14.本屋の店主『エメオット』
街の風景を堪能した後、私は再び広場へと向かった。
フォルテの塔から広場に出ると…………。
何と!
そこには…………。
コロコロを載せた荷馬車が、走っているではないか!
私は、すぐさま荷馬車を追いかけ、荷台に載せられているコロコロを、観察
した。
かっわい~い!
コロコロは羊くらいの大きさをしており、顔も体も丸い形をしている。
そしてその全身は、白い艶のある、柔らそうな毛で覆われおり、まるで白い
毛で作られた、ぬいぐるみのような生き物だ。
そのコロコロが、今、私の目の前にいる。
私は興奮せずには、いられない。
「コロコロ♪ コロコロ♪ モフモフしよう♪ ハイハイハイ♪」。
「モフモフ♪ モフモフ♪ ご機嫌いかが♪ じゃあね♪」。
そんなその場限りの自作の歌が、急に私の心に、飛び出した。
コロコロは、荷台に4頭ほど載せられていた。
そして広場から北の道路へと、ゆっくりと運ばれてゆく。
私は北へと向かう、広場入り口付近で、コロコロを見送った。
北の道路の先は、今の私にとっては、禁断の地。
この先には、父と母が働く職場がある。
私は、遠ざかってゆくコロコロの姿を、しばらくの間、眺めていた。
さて…………。
次は何に しようかな?
そうだ!
せっかくだから エリスとオルティスの顔でも 拝んでゆこう!。
私は最初に、噴水へと向かった。
そして、その中に立つ女神エリスの像を眺めた。
エリスの像は白の銅像で、簡素なローブを着ており、その頭にはフードをゆ
ったりと、被っている。
その姿は、とても美しい。
そして視線を下に向け、手の平は上に向け、優しく微笑みながら、その両腕
を前へと突き出している。
まるで、誰かに救いの手を、差し伸べているかのような…………。
誰かを優しく、抱きかかえようと、しているかのような…………。
そんな姿である。
ふむ~。
さすがエリス。
女神と言うだけあって 実に美しいのぉ~。
まぁ 1000年前の人物だから 実際の姿とは違うと思うけど…………。
次に私は、オルティスの像の近くにある、日時計へと向かった。
私は前世もひっくるめて、日時計と言うものを見た事がない。
そのため、オルティスを見る前に、一度、日時計と言うものを見てみようと、
思ったのである。
日時計は、正方形の大きな石の台座に、きれいな円が掘られ、その外側には、
4つの文字が刻まれている。
文字は、日の始まりと日の終わり、休みの始まりと休みの終わり。
そして台座の上には、円の半径と同じ長さの正三角形の石板が、台と垂直に
置かれている。
どうやら、その影の角度によって、現在の時刻が分かる仕組みらしい。
へぇ~。
日時計って こんな感じなんだ…………。
この世界に時計は、存在しない。
そのため人々は、鐘の合図により、一日における、始まりと終わりの時間の
到来を、知る事ができる。
時計があれば 便利なのにな~…………。
日時計の後、私は、オルティスの顔を拝もうと、像へと向かった。
オルティスは、黒の銅像で、軍服のような出で立ちをし、マントを羽織って
いる。
そして右手に持つ剣を空高く掲げ、左手は腰に当て、大きな道路を、まっす
ぐに見つめながら、仁王立ちの姿で立っている。
まるで、村に侵入しようとする悪者を、威嚇しているかのようだ。
そしてその顔…………。
私はオルティスの顔を、まじまじと観察した。
少し鋭い目つきの、きりっとした目。
そして、それにぴったりな、きりっとした眉。
鼻は高く、ホリも深い。
でも顔が濃いと言うわけではない。
そしてキュッと締まった口元。
それにぴったりな、ほどよい厚みの唇。
顔のラインは、とてもすっきり。
全体的に、キリッとしている。
はっきり言って、とても男前で、とてもかっこいい。
これが勇者オルティスか…………。
かっこいい~!
確かオルティスは、100年前の人物だったはず…………。
この銅像は、本人をモティーフに創られているのかな?
それとも単なるイメージなのかな…………?
まぁ何れにしても…………。
もろ 前世の私のタイプなんですけど…………。
私は、少しの間、オルティスの顔をうっとりと眺めていた。
その時である
休みの始まりを告げるフォルテの鐘の音が、広場いっぱいに木霊した。
えっ?
