10.後悔先に立たず
布団の中で私は、ただただ震えていた。
「どうしよう どうしよう どうしよう…………」。
あれが私の仕業だとバレたら…………。
いや、そんな事より、さっきの爆発で、もし人が死んでいたら…………。
「そうなったら私 きっと生きてゆけない…………」。
後悔先に立たず。
今の私にピッタリな言葉である。
もし時間を巻き戻せるなら、巻き戻したい。
そして何もなかったかのように、庭でのんびり遊んでいたい。
「あぁ お母さん お父さん…………」。
その時だった。
私の部屋の扉が、突然開いた。
「リディア? リディア?」
母は布団の中に隠れている私を見つけ、布団をめくり、私の頬を、両手で軽
く押さえた。
「リディア? 大丈夫? 怪我はない? どこか痛いところは?」。
母はとても慌てていた。
私は母の顔を見て、思わず泣き出してしまった。
そして母に抱きついた。
母は優しく、私を抱き締めた。
「あぁ よかったわ。 もの凄く心配したのよ。 でも無事で何よりだわ。
まぁ こんなに濡れて 可哀想に…………」。
「お母さん お母さん レーチェル湖が…………レーチェル湖が…………」。
私は母に、ただそう言うだけで、それ以上の言葉は出てこなかった。
本当は『レーチェル湖が爆発したの』と言いたかった、のかも知れないが、
そんな事、言えるわけもない。
何せレーチェル湖を爆発させたのは、私自身なのだから…………。
間もなくして、父も帰って来た。
そして大きな声で「リディアは無事か?」と叫びながら、私の部屋に飛び込
んで来た。
そんな慌てた様子の父に母は、冷静な声で、私の無事を父に伝えた。
「とりあえず心配ないわ 怪我はないみたい」。
それを聞いた父は、ほっと胸を撫で下ろした。
そして私を、強く抱き締めた。
「大丈夫 パパが ついているから もう心配はいらないよ。 リディアの
事は パパが必ず 守るから!」
その後、母は、濡れている私の体を拭いてくれた。
冷えた身体が温まる。
父と母に抱きしめられたせいか、私は少し落ち着きを取り戻した。
しかし私の頭は、不安な気持ちで、いっぱいだった。
もし人が死んでいたら…………。
その事が私の頭から離れなかった。
その後父は、
「また職場に行ってくるよ。 何かあったらすぐ連絡してくれ! くれぐれ
もリディアを頼むよ!」
そう言い残し、職場へと向かった。
父は村の『治安所』で働いている。
治安所は、村の警備や防衛、事件や事故を解決する機関だ。
村に何かあった際は、真っ先に現地へと向かわなければならない。
私は父に対し、申し訳ない気持ちで、いっぱいになった。
その後、母は私をベッドに寝かせ、私の胸を、トントンしてくれた。
「今はゆっくりお休みなさい。 もう大丈夫だから 心配いらないから。
お母さんが いつまでも側にいるから…………」。
母の優しさが心に染みた。
これは現実じゃない…………。
どうか夢であって欲しい…………。
そう思いながら、私は浅い眠りに就いた。
どれ位、時間が経ったであろうか…………。
1階から話し声が聞こえる。
私は部屋を出て、階段へと向かった。
階段上で、父と母の会話が聞こえる。
どうやら父は食事のために、一度、家に戻って来たようだ。
やはり これは現実…………。
私の心は、悲しみに打ちひしがれた。
「リディアは どうしてる?」。
「少し落ち着いたのか 今は部屋で寝ているわ。 リディアはきっと庭で遊
んでいたのね。 それであんな酷い目に遭って。 可哀想に…………」。
「怖かっただろうな。 後に残らなければ いいが…………」。
そんな父と母の会話を聞いて、私は一瞬、考えた。
思い切って、洗いざらい正直に、全てを話してみようかと…………。
そうすれば、心が幾らか楽になる。
しかし…………。
もし死人が出ていたら…………。
父と母を 苦しめる事になる…………。
そう思うと私は、1階へと降りる事が出来なかった。
「怪我人はいなかったの?」。
母の質問に私は、一瞬ドキッとした。
そして目をつぶり、両手を合わせ合掌した。
どうか犠牲者はいませんように…………。
「怪我人や死者はいなかったよ。 おそらく禁漁期だった事が 幸いしたん
だと思う…………」。
父の言葉を聞いて、私は心からほっとした。
胸のつかえが取れたような思いだった。
あぁ 良かった…………。
これで殺人者にならなくて済む…………。
これで私の罪は…………。
レーチェル湖を爆発させた事だけ…………。
しかし…………。
これって罪になるの?
私はただ、魔法を試しただけ…………。
意図的にレーチェル湖を、爆発させた訳じゃない。
じゃ、父と母に正直に話してみれば?
…………。
あぁ~ でも駄目!
魔法が使えると分かれば、私は異端者にされてしまう…………。
異端者だと分かれば、私は王宮に連れて行かれる。
父と母と、離れ離れになってしまう…………。
私は心の中で自問自答をした。
やはり正直に話す事など出来なかった。
「ところで誰の仕業か分かったの?」。
「おそらくザナール人の仕業だろうと 皆が噂している」。
へっ?
ザナール人?
「それにあの魔法の力…………」。
父の言葉が、一旦、途切れた。
「あれは尋常ではない。 もしかして『水神』かも知れない…………」。
へっ?
水神?
うそ?
あれ ウォーターボールなんですけど…………。
心配そうに話す母の声が聞こえる。
「まぁ『水神』だなんて 怖いわ。 そんな魔法 撃てる人が近くにいるな
んて…………。 もしかして異端者かしら?」。
「異端者の可能性は十分にある 警戒しなければ…………。 下手すれば
この村が滅ぼされ兼ねない…………」。
父がそう言うと、しばらくの間、2人は黙っていた。
その後、再び、父の声が聞こえた。
「この村は厳戒態勢に入るよ。 村人は全員 仕事は休み 自宅待機だ。
明後日には 本国からの応援部隊も到着する!」。
えっ?
本国って アデール王国の事?
「いいか ユリナ よく聞くんだ。 もしこの村に何かあったら 俺の事は
構わず リディアを連れて この村から逃げなさい。 リディアの事を頼む
よ!」
それに対する、母の返事はなかった。
「それじゃ また仕事に行って来るよ。 十分警戒するように!」。
「分かったわ あなたも気をつけて…………」。
2人の会話の後、玄関の扉が開く、ベルの音が聞こえた。
私は1階には降りずに、そっと階段上から部屋へと戻った。
胸が締め付けられる思いがする。
でも、とりあえず死者はいなかった。
これについては、心からほっとした。
しかし…………。
ザナール人?
水神?
厳戒態勢?
本国からの応援?
あぁ どうすればいいのだろう…………。
事態は大事になっている。
今更『私が犯人です』なんて、口が裂けても言えない。
それに…………。
話せば私が異端者だと、バレてしまう…………。
でも…………。
私のせいで、父と母に迷惑が掛かっている。
そして村の人達にも…………。
私はベッドに横になり、再び目を閉じた。
そして…………。
お父さん お母さん ご免なさい…………。
そう心の中で呟いた。
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