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退屈はイヤなので国を興します  作者: シュシュ黒
見習い司祭
6/18

ラエルの罪



 目が覚める。


 ここはどこだろう、辺りは草木が生い茂っている。昨夜の記憶がどうにもあやふやだ。


「確か、鉄仮面を・・・」


 そうだ。鉄仮面の魔術師を殺すように言われていたのだ。


「――!――!」


 なにか音がする、うめき声だろうか。恐る恐る近づくと声の主の姿が分かった。


「・・・鉄仮面?」


 何故か鉄仮面の男が倒れ込んでいるのだ。喉が潰れているのだろうか、ちゃんとした声が出ていない。


 この際、何でこうなったのかはどうでも良い。


 この男を殺せればラエルは酷い目に合わずに済むのだ。そう思って、護身用のナイフを取り出す。


「どうすれば良いんだろう?」


 ラエルは人の楽な殺し方など知らない、だからいつも、ジャックがやっていた真似をした。


 幸い、口を縛る必要はない。つまり、これから殺す人の顔を見る必要はないのだ。


 ナイフで腹を刺す。男が苦しみに喘いでいるのが分かる。


 嫌な気持ちになった。だんだん怖くなってくる。


 そんな気持ちを紛らわせるために、

















 刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す怖い刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺怖いす刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺気持ち悪いす刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す自分が嫌になるほど刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺もっとす刺す刺す刺す刺す刺す刺す楽しい刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す気持ち悪い刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺怖いす刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す気持ち悪い刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す刺す。










 どれくらいの時が経っただろうか、最初は温かかった返り血も、冷たくなってしまった。もう動かなくなったので流石に死んだのだろう。


「そういえば首は戦利品にするんだっけ・・・」


 ジャックに言われたことを思い出す。首を斬るのに邪魔だったので鉄仮面を外した。




「ジャック!?」


 


 訳が分からない。何故、鉄仮面の中身がジャックの顔なのか。


「・・・双子?」


「そんな訳ないだろ」


 どこからともなく本当の鉄仮面が現れる。


「お前、そいつが怖かったんだろ?恐怖で逃げることができず、従うしかなかった」

 

 その通りだ。だって、殺されると思ったから。


「だがな、お前は強い。その雑魚よりずっとな」


 でも、ラエルには勇気がなかった、ジャックに抗っても無意味だと思っていた。


「たった今、お前は殺したじゃないか。自分で自分の呪縛を断ち切ったんだよ」


 そう、別にジャックなど大した力のないただのクズだ。分かったのだ、ラエルはジャックなんかに縛られてはいなかった、ラエル自身が縛っていただけだった。


 ラエルは自由だ。


「レトロさんに会いたい!」



   ______________________

 


「どういう状況ですかね?」


 何故かレトロは草原で目を覚まし、何故かレトロは怪我をしていて、何故か血みどろのラエルが側にいて、何故かロウルがジャックの首を持っている。


「お前に言いたいことがあるそうだ」 


 どうやら、もうラエルを縛るものは無くなったらしい、彼女の顔を見れば分かった。


「ごめんなさい、私、レトロさんを殺そうとしました」


 ラエルが涙を流しながら言う。


「別にいいんですよ、仕方なかったんでしょう?」


「そんなにボロボロになってるじゃないですか」


「全然平気ですよ、ほらこの通り」


 腕を動かしてみる、痛い、動かさなければよかった。しかし、それは顔には出さずに振る舞えるのがレトロの長所だ。


「私がもっと抵抗していれば・・・」


「怖かったんでしょう?」


「私が臆病じゃなければ・・・」


「でも、最終的に気付くことができた」


「ごめんなさい、ごめんなさい」



 彼女の声からはどんどん余裕が消えていく、きっと罪悪感に囚われているのだ。


 人は人を殺すのに罪悪感を感じる、だから自分を責め立てるのだとレトロは考えている。




「私、楽しかったんです」


 ラエルが溜め込んできた思いを吐き出す。


「レトロさんとそこの鉄仮面の方を殺そうと走り回っていたときに思ったんです」


    ______________________


 ラエルは各地を旅していた間に沢山の人がジャックによって殺されるのを見てきた。


 口を縛られ足の腱を切られた少女がナイフで身体を滅多刺しにされていた。ジャックのことを意味の分からない怪物だと思っていた。


 でも、結局それはラエルも同じだった。


 鉄仮面を追いかけていたときに楽しいと思った。ついさっき、ジャックを刺したときも楽しいと思ってしまった。



 怖かった。殺人を楽しむ自分自身が怖かった。


 自分のことを気味の悪い怪物だとしか思えない。



 ラエルの身体に流れる獣血がそうしているのか、それとも、そんなのは関係なくラエル自身の精神性がジャックのそれと何ら変わらないのか。


 耐えられない。




「あなたは人を殺してなんかないですよ」


 この人は何を言っているのだろう。



「俺もロウルさんも死んでいない」


「でもさっき」



「ジャックは人間じゃない、人の皮を被った悪魔だ。だからあなたは人殺しじゃない」


 そんなのは罪悪感から逃げるための言い訳だ。



「沢山の人が殺されるのを黙って見ていました」


「あなたが殺したわけじゃない」


「同じですよ、見殺しにしてきた!私が何もしなかったからあいつに殺された!!」


 全部ラエルのせいだ。自分可愛さに彼女らを見捨てた。この憤りをレトロにぶつける自分が益々嫌になる。




「じゃあ、僕たちに着いてきてください」


 一瞬、何を言われたのか分からなかった。何もできなかったラエルに何を期待しているのだろうか。



「あなたが見殺したという人の倍の人数を救ってください」


 それで罪が消えるわけじゃない。



「罪が消えるわけじゃない、殺された人にはあなたは恨まれてるでしょうよ。でもこれから助ける人たちには感謝されるんです」


 そんなの独りよがりだ。



「自分勝手だと言う人もいるでしょうね、だからなんですか?そんな奴の言葉なんて聞かなくていい、あなたが助けたあなたの心を救ってくれる人の言葉だけ聞いていれば良い」


 滅茶苦茶だ。嫌な言葉は無視して、聞きたいことだけ聞いて生きるなんて。それにラエルなんかの助けを必要としている人がこの世界にいるのだろうか。


「僕たちを助けてください」




 人を救ったところで罪は消えない、身体に流れる獣の血も消えない。


 でも、ラエルは今の自分に満足できない。変わりたい。


 ラエルは後悔して、悩んで、苦しんでいるだけではなく、誰かを助けたい。


 目の前のレトロのように。

 

 



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