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退屈はイヤなので国を興します  作者: シュシュ黒
見習い司祭
12/18

12 合格



 レトロの朝は早い。朝日とともに目覚め、朝食前に城の外で走り込み近くの川で水浴びをする。


 朝食は城の食堂で集落の男たちと一緒に食べる。限られた食料を巡って毎日争奪戦だ。


 午前中は走り込みの後に一人ずつロウルと木剣で戦いボコボコにされる。


 昼食を摂ったら槍や銃、大砲などのの使い方を叩き込まれる。


 その後に、二人一組で剣の打ち合いをする。レトロはミクロと、イアンはロウルと組んでいる。


 それぞれ解散して夕食を済ませ夜の訓練が始まる。


 それが終わってやっと就寝。この生活が毎日続いた。


  

   _____________________



 三ヶ月もこの生活を続けていると、自分の体にも変化が現れたことが分かる。


 まず、体が多少逞しくなったように感じられる。ある程度走ってもあまり息切れすることもなくなり、剣も素早く振れるようになった。


 また、レトロは夜の魔術訓練のおかげで正確に無詠唱で魔術を放つことができる。夜目も効いてきたためミクロと共に夜に剣の訓練もするようになった。


「そろそろ、教えようか」


 そんな折だった、新たな魔力の扱い方を知らされたのは。


「魔力で身体を強化する方法だ」


 ロウルの説明によると、魔力は魔術と身体強化の二つの運用ができるらしい。


 今まで訓練した魔術は魔力を撃ち出したり、魔力を別の物に変換する技術だ。レトロは中級までの魔術はほとんど覚えた。


 身体強化は文字通り身体能力を上昇させることができるが、体を鍛えて身体強化に耐えうる肉体にする必要があるのだ。この三ヶ月でレトロの体は仕上がった。


「強い戦士は大体これで身体能力を上げてるんだ」

「司教様、では強い戦士たちは魔術を扱えるのでしょうか?」

「いや違う。無意識に強化してるんだ」


 ミクロの質問にロウルが答えた。鍛え抜いた戦士は体が勝手に魔力で身体強化をしているらしい。


「イアンもその段階に入りつつあるな」

「最近体の調子が良いのはそういうことか」


 イアンも思い当たる節があるらしい。


「ただイアンは魔術を使えないからな。地道に鍛えることだ」

「ロウル先生、私はどうすれば?」

「お前は獣の力があるだろ」


 ラエルの獣になればほとんどの人間は倒せるように思える。魔王軍の副官を倒した実績もあるが、ラエル自身はそれでは満足できないらしい。


「私は!」

「レフはよく寝てよく食ってよく動け」

「了解!」


 昼食の休憩ももう終わりだ。また地獄の訓練が始まる。



   ___________________



「これより夜の全体訓練を開始する」


 訓練が始まって半年が経過した頃だった。新しい訓練が始まり、五人一組になり森で自給自足の生活をするようになった。夜間でも迅速に行動する能力を身につけるためだ。


 レトロはイアン、ミクロ、そして集落の男二人と組むことになった。


「レトロ司祭は何故私達と戦ってくれるのですか?」


 レトロが夜の見張りをしていたがこの青年は眠れないそうで、レトロも眠気覚ましに話をしていた。その会話の流れで戦う理由を話すことになった。


「・・・大した理由じゃないですよ。人助けもしつつ自分のやりたいことができるからです」

「感謝します。見たところあなたは亜人ではないようなので不思議でつい」

「あなたはどうして?」

「家族のためです」

 

