1.私のカエルちゃん
もう どこに行ったのかしら? あのカエル!
「カエルちゃん カエルちゃん 早く出ておいで~」。
そう叫びながら、私はカエルを探している。
『カエルちゃん』とは、私が飼っているカエルの事で、私は自室にある水槽
の中で、カエルを1匹、飼っていた。
しかし不本意にも、カエルは逃げ出したのである。
「こ~こかな♪ こ~こかな♪ ど~こ~かな♪ それそれそれそれ♪」。
私はその場限りの、踊り付きの、自作の歌のリズムに合わせ、2階にある私
の部屋で、カエルを探していた。
私の部屋は、とてもシンプルな作りである。
大きな出窓に大きなベッド。
窓際には花が飾られ、本棚とタンスと鏡は、壁に埋め込まれ作られている。
本棚には子供向けの本が数冊。
タンスには、6歳の女の子が着る、赤と黄色のワンピースが2着。
床の上には、机と椅子と小箱が置かれ、机の上には水槽が。
そしてこの水槽こそ、カエルがいなくなった第一現場なのである。
まず最初に私は、机と椅子の下、そして小箱の中を探してみた。
しかしカエルは、いなかった。
次にベッドの下、布団の中、窓際、本棚、タンスの中を探してみた。
しかしカエルは、いなかった。
「もう どこに行ったのカエルちゃん♪ 私を置いて なぜ行くの~♪」。
自作の歌は、今日も絶好調である。
しかし私が何度歌っても、カエルからの返歌はない。
私は、ふと、部屋のドアが開きっ放しである事に気づく。
「もしかしてカエルちゃん 部屋から出たのかな~?」。
そこで今度は、部屋の外まで捜索範囲を広げて見る事に。
私の部屋は2階にあり、部屋から出ると、直線上に廊下が走っている。
廊下奥は行き止まり。
左側には部屋3つ。
右側には窓2つ。
窓の向こうは、お外である。
部屋は廊下奥から、物置、私の部屋、両親の部屋と並んでいる。
自室から出た私はとりあえず、廊下の床一面を、隅々まで見渡した。
しかしカエルは、いなかった。
「もしかして 1階に逃げたのかな~?」。
そこで私は1階に下りようと、両親の部屋の側にある、階段上段へと足を進
めた。
この家の階段は、2階から直線に階段から踊り場。
そこから直角に曲がり、踊り場から1階へと続いている。
階段上段まで足を進めた私。
私はすぐさま、階段の踊り場へと目を向けた。
すると…………。
何と!
そこには…………。
探し求め続けた、緑の生き物の姿が!
「カエルちゃん 見~っけ!」。
カエルは階段踊り場で、じっとしている。
そして外から入る光の方向、つまり階段下段の隣にある、玄関の方向を見つ
めている。
きっとカエルちゃんは ここから逃げ出すつもりなんだわ。
しかし そうはさせない。
何としてもカエルちゃんの脱走を 阻止しなければ!
私の『カエル捜索プラン』は『カエル捕獲プラン』へと変更された。
階段上段で、まず最初に私は、その場で四つんばいになった。
そして大きく静かに深呼吸をし、そのまま息を潜めた。
そして四つんばいのまま、ゆっくり、ゆっくり、階段を下り始める。
まるで鼠を狙う、猫のように…………。
その時である。
「あっあっあっ!」。
何と私の右手の手の平が滑り、階段を踏み外してしまったのである。
私は息する暇なく腹ばい姿勢のまま、階段踊り場へと勢いよく落ちて行く。
「ドッドッドッドッドッドッドッ」。
胸は打つわ、お腹は打つわ。
階段から落ちる音がする。
「お願い 止まって~!」。
私は必死に止まろうと試みた。
しかし勢いは止まらず、そのまま階段踊り場へと頭から突っ込んだ。
「ひぃ~!」。
そして両手を床に突き、勢い余って踊り場で1回転のでんぐり返し。
その後、どう言う状況でそうなったのかは分からないが、今度は横に回転し
ながら、階段下段へと転げ落ちて行く。
もう何が何だか。
「助けて!」。
私は回転したまま、階段下段へと転がり落ちた。
そしてそのまま1階の、玄関付近の壁に激突した。
「ドーーン!」。
「バタッ」。
私は床の上に仰向け、大の字状態で倒れた。
そして、そのまま気を失った。
気がつくと私は、ベッドの上に仰向けで寝ていた。
天井には、白く光るガラスの棒が見える。
そして私の左の耳の方では「ピッピッピ」と言う不気味な音が聞こえる。
ここどこ?
何が何だか さっぱり。
私は、とりあえず起き上がろうと試みた。
しかし体に力が入らない。
それどころか、今までに感じた事のない違和感を覚える。
とにかく 助けを呼ばなきゃ!
あれ?
声が出ない!
その時である。
近くで何かが動いたのである。
えっ 何かいる!
私はとっさに布団の中に隠れようとした。
しかし体が動かない。
なんで私の身体 言う事 聞いてくれないの?
どうして…………?
私の心は、身体が動かない悔しさで一杯となった。
と同時にその悔しさは段々、恐怖へと変わり始める。
見知らぬ部屋。
動かない身体。
出せない声。
そして近くで動く何か…………。
怖い 誰か助けて~!
でも声が出ない。
助けも呼べない。
どうしよう…………。
恐怖の中、どうする事も出来ない私。
仕方がなく私は、何かが動いている方向にこっそりと、目を遣ってみる事に
した。
すると…………。
そこには…………。
何と!
私より少し大きい背丈の、白黒色、丸体型、パッチリお目々をした謎の生き
物が、歩いているではないか…………。
げげげっ あれ何?
あんなの見たことない!
見たこともない生き物が、私の近くにいる。
私の心は段々、恐怖から焦りへと変わり始めた。
早くこの場から逃げなきゃ!
お父さん お母さん 助けて…………。
私は心の中で、助けを求めた。
その時である。
見たこともない生き物が、突然しゃべったのである。
「こちらICU3 患者○○さん 血圧低下 心拍数上昇。 危険です!
危険です! 応援お願いします!」。
えっ?
その言葉に私は一瞬、体が硬直してしまった。
患者? 血圧? 心拍数?
何それ?
聞いたこともない言葉…………。
しかし…………。
よくよく考えてみると私には、その言葉の意味が不思議にも理解できる。
何で?
私は固まったまま、しばらくの間、天井を眺め考えた。
そして、はっとした。
そうか…………。
ここは病院か…………。
そして、ここは病室。
しかもICUの3号室。
白く光るガラス棒は、蛍光灯。
不気味な音は、心電図。
そして見たこともない生き物は『介護用ロボット ペンギン健ちゃん』。
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