もう こんな時間?
どこかに隠れなければ!
そうだ!
私は南へ向かう細い道を下り、森へと向かった。
そして、休み時間の間、森の中にその身を潜めた。
…………。
…………。
「カラ~ン コローン カラ~ン コローン」。
休みの終わりを告げるフォルテの鐘の音が、遠くから聞こえる。
私は、森の中から姿を現し、南の道を上り始めた。
確か本屋は、広場から南の道に入った、数軒先にあったはず。
本屋に向かいながら、私は6歳の誕生日の出来事を、思い出していた。
その日、私は、父と母と一緒に本屋に行った。
街へ行くのは、それが初めてだった。
両親は私に、子供向けの本を3冊、買ってくれた。
これから家で、1人で留守番をする私が退屈しないよう、両親が買ってくれ
たものである。
そんな事を思い出しながら、私は道なりを歩き、本屋へと向かった。
本屋に到着した私。
その入り口の上には、書店と書かれている、木製の看板が掲げられていた。
そして2階の窓からは、ここの領主である『エスフォーテの紋章の旗』が、
掲げられている。
私は思い切って玄関の扉を開け、中へと入った。
と同時にドアベルが鳴った。
「チャリーン チャリーン」。
ベルの音が鳴ると、すぐに店主と思われる男性の声が、聞こえた。
「いらっしゃい」。
店主は、私の姿を確認すると、優しく微笑みながら、私の目線に合わせるた
め、少し前かがみの姿勢をとった。
「お嬢ちゃん 久しぶりだね! 元気だったかね?」
へっ?
この人 私の事 覚えているの?
私は、不思議に思い、店主に尋ねた。
「おじさん 私の事 覚えているの?」。
すると店主は、
「そりゃあ もう 覚えているさ。 だって 君は…………」。
そう何かを言いかけたが、今の発言など、まるでなかったかのように、すぐ
さま別の質問を、私に投げかけた。
「今日は 何か捜し物かね?」
んっ?
このおじさん もしかして今 お茶を濁した?
でも なぜ?
私は、お茶を濁した店主の態度が気になりつつも、今日のお目当てについて、
店主に告げた
「能力者について 調べてみようかと思って…………」。
すると店主は、不思議そうな顔をした。
「そんな事 調べて一体 何に使うんだい?」
ううっ。
なんて 答えよう…………。
そうだ!
「私の家 貧乏だから もし 私が能力者だったら…………。 父と母に
楽させてあげれるかな~ そう思って…………」。
それを聞いた店主は、私の頭を撫で撫でした。
「偉いな お嬢ちゃんは! どれ おじさんが1つ いい本を選んであげよ
う!」。
そう言って、店主は棚から、1冊の本を取り出し、私に渡してくれた。
私は本を手に取り、ページをめくった。
これ 子供向けの本じゃん!
意味が ねぇ~!
「ねぇ おじさん もっと難しい本はないの?」
私がそう言うと店主は、驚いた様子で、私に、こう言った。
「えっ もっと難しい本? お嬢ちゃんには大丈夫かな? 意味がわかるか
な?」
その言葉に私は、
「大丈夫 難しければ難しいほど いい!」
そうすかさず、店主に答えた。
店主はしばらく考えた後、棚の上段から、厚めの本を取り出した。
「これはかなり難しい本だよ! わからなければ 他の本と取り替えてあげ
るからね」。
そう言って店主は私に、厚めの本を手渡した。
私は本のページを、めくってみた。
能力者の魔法について、色々な事が書いてある。
「おじさん ありがとう。 これがいい」。
店主は、ニッコリ微笑んだ。
あっ!
そうだ!
私は立ち読みが、許されるかどうか、店主に聞いてみる事にした。
「ねぇ おじさん? 私 もしかしたら この本 買わないで ここで本を
読むだけかも知れないけど それでも問題ない?」。
それを聞いた店主は、にっこり笑った。
「全然 問題ないよ。 ところでお嬢ちゃん お名前は?」。
「私? 私の名前は リディア。 リディアって言うの おじさんは?」
「私かね? おじさんは『エメオット』。 これからは おじさんの事 エ
メオットと呼んでいいからね。 おじさんは奥の部屋に行ってるから 何か
あったら声をかけるんだよ」。
そう言うとエメオットは、店の奥へと消えて行った。
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