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17.さよなら エメオット

次の日から私は、赤いワンピースと黒のニット帽を被り、エメオットの店へ

と通い続けた。


そして、赤が青に見える魔法を探した。


昼からは『心の中で助けてと叫ぶ作戦』を実行した。


そんな日々が、しばらくの間、続いた。




そんな中、私は、エメオットの店で、本を読む時間より、エメオットと話す

時間の方が、段々と長くなっていった。


赤が青に見える魔法は、一向に見つからない。

赤青へんげは、全く、成功しない。

助けてと叫んでも、誰も私に、振り向いてくれない。


私も、正直、嫌気がさしていたのである。




本を読むより、エメオットと話している方が、ずっと楽しかった。

エメオットは色々な事を、私に教えてくれた。


それにエメオットは、毎朝の『何色に見える?』と言う私の質問にも、嫌な

顔一つせず、正直に赤と答えてくれた。


『他の本が読みたい』と言う私のお願いにも、文句一つ言う事なく、すぐさ

ま本を、取り替えてくれた。


とても優しい人である。




エメオットは年齢、70歳。


中肉中背のお腹がぽっこりしている老年男性。

髪は白髪交じりの金髪。

目は青色。


優しい目をしており、エメオットの側にいると、とても安心した気持ちにな

れる。




エメオットは、ロザリア王国にある『カルギス』と言う村が故郷だそうだ。


ロザリア王国とアデール王国では、領主はその治める領地制度を、独自に定

める事が出来る。


カルギス村もフォルテ村も、領主経営の街。

村の全ての施設は、領主により経営されている。


領主経営の街では、領民は生活に必要な、お金や物資を貰う代わりに、その

労働力を領主に提供する。


労働が義務づけられていると言うのは、こう言う事だった。




また、この世界には、自由経済を基本としている街もある。


ロザリア王国の首都『ロザリア』やアデール王国の首都『アデール』が、こ

れにあたる。


ロザリアやアデールは、とても大きな街で、そこで多くの人々が、生活をし

ている。


しかし貧富の差がとても激しく、街の中心には豪邸も多いが、街の一角には、

スラブ街もあるとの事。




エメオットは、13歳の時、領主経営の街が嫌で、自由を求めて、ロザリア

へと移住した。


ロザリア王国とアデール王国では、庶民は自由に、その領主を変える事がで

きる。


そしてエメオットは、ロザリア移住後、自ら、荷物配達の商売を起業し、お

金を貯め、馬を購入。


そして、まじめに働き、少し、また少しと、店を大きくした。


そんな中、一人の女性と出会い、結婚をしたが、残念ながら子供には、恵ま

れなかった。


それでも夫婦で、40年以上も共に働き、最終的にお店は、ロザリアの一等

地に、大きな店舗を構えるほどまで、大きくなった。


しかし奥さんを10年前に病気で亡くし、生きる気力を無くしたエメオット

は、店を畳み、その心の傷を癒やすため、この村に移住したとの事である。




以上が、エメオットから直接聞いた、話である。


エメオットと話をする中で私は、エメオットの気持ちが何となく、理解でき

た。


商売がうまくいった、エメオットの喜び…………。

子供ができなかった、エメオットの寂しさ…………。

そして妻を失った、エメオットの悲しみ…………。


その1つ1つの感情が、会話の中のちょっとした表情や仕草の中に、現れて

いた。




そんな、ある日の事。


エメオットが私に、話しかけてきた。



「実はリディアちゃんに 言おう 言おうと思っていたんだが…………」。



エメオットは、右手で頭をかいた。



「おじさん もうすぐ この村から出て カルギス村に帰るんだ。 実はリ

ディアちゃんと知り合う前から 既に 決まっていた事なんだよ」。



「カルギス村って おじさんの故郷?」 



「うん」。



エメオットは一瞬、目をつぶり、小さな笑みを浮かべた。



「段々 年を取るとね。 故郷が妙に 懐かしく感じる時があるんだ。

若い頃は カルギス村が あんなに嫌で嫌で たまらなかったのに…………。 

おじさんも 勝手なもんだよね?」。



その言葉を聞いた私は、優しくエメオットに伝えた。



「そんな事 全然ないと思うよ」。 




私も、エメオットの気持ちが、何となく解るような気がする。


前世で私は、その晩年を故郷で過ごした。

なぜかと聞かれれば…………。


親もいたし、友達もいたし…………。

きっと人生の中で思い出が、一番、多い街だから…………。


多分これに尽きると思う。




思い出には、楽しい思い出、苦しい思い出、悲しい思い出。

色々あるけど…………。


苦しみや悲しみは、 砂の中に埋めてしまえばいい。


時には、地表に表れて、私の心を苦しめるけど…………。

時間がたてば、やがてまた、砂の中へと埋もれていく。


そして人生が終われば、もう二度と地表に、現れる事もない。



「おじさん 出発はいつ?」。 



「明後日の 休みの終わりの後かな」。 



「私 見送りにゆくね」。 




そして見送りの日が、やってきた。


私は時間に合わせ、街の広場へと向かった。

広場に着くと、そこには、エメオットと荷物が積まれた馬車が止まっていた。



「リディアちゃん。 わざわざ ありがとう」。



「全然 大丈夫よ。 おじさん 道中 気をつけてね」。 



そんな中、エメオットは、荷台から、何やら大きな袋を取り出した。



「実は リディアちゃんに プレゼントがあるんだ」。



そう言うと、エメオットは私に、大きな袋を渡してくれた。


私は、袋の中を、覗いてみた。

袋の中には、能力者についての本が、3冊ほど入っている。



「後任が決まるまで お店 お休みになるから リディアちゃんが 困るん

じゃないかと 思ってね」。



そう言うとエメオットは、照れくさそうに笑った。



「この本は おじさんがお金を払って 買った物だからね。 お店から黙っ

て持ち出した物じゃないよ。 だからリディアちゃん 心配しなくても 全

然 大丈夫だからね!」。



「うん」。 



私は、胸が熱くなるのを感じた。

それ以上、言葉が出てこなかった。


そしてエメオットから貰った袋を、両腕の中に抱きしめた。


そんな様子の私に、エメオットは、しゃがんで、私の頭を撫で撫でした。



「おじさん もう 行くね。 短い間だっけど リディアちゃんと過ごせて

本当に 楽しかったよ」。



そう言うと、エメオットは、馬車の中へ乗り込もうとした。



「ねぇ エメオット?」。 



「もし私が大きくなって カルギス村に行く事があったら その時は エメ

オットを訪ねてもいい? これって 問題ない?」。



私の問いかけにエメットは、優しくうなずいた。



「全然問題ないさ。 その時を 楽しみに待っているよ」。



そう言い残し、エメオットは馬車の中へと乗り込んだ。




エメオットを乗せた馬車が、フォルテの山に向かって、どんどん遠ざかって

ゆく。


私はその光景を、いつもでも眺めていた。


そして『さよなら 私の 初めての友達』。

そう心の中で、呟いた。


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