11.もしも私が 異端者だったら
翌朝から本格的に、厳戒態勢が始まった。
母は仕事休み。
父は、まだ仕事から家に、帰っていなかった。
母は常に、私の側にいた。
ザナール人を警戒しているのは、勿論の事。
きっと私が何かに怯えていると思い、心配なのだろう。
しかし私の心は、怯えてはいなかった。
だって これザナール人の仕業じゃないし…………。
私の心は、恐れていた。
どうか 私の仕業だとバレませんように…………。
そればかりを考えていた。
しかし、どうすれば私の仕業だと、バレるのであろうか?
この世界には、監視カメラも、指紋採取も、DNA鑑定もない。
ふむ~。
そうだ!
目撃者だ!
もし私の仕業だとバレるとすれば、それは目撃者である。
逆に言うと、目撃者さえいなければ、私の仕業だとバレる事はない。
どうか 目撃者がいませんように…………。
私は、祈りの内容を変えた。
そんな中、父が仕事から帰ってきた。
「リディア ただいま! 昨日は良く眠れたか?」。
「うっうん」。
父は昨日から、ずっと働き詰めだ。
とても疲れている様子である。
そんな疲れ切った父の顔を見て、私は父に対し申し訳ないと思い、顔を曇ら
せた。
それを見た父は、私を抱っこし、私の頭を撫で撫でした。
「リディア 元気ないな~! パパが ついているから もう 心配いらな
いよ」。
父の言葉を聞いて母が、2人のもとへと、近寄ってきた。
「ところであなた 何か分かったの?」。
「いや 何も分からないよ。 今は治安所全員で 交代でパトロールをして
いる。 明日からは 本国も合流する予定だ」。
父はそう答えた。
私も一瞬どうしようかと迷ったが、母の質問に便乗してみる事に。
「パパ 目撃者はいた?」
すると父は、一瞬、目を丸くし、驚いた顔をした。
「目撃者なんて難しい言葉を知ってるんだな リディアは? 目撃者は 今
のところ いないかな。 リディアのためにも 一日も早く 犯人を見つけ
るからね」。
その言葉を聞いて、私はなぜか、心がムズムズするのを感じた。
その後、父は仮眠のため、2階の部屋へと上っていった。
目撃者は今のところ、出ていない。
なんて、ラッキーなんだろう…………。
どうか このまま目撃者が出ませんように…………。
私は再び、祈りを捧げた。
それから一週間後、村の厳戒態勢が解かれた。
結局、犯人は見つからなかった。
本国は『あれはザナール側の威嚇行為』であったと結論づけた。
こうして、一週間にも及んだ私の恐れは解消され、多少の最悪感はあるもの
の、私は晴れて無罪となったのである。
さて、厳戒態勢が解かれ、村は平穏な日々を取り戻した。
大人達は、また、鐘の合図で仕事へと向かった。
それに伴い私の心も、平穏な日々を取り戻したかのように、思われたが……。
しかしここで、新たな問題が発生した。
そう、私の『異端者問題』である。
『レーチェル湖爆破事件』については、私は晴れて無罪となった。
しかし、これに心を捕らわれ、すっかり『異端者問題』について、忘れてし
まっていた。
と言うか『選別の儀式』で、私が異端者になる事は、まず間違いない。
生まれながらにして前世の記憶がなくても…………。
過去世がザナール人じゃなくても…………。
水晶は必ず赤い光を放つ。
なぜなら私が、魔眼を持っているから…………。
ふむ~。
じゃ逆に、異端者である事を素直に受け入れてみたら、どうだろうか……。
私は想像してみた。
そうなると…………。
最初に私は、王国に召し抱えられる。
父と母と別れて暮らす事になる。
そこで私は英才教育を受ける。
そして成人する。
成人後、王から役職を与えられる。
と同時に私は、王国に士官する。
そこから先は…………。
ふむ~。
私の脳裏に2つのパターンが浮かんだ。
【パターン1】
士官後私は、近衛隊に配属される。
近衛隊は王直属の部隊であるため、有事に備え、城から出る事は許されない。
また異端者である私には、常に監視が置かれている。
反乱を起こさぬよう、敵に寝返らないよう…………。
寝ている時も、食事をしている時も…………。
心休まる時間など、全くない。
近衛隊の任務は王族と国を守る事。
そのため武人としての訓練は、とてつもなく厳しい。
雨が降ろうと槍が降ろうと…………。
地に倒れようと、血を吐こうと…………。
毎日の訓練を、おこたる事など、決してない。
やがて私は、近衛隊長に昇格。
地位と名誉を与えられる。
しかしそんなのは名ばかりで、実際は王国に捕らわれているに過ぎない身。
地位や名誉など、何の役にも立たない。
やがて世界は、混沌となる。
ザナール人との戦さが勃発する。
近衛隊長である私は、王の命ずるまま最前線へと向かう。
そしてそこで毎日、死闘を繰り広げる。
今日はこっち、明日はあっち。
休まる暇など全くない。
明けても暮れても戦の日々…………。
私はまるで『馬車馬』のように、毎日毎日、王国に扱き使われる。
やがて月日は流れ、身も心もボロボロになり、そして私は朽ち果てる。
嫌! こんな人生 絶対に嫌!
【パターン2】
士官後私は、王妃の側近に任命される。
側近とは、直接その人に仕える役職で、言わばその人の召し使いのような者
である。
側近は常に、主の側にいなければならない。
そのため私は、城から出る事は許されない。
やがて私も年頃の娘となり、王妃から婚姻を勧められる。
婚姻と言っても実際は、異端者である私を一生涯、王宮に縛りつけておくた
めの口実。
しかし、庶民出の私が、王妃の申し出を断る事など、許されるはずもない。
仕方なく私は、婚姻を受け入れる。
婚姻の相手は、この国の皇太子。
皇太子と言うだけあって、その姿は見目麗しい。
しかし、貴族社会は多妻制。
私は、皇太子の18番目の側室となる。
念願の結婚。
しかし私も、一度は王子を真剣に愛そうと、試みてはみたものの、私の役目
は、単なる慰め。
私は夫に心から、愛されてなどいない。
また庶民出の私は、正室や他の側室達から軽んじられる。
今日はこれやれ、明日はあれやれ。
奴隷のように毎日、扱き使われる。
休まる暇など全くない。
そのうち、婦人達からの嫌がらせもなくなり、平穏な日々を取り戻したか、
のように思われたが…………。
時、既に遅く、私の花は散っている。
離婚もできず、話す相手もなく、呼ばれもしない夫の声を、ただ待つだけの、
そんな日々。
私はまるで『籠の鳥』のように、毎日毎日、寂しい時を過ごす。
やがて月日は流れ、身も心もボロボロになり、そして私は朽ち果てる。
嫌! こんな人生 絶対に嫌!
【結論】
結論は至って簡単。
私は決して、異端者であってはならない。
私の異端者人生に、未来はない。
何としても、異端者である事を阻止しなければ!
こうして、新たなミッション『馬車馬と籠の鳥を阻止せよ!』が発動された
のである。
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