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退屈はイヤなので国を興します  作者: シュシュ黒
見習い司祭
14/18

14 背後



 約束の時間になると神殿の前に人が集まっていた。そこにレトロも加わる。


「本日はお集まりいただき感謝申し上げます。選ばれた皆様方には我らの儀式に参加してもらいます。最後まで参加していただいた方にはお礼も差し上げますのでどうかご協力くださいますよう」


 こういった行事には参加した経験がないため楽しみだ。


「何をするんでしょうね?」


 近くにいた女性がレトロに話しかけてきた。


「湖に祈りを捧げるそうですよ」


 見知らぬ男性から教えられたことを話す。なにをするか知らされていない者も中にはいるらしい。


「この儀式のお陰でこの美しい湖があるんでしょうね」

「綺麗ですよね!特に夕暮れが絶景で!」


 レトロは昔から美しい景色を見るのがとても好きだった。ずっと生まれた街にいたら湖の絶景は見ることがなかったかもしれない。


 神殿の奥まで進みながら女性と湖の景色について大広間に着くまでずっと話していた。


「では体を清めていただきます。一人ずつ奥の部屋まで入ってきてください」


 大広間全体が巨大な燭台に照らされている。よく見るとさらに奥の方に部屋があり、そこに一人ずつ入っていく。


「次の方」

「行かないと。ではまた」


 レトロの順番が回ってきた。女性に別れを告げて部屋に入ると案内役ともう一人の神官らしき人物がいた。


「そこに立って目を瞑りながら俯いてください」 


 念のため薄目を開けながら言われた通りにする。


 神官は棍棒を懐から取り出し、背後に立つ。


「それ棍棒では?」


 流石に違和感を感じたため、目を開け神官に声をかける。


「それは、えと、お清めの棒、です」

「太くないですか?」


 案内役がすごい量の汗を吹き出しながら説明する。


「太いと穢れを飛ばしやすいんですよ」


 一瞬、訪れる静寂。


「なるほど」


 レトロは納得した。


「では続きを・・・」


 レトロは素直に俯く。


「よし、『神官』」


 神官がお清めの棒を振りかぶる。


「振りかぶる必要あります?」

「け、穢れを叩くためです・・・」


 どれほどの時間が立っただろうか。数時間、或いは数秒の間に緊張が走る。


「なるほどなぁ」


 レトロは納得し、顔を下に向ける。


 瞬間、レトロの頭目掛けて振り下ろされるお清め棒。その太く巨大なお清め棒は全力で振るえばレトロの頭を容易く砕けるだろう。レトロが避けなければの話だ。


「最後まで信じてたのに・・・」


 頭に当たる直前、髪の先に触れた瞬間に横に飛び出し避けたのだ。体勢を崩した『神官』の喉を隠し持っていたナイフで切り裂く。するとその体はあっという間に灰になってしまった。


 案内役を問いただそうとするも、すでに部屋から出て大広間に逃げ出していた。


「きゃあああ!」

 

 大広間で先程の女性が襲われている。急いで助けたは良いものの敵に囲われてしまった。


「さあ大人しく、死ね!」

「お前がこいつら操ってるのか」


 攻撃してくる神官たちの動きは機械的でまるで操り人形だ。すべての人形が案内人の命令に従っている。


「流石に全部は倒し切れないな」

「こっちに逃げ道があるんです!」


 女性の言う逃げ道には偶然にも人形の数が少ない。魔術で蹴散らし女性の言う通りに進む。


「ここまで来ればもうしばらくは大丈夫です」

「念のため周りを確認しておきます。少しだけ離れてもらっていいですか?」


 女性がレトロの腕を離してくれない。


「怖いんです。あなたまで殺されたら・・・」

「大丈夫ですよ」


 女性が上目遣いで目に涙を浮かべる。


「・・・また、お話してくれますか?」

「もちろん」


 女性と離れて近くに敵がいないか確認する。


 背後の敵には気づかずに。



    ________________________




「遅くないか?」


 イアンとミクロはレトロの合図で神殿に侵入する手筈だったがその合図が一向に送られてこない。


 そのとき、静かな夜に乾いた金属の音が響き渡る。


「っ!銃声!!」

「行くぞ!」


 恐らく戦闘になったのだろう。敵の戦力が分からない状態でレトロを一人で戦わせる訳にはいかない。


 門を潜り神殿の内部に侵入する。少し進むと神官らしき服装の連中が集まっていたが動きがぎこちない。


「イアン!」

「おう!」


 イアンが高く跳躍し身体から丁度ミクロくらいの大きさの鉄塊を大量に放出する。鉄塊に潰されると神官の集団はたちまち灰に姿を変えた。


「た、助けてくれ!」


 その中で一人だけ会話の余地がある者を発見した。


「レトロはどこだ?」

「ガキが一人奥に・・・」


 ミクロが触手の権能で神官を持ち上げて、レトロのもとに向かう。


「レトロ!」

「あ、二人とも」

「後ろ!!」


 レトロの背後で女が刃物を振り下ろそうとしていた。ミクロの言葉の意味を理解したレトロが間一髪で凶刃から逃れる。


 だが、レトロが平気で人を殺せる人間だとは思えない。それに殺人の罪悪感を味わっては欲しくない。ミクロが代わりをすると心の中で決めていた。




 レトロが女を殺すまでは。




 ナイフで女の首の血管を切ったのだ。レトロは赤黒い返り血を浴びた。


「助かりました。今どういう状況なんですか?」


 平然と、いつもと変わらない調子でレトロは聞いてきた。


 


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