 青年は地方の村で獣人として生まれた。地方では亜人差別が盛んで彼の生まれた村もまた獣人の扱いは酷かった。毎日奴隷のように畑仕事をさせられていたのだ。


 それでも彼の家族は弱音も吐くことはなかったという。しかし、悲劇が訪れた。


 彼の母が村の男に骨折するほどの暴行を加えられた。怒り狂った父は報復したが、その男は村の長の息子だった。


 それに怒った長は青年の父を殺して、家族皆殺しにしようとした。必死に逃げようとしたたが足の骨を折られた母を連れては行けず置いていくしかなかった。


 弟を連れてなんとか逃げたは良いものの、生きる術を持たない彼らは途方に暮れていた。そのときにドラン司祭に拾われて集落に住まうことになった。


「私は弟が笑って暮らせるような世界を作りたいんです」

「・・・弟さんは元気ですか?」

「ええ、司祭の皆様や集落の人達のお陰で」


 他にも何人かの人の身の上話を聞く機会があった。死んだ仲間、家族、友人、皆誰かのために戦っているのだ。その夜、レトロは痛感した。



 なんとも言えない気持ちで目が覚める。昨日の話がレトロを複雑な思いにさせた。朝は早くまだ誰も起きていない。


 いつもの日課をこなして、水浴びをしようと川まで来たが、先客の存在に気付いた。


 長く伸びた青い髪を縛り、貴族のような華やかな服を身に纏っている男だった。


「あなたは、どちら様でしょうか?」

「ロウル殿とやらの城を探しているんだ、知らないかい?」

「質問に答えて頂きたい」


 聞いていることに答える気がないのか、話が通じない。


「君は強いな」

「・・・ありがとうございます?」


 貴族のようなこの男は何故かレトロを褒める。別に拒否する理由もないので素直に感謝した。


「よし、戦おう!」

「は?」


 意味が分からない。どうしてあの流れで戦闘に移行するのか。


「質問に答えて頂ければ案内しますよ。それに私は武器を持っていません」

「じゃあ、剣を一本貸してやろう!」

「そういうことでは・・・」

「ほら!」


 思いっきり木剣を投げつけてくる。

 

「木剣ならまあ・・・」

「よし、行くぞ!」


 自分がどの程度強くなったのかをレトロはこの機会で確かめることにした。実際に戦うのは初めてだ。胸が高鳴る。


 貴族風の男が急接近してくる。


 まずは相手の動きを観察する。貴族風が大きく振りかぶりそれを真正面から受ける。ロウルほどの強さはないと理解し、反撃を開始する。


 受けた木剣を押し返し横から薙ぎ払う。貴族風は距離を取ったが逃さない。足に力を込めて肉薄し剣を首筋に突きつける。


「あなたは誰ですか?」

「私はヒエトス家の者だ」

「・・・はじめからそう言ってくれればよかったのに」




    _________________________





 貴族風の男――カール・ヒエトスはヒエトス家の当主の三男であり、聖女様への使いを命じられていた。しかし、聖女様を外部の人間に晒すことはできないとロウルが聖女様の役目を引き受けることになった。


「魔王軍の残党を始末してほしいと」

「もちろん報酬もあります」


 要塞奪還の実績のあるロウルに討伐の手伝いをしてほしいとのことだ。


「そういうことならそこのレトロに行かせる」

「まあ、彼なら問題ないでしょう」


 レトロが知らない内に決められて今やっとヒエトス領の件の地に馬車で到着したところだ。


「ヒエトス家は今人手不足で外部からの助けが必要なのだ」

「なるほど、それで敵はどういう・・・」


 そのとき、馬車が大きく揺れた。まるで大きな何かに体当りされたように。


「まずい!馬車から降りろ!」


 カールに引っ張られて急いで馬車から転げ落ちる。


「うわああああ」


 御者の悲鳴だ。なんと巨大な怪物に足を掴まれている。そしてそのまま大きく裂けた口に彼を放り込んで咀嚼した。


 怪物は目は五つあり、口は大きく裂けて、さらにそこから歪んだ牙が伸び切っている。胸の辺りは黒い泥のような球体が蠢いている。


「アルデ?」


 怪物の正体は要塞で戦った魔王軍幹部の副官アルデの成れの果てだった。彼の再生能力が暴走して死後も暴れ続けているのだろうか。


「こいつだ!こいつが最後の生き残り!」

「そういうことでしたか」

 

 カールは剣を構え、レトロは後方から魔術で支援をする。予め決めておいた陣形だ。


 カールは水の神の子孫だ。子孫は神の力を引き継ぎこの国を支えてきた。水の力、彼らは水を自由自在に操ることができるのだ。近くの川の水が宙に浮いて怪物を押しつぶさんとする。


 それを気にする素振りもなく怪物はカールに向かって突進する。そこでレトロが魔術で怪物の足を貫く。右足は完全に切断され、怪物はその場に倒れ込んだ。


「今だ!」


 足が使えなくなった瞬間にカールが怪物の頭を狙って、剣を振り下ろす。


「なっ!」


 しかし、瞬時に足を再生してカールを掴もうとする怪物。次の瞬間、怪物の頭は固く巨大な物に潰された。


 レトロが『左手』の権能で怪物を抑え込んだのだ。


「カールさん、こいつの胸の黒いのを切ってください」

「分かった!」


 改めて怪物を見てから気になっていたのだ。それが奴の心臓なのではないかと。


 予感は的中し怪物は動かなくなった。


 



   ___________________




「レトロはもう合格だな」


 ロウルは弟子をそう評価した。





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