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退屈はイヤなので国を興します  作者: シュシュ黒
見習い司祭
17/18

17 裏切り者と侵入者




「我々はこれより王都の勇者のもとへ向かう」


 狭い馬車の中にジェルマン伯爵、レトロ、ラエルは乗り込んでいる。


「あの、どうして私が?」

「ラエル嬢は私の従者として、イアンとミクロは護衛、レトロは私の弟子として振る舞え」


 その役割分担ならばラエルは危険な目に遭うことも少ない。レトロはラエルに傷つくようなことがあってほしくないのだ。


「レトロの真似をしていれば問題ない」

「・・・分かりました」

「何かあったら言ってくれよ?」


 何故かジェルマン伯爵が呆れたようにレトロを見てくる。


「どうかされましたか?」

「いや、なんでもない。・・・先日の勇者に関する説明をしてくれるそうだが、大勢の貴族が集められているのだ。あの四大貴族もそれぞれ参加するらしい」


 王国は太陽神を王として水、雷、大地、風の四柱の神がそれを支えた。その後に光や月、霧、砂などの神々が加わった。その子孫が王族や貴族であり、水、雷、大地、風の貴族は四大貴族と呼ばれ特に強い権力を持っている。


「あの腐った貴族共が?」

「お前の口からそんな言葉が出てくるとはな。まあ、私も同意見だが」


 今や神の力も弱まり、だがそれでも権力を振りかざすのが貴族だとレトロは教わってきた。能力ではなく血筋で選ばれる者になにができるのか。実際、数百年前の貴族たちならば魔王軍など取るに足らない存在だっただろう。


「四大貴族は腐敗してることで有名ですから」

「王国にはもう力はないってロウル先生も言ってました」

「いかにも。だから私も王国に見切りをつけたのだよ。上流階級が豊かな暮らしができるのは庶民のために尽くすからだ。それすらできず甘い汁を啜るだけの虫けらはいつか駆除されるべきだ」

「伯爵?」


 ジェルマン伯爵が熱く語り始めた。それがロウルたちと協力する理由なのか、それすら偽りなのかはレトロには判断できない。


「おっと、つい熱くなってしまった。儀式に必要なものが手に入るかもしれないのだよ。お「着いたぞ」く」


 馬車の御者台からロウルが話しかけてくる。ロウルとラエルも参加するこの任務は激しい戦闘を想定しているのだろう。それだけではない。ミクロもイアンも、その他の司祭も護衛として参加している。


「まだ時間があるからな。作戦を確認する」


 


   _________________________


 


 美しいシャンデリアにきらびやかな服装をした貴族たち。その中に給仕服を着たラエルと貴族の格好をしたレトロはジェルマン伯爵のすぐ後ろにつく。


「今夜は運がいい、なかなか儲かる」

「お強いんですね」


 ジェルマン伯爵の正体を知らないラエルは素直に称賛する。ラエルは伯爵の正体を知らず、レトロのしていることも分かっていない。レトロはラエルを騙したいわけではないが、これは好都合だ。

 伯爵とレトロが協力して手に入れた金は二人で山分けすることになっている。その金が今のレトロはどうしても欲しい。


「さて財布もかなり潤ったな。それはそれとして、そろそろ始まってもいい頃合いだが」

「諸君、今宵はよく集まってくれた」


 燃えるような赤髪が特徴的な男が大勢の貴族に向かって労いの言葉を発した。その背後には大柄な騎士が佇んでいる。


「第四王子のリオス殿下だ。当たりだな」


 伯爵が誰にも聞こえないようにこっそりとレトロに耳打ちした。レトロは目を閉じてロウルに連絡する。


『まだだ。そのときになったら合図する』


 若干の吐き気を催すがそれよりも与えられた仕事の方が重要だ。


「そのときになったら合図するそうです」

「それまでは大人しく勇者の説明でも聞いておくか」


 リオス王子は貴族たちへの挨拶も済ませ本題に入っていく。


「そもそも勇者とは魔物と契約し世界を滅ぼさんとする魔王に対抗するために存在する。予言では、魔王が誕生したそのときに、勇者は光の一族の中に生まれるとされた。幼少の頃から訓練しある一人の少女が勇者となったのだ」


