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退屈はイヤなので国を興します  作者: シュシュ黒
見習い司祭
15/18

15 レトロの初めて




 案内役の神官は魔族で、死体を燃やした灰を人形にして操っていた。魔王軍で活躍するために人を殺していたらしい。その協力者として魔族の女も人に化けていたようだ。


 本物の神官たちは殺されており、憲兵は魔族に買収されていた。


「調査に来たカールが言ってました」


 この街はヒエトス家の領地でカールも調査に来ていた。


 カールの水の力で湖の底の『聖なるマイラ』を探すのがかなり楽になっている。


 今はカールとイアンで捜索していてレトロとミクロは浜辺で休憩している。


「レトロはあの女が魔族だって気付いてたのか?」

「いえ、全く。ミクロさんがいなければ危ないところでした」


 レトロは強くはなったが、まだ敵の策略を見抜くことはできない。ロウルだったらあんなことにはならなかったとレトロは考える。


「じゃあ人を殺そうとしたのか。初めてじゃないだろ?」

「・・・そうですね。聞きたいんですか?」

「昨日の夜からお前のことをどう評価すればいいか分からなくてな」


 レトロは今まで誰にもレトロの初めてを話したことはない。話したくない。レトロの初めてを知って不気味がられるのも怪物のように扱われるのもごめんだ。


「別に無理しなくて良い」


 ミクロはそう言ってくれる。ロウルやラエルも知らないレトロの秘密を、他ならぬミクロになら話しても構わないのではないか、ふと、そんな考えがよぎった。


 ミクロは何度もレトロを助けてくれた。要塞に神殿で命を救われた、訓練にも付き合ってくれた。ミクロに応えるためにも話すべきだ。


「・・・僕が十二歳のときでした」




     _______________________





 レトロは当時、犬を飼っていた。黒い毛並みが特徴的なシャエルだ。シャエルはまだ子犬でレトロの弟――ロレスが拾ってきた捨て犬だった。なんとか両親の承諾を得て晴れて家族となり、レトロとアデルで散歩をしていたときだ。


 いきなりロレスが宙に浮いたのだ。あまりに突然のことで弟が誘拐されたことに気付くのに時間がかかった。


 シャエルは賢く優秀な犬だった。人攫いの落とした刃物の匂いを頼りに後を追いかけたのだ。


 街外れの廃墟に人攫いはいた。助けを呼ぼうにもその間に人攫いが出て行ってしまうかもしれない。だから、レトロは賭けに出た。廃墟の扉をノックする。


「誰だ?」

「道に迷ってしまって・・・」

「そうかい、坊や。それなら今夜はここに泊まっていきなよ」


 レトロが子供だと分かった途端に優しく振る舞う。しかし、この男は人攫いで、このままではレトロもこの男の餌食になる。


「うっ」


 だから、男の腹を刃物で刺した。一回では死ななかったので何度も何度も刺した。やがて、人攫いから音はしなくなった。動かないならどうでも良かった。


「ロレス、もう大丈夫だぞ」

「兄ちゃん!?なんでここに!?」


 猿轡を外してロレスを解放する。


「クロが追いかけてくれたんだ」

「っ!兄ちゃん!!」


「・・・よくもやってくれたな」


 レトロの背後から冷たい声がした。人攫いは二人いたのだ。男は手斧を振り下ろす。弟を守ろうとロレスに覆い被さる。死を覚悟したがその瞬間が訪れることはなかった。


「クソ犬がっっ!!」

「シャエル!」


 シャエルが主を守るために人攫いに噛み付いたのだ。しかし、子犬の体では大した抵抗はできずに全身を床に打ち付けられる。さらに頭を思い切り踏まれる。









 そのまま動かなくなった。









 心の底から嫌な気分になった。男の腹を刃物で刺したが、抵抗されたことまでは覚えている。気付いたら男は死んでいて、その死体には足や腕にも刃物の傷が、他にも引っ掻かれた痕があった。レトロも腕の骨が折れていた。


 だが、今となってはそんなことはどうでもいい。頭から離れないのはロレスの顔だ。


 その廃墟には怪物がいたらしい。




    _____________________



 

「それが僕の初めてです」

 

 しばしの間、沈黙が流れる。湖の揺れる水面の音だけが聞こえた。


「その後、父がやってきて人攫いは人の皮を被った悪魔だと教えてくれました。普通はあんな殺し方をしたらトラウマになるんでしょうね。でも正直、人を殺したことは気にしていません。それよりも、弟に不気味がられたことの方が堪えました」


 ずっと溜め込んでいたものを吐き出す。


「そのときです。自分が他の人とは違うことに気付いたのは」


 止められない。自分の中で何かが溢れてくる。


「僕には人を殺したときの罪悪感が理解できない。それでも自分が人の心がない怪物だなんて認めたくないんです。だから、自分はまともな人間だって言い聞かせないと生きていけないんです。困っている人を助けるのは優しくて正常な人間に見えるからです。でも本当に優しい人はそんなこと考えていないんじゃないかって」


 ぶちまけた。勢いで、聞かれてないことまで答えていた。それがレトロを評価する材料になるなら構わない。


 恐る恐るミクロの顔を見る。笑っていた。


「・・・お前は考えすぎだな。確かに人と違うところもあるだろうな。だからなんだよ!気にすんな!頑張ってもどうしようもないものはあるんだ」

「・・・でも」

「それでも辛くなったら俺とかイアンに相談しろ!仲間を頼れよな!よし!休憩終わり!」


 ミクロが走り出す。 

 

「先についたほうが勝ちだ!」


 ミクロが湖に向かって走り出す。


「・・・あ」


 レトロもそれに続いて走り出す。自分が笑っているのに気づかずに。






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