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退屈はイヤなので国を興します  作者: シュシュ黒
見習い司祭
13/18

13 儀式



「お前にも教えとかないとな」


 任務も完了しロウルに報告を終えたときだった。


「俺たちがどうやって国を創るつもりかをな」


 レトロは魔術や剣術に夢中で、どこでどのように国を創るつもりかを聞くのをすっかり忘れていた。


「魔術都市ミルガナの氷を溶かしてそこに国を建てる」


 二百年前、魔術都市ミルガナは氷魔と氷鬼によって永久に溶けることのない、今もなお増殖する無限の氷に覆われてしまった。魔術都市の滅亡によって強力な古代魔術の技術が失われてしまったのだ。


「俺たちで魔術の知識を独占して王国を迎え撃つ」


 だがこれにはいくつかの問題がある。まず、どうやって氷を溶かして氷魔を倒すか。次に、王国に攻められるまでの時間稼ぎはどうするか。


「氷は聖女様の太陽の力とレフの氷の力で食い止める。その隙に俺と司祭で氷魔を倒す」

「・・・太陽の力、ですか」


 太陽神の血を引くものが扱うことができる力を聖女様は持っている。それは彼女の血筋を表しているのだ。


「あの方は王族だ」


 レトロの推理は間違っていなかった。


「なぜ王族がここに?」

「それは教えられない。ただあの方は生まれつき太陽の力が弱い。だから、道具と儀式で力を捧げる必要がある。その儀式に必要なものをお前には集めてもらうことになる」


 レトロにはどういう理屈かは知らないが、太陽の力は強化することができるらしい。そう簡単に集まるものではないからレトロはあの訓練を受けさせられたのだろう。


「王国に攻められるまでの時間稼ぎだが、それは魔王軍に任せる」

「魔王軍に?」


 闇の一族は魔王軍に忠誠を誓っている。彼らと交流のある司祭をロウルは司祭に引き入れた。


「ミクロさ」


 ミクロは闇の一族の血を引いており、ミクロの祖父は魔王軍幹部だ。彼は協力を快く受け入れ、ロウルたちが魔術都市を手中に収めたタイミングで魔王軍が王都を襲撃する手筈となっている。


「すごいですね。あの人」

「ああ、ミクロがいなければ実現できなかったかもしれないな」


 それに加えて、水の大貴族が協力を約束している現状はレトロたちの建国が不可能ではないと思わせる。


「お前はこれからイアンとミクロと行動してもらう。儀式の素材を集めるんだ」





    _______________________




「ミクロさん、ここで合ってるんですか?」


 湖に面したこの街ではその景色から観光地として人の往来が盛んだ。ミクロをリーダーとして行動する一行は『聖なるマイラ』を手に入れるためにここに来た。


「湖の禁域に生えてるらしい」

「このだだっ広い湖を探すのか?」


 広さで言えば街なんて目じゃない位には大きいとロウルに教えられた。


「観光客もいますね」


 夏の温かいこの季節には湖に泳ぎに来た観光客が多くいる。あまりに目立った行動をしたら憲兵を呼ばれる可能性もある。


「まずは情報収集だな。日が暮れたら宿に集合だ」

「了解!」

「分かりました」


 情報収集はいつもやっていたことだったが、毎回邪魔が入っていたような気がする。


「ちょっと離してください!」

「なんで毎回こうなるのかなあ?」


 またもや路地裏から声が聞こえた。無視すればいいだけだが、いつもの癖でつい助けに行ってしまう。


「あ!レトロ君だ!」

「んだ、テメエ!」

「失礼しましたー」


 何も問題はなかった。アンリが暴漢に襲われていただけだ。


「私だよ!アンリ!レトロ君!!」


 何やら聞こえるがお楽しみの最中だ。あまり邪魔するのも悪い。


「さてと、お仕事しますか」

「そこの兄ちゃん、見ない顔だな。良いこと教えてやるよ!」




    ________________________




「禁域に入れそうですよ」


 レトロは宿に帰るや否やそんなことを言ってきた。


「禁域は儀式の日に関係者しか入れないと聞いたが?」

「知らないおじさんから招待されました。これを見せれば儀式に参加できるそうです」


 レトロはミクロとイアンに美しい首飾りを見せてくる。


「「怪しすぎる」」

「人の良さそうなおじさんでしたよ?」


 前から思っていたが彼はあまり人を疑おうとしない。その内、それが原因で危険な目に遭うかもしれない。


「レトロはもうちょっと警戒心を持ったほうがいい」

「大丈夫ですよ。もし仮に危険な集団でも僕ならなんとかできます」


 レトロはミクロと比べて明らかに成長のスピードが速く、それが驕りを産んでいるのかもしれない。


「俺だってベテランって訳じゃないが、新人のお前にそんな危険なことは任せられない」

「俺はレトロなら問題ないと思うぜ!」

「・・・お前がそう言うなら」


 こうしてレトロの潜入が決まった。



「お前はレトロのこと、どう思う?」

「どうってなんだよ?」


 今夜、レトロが儀式に参加する。儀式までの時間をミクロとイアンは湖の側で待っていた。


「あいつ、なんでここに来たんだろうな?見た感じ、結構裕福な家の出だよな」

「さあな、それでも俺はあいつのこと信じるよ」


 ミクロはミクロのことを疑り深いと思う。それが理由でレトロを完全に信頼することはできない。イアンのようにはなれないのだ。


 イアンのように強くはないし、強い心も持っていない、余裕もない。イアンのように水着の女に鼻を伸ばすことなんてできない。


 それでもミクロはロウルに二人を任せられた。だから、レトロをできる限り守ってやらなければいけないのだ。確かに、レトロは強い。だが騙されやすく、また、時折危うさを感じる。


 ミクロは自分のように帰る故郷のない者達を助けるために戦っている。レトロにはもう帰る場所はない。だからミクロが助けるのだ。



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