 それで選ばれたのがあのアンリだったというわけだ。


「だがそれでも、魔王に対抗するには足りないと私は考えている。だからこそ、王国貴族が一丸となって強大な敵を打ち砕くのだ。四大貴族よ、前に出ろ」


 カールと四大貴族の家系であろう他の二組の貴族がリオス王子に近づく。


「・・・アースク家は欠席か」


 ガルア家は大地の神の子孫だが、そもそもこの会に参加していない。


「水のヒエトス家は王家に忠誠を誓います」

「風のアネモス家は王家を支えます」


 各貴族の代表はリオス王子と握手をして王国につくことを誓う。だが、ヒエトス家は既にレトロたちの仲間だ。こんな口先だけの忠誠に、とレトロはつい考えてしまう。


「雷のホーラス家は王家の剣として戦います」


 リオス王子がホーラス家の代表と握手をしようと手を伸ばしたときだった。その刃の輝きに気付き反応することができた者はこの場のほんの一握りだろう。


「・・・裏切り者め」


 リオス王子はそのほんの一握りの中に含まれていた。自らの命を奪わんとするその凶刃から逃れ、不届き者を始末しようとリオス王子の騎士がホーラス家の下手人に斬りかかるが取り逃がす。


「貴様!なぜ王子を!」

「我らホーラス家は魔王軍に忠誠を誓ったのだ。リオス・イグニス、貴様にはここで死んでもらう!」


 会場の内の数十名のホーラス家の者達が隠し持っていた武器を取り出して誰も逃げられないようにする。


 そのとき、窓から鉄仮面ではなく麻袋を被った男――ロウルが侵入してきた。その後にも何人かの覆面を被った男たちが乱入する。


「何者だ!」


 これはホーラス家も想定していなかったらしく、動揺を隠せていない。さらに、光を消していないというのに暗闇に包まれ、混乱は伝染していく。


 ホーラス家の裏切りという予想外の出来事があったものの、結果的にはホーラス家の者達はロウルやイアンに倒され何も問題がないように思えた。


「シャンデリアライト!」


 たくさんの輝く光の玉がレトロたちの頭上に広がり、漆黒の闇は払われた。


「どういう状況!?」

「落ち着け。今は敵に集中しろ」

 

 アンリが困惑していたがそれを宮廷魔術師クリスが宥めて、的確に風の刃を覆面たちに当てていく。


「まずはお前からだな。・・・撃て」


 ロウルが命令して覆面の男たちが銃を連射する。ドワーフが作った特殊な銃の性能は人間が作ったものとは比べ物にならない。


「マジックシールド」

「フラッシュボム!」


 蒼の巨大な盾をクリスが展開し、目が眩むような光で覆面たちの視界を奪う。


「うわあああ!」

「銃を撃つな!貴族の人たちが可哀想でしょうが!」


 アンリは貴族の心配をしているが、下手したらあの光で失明しているのではないかと咄嗟に目を瞑ったレトロは思う。


「うう」

「くっ、目が!」


 ところが、ラエルとジェルマン伯爵はそうはいかずに苦しんでいる。


「ラエル!大丈夫か?」

「うん。見えないだけ」


 レトロは自分と関わりのない人間の命や目がどうなっても構わないと思っている。だが、ラエルやイアンにミクロ、父、母、弟のロレスなど大事だと思える人はいる。


「ふざけやがって」


 レトロは勇者アンリに謝罪をさせなければ気が済まない。だから、この戦いには参加する必要があるのだ。


 レトロは立ち上がり敵と対峙する、覆面の男たちと。


 


 

 


 

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