が使えなくな
る。 但し 効果時間は2つとも1日だけだ」。
そう言うと男は、小さな腕輪を、私に渡した。
「選別の儀式には その腕輪をつけて行け! お前は異端者に ならずに済
む」。
気のせいか、男の声が、少し優しく聞こえた。
「ありがとうございます」。
私がお礼を言い終わるや否や、黒ずくめの男は、既に路地の奥へと向かって
いた。
ほっ。
私は安堵の溜め息を、1つ吐いた。
あぁ 恐かった…………。
しかしこれで私は、異端者にならずに済む。
と思った瞬間、私の心の中に、喜びが舞い降りた。
やった~!
私は嬉しさのあまり、その場で跳ね上がった。
しかし…………。
あの男…………。
本当に信用できるのか…………。
もしかしたら 嘘をついていたりして…………。
いや、そんな事はない。
あの男が周りから、見えていなかったのは、事実。
それに冷酷そうな男ではあったが、嘘をつくような人には、見えなかった。
腕輪も私に合うよう、小さい腕輪を買ってくれたし…………。
後は、選別の儀式を待つだけ。
そうだ!
これ!
エリス様が私の願いを 叶えてくれたのかな?
そんな事を考えながら、私は路地を後にした。
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