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退屈はイヤなので国を興します  作者: シュシュ黒
見習い司祭
11/18

11 訓練開始





「お前もか」


 鉄仮面を被った不審者――ロウルによってレトロとラエル、レフは城の門に集まるように言われていた。


「お二人も?」


 集合場所にはイアンとミクロも来ていた。


「何も知らされずに司教様に呼ばれたんだ。それよりも他の奴らだ」


 周りを見ると若い男が大勢集められている。


「ひょっとしたら近くの集落から来た人たちかもしれないです」


 ラエルには心当たりがあるらしい。


「近くに亜人を集めた集落があるってロウル先生が・・・」



「諸君、よく集まった」 

「ロウルさんだ」


 いつもより雰囲気が固いように感じる。何か重大な発表でもあるのか、だから信徒を集めたのだろう。


「これから先、我々の独立に反対する者達と争うことになるだろう。来るべき決戦に備えてこれより大規模な訓練を始める」


 レトロは何度も街で演説のようなものは聞いたことがあるが、それらと比べてロウルの話は簡潔で言いたいことが分かりやすかった。


「訓練か・・・」





   ____________________




 普段の生活ではあまり聞くことのない心臓の鼓動をレトロは感じる。足が棒になるまで走り込む。以前のレトロであればこの状態に苦しんでいただけだろう。


 だが、今は違う。これを続けていけば輝くような毎日を送ることができるのだ。

 

「そこまででいいだろう」


 ロウルが休憩の許可をする。水を飲んでも未だに心臓の鼓動が止まない。


「疲れますね」

「きつい・・・」

「お前ら情けないなあ」


 レトロとミクロが息を切らしている中でイアンは汗一つかいていない。集落の男たちと大して差のないレトロとは違う。


「休憩は終わりだ」

「早い・・・」

「次は剣の訓練だ」


 ミクロが文句を垂れるが、次は剣術の訓練だ。剣術と聞いて胸を躍らせない男子はいないのだ。


「木剣で一人ずつ俺と打ち合え」


 かなり無茶な訓練だ。レトロは剣に詳しくないが、ロウルが強いことだけはなんとなく分かっている。


「まずはお前からだ」


 近くの者から順に打ち合っていくが誰一人ロウルに剣が届いた者はいなかった。そして、ミクロが滅多打ちにされて、残るはレトロとイアンの二人となった。


「次、レトロ」


 やっと順番が回った。今のレトロの剣がロウルに届くとは思っていないが、いつの日かその領域に達していたい。そのためにできる限りロウルの技術を吸収しなければいけない。


「来い」

 

 まずは、焦らずに相手を見据えることが大事だ。と、勝手にレトロは思っているが、ロウルの隙を見抜くことができなかった。ならば、隙を作るために猛攻を仕掛ければいい。全力で打ち込む。


「筋がいいな」


 真正面からすべてをぶつけるが、軽くいなされてしまう。


「次は頑張れよ」

「あ」


 上段から振り下ろそうとしたところに強烈な突きを食らって呆気なく終わった。


「最後にイアン」

「おう!」


 自分を情けなく思っていたが、レトロよりも強いイアンの動きを参考にしようと考えて対峙する二人に視線を向ける。


「・・・来い」


 瞬間、風が巻き起こる。全身の筋肉を効率的に稼働させロウルに急接近し、木剣を全力で振るうイアン。レトロとは違う、否、違うなんて次元ではなかった。


 その速度にもロウルは軽々と対応した。


 しかし、そんなことは想定済みだったと言わんばかりにイアンは連撃を仕掛ける。


 木剣を振れば振るほど風切り音は大きくなる。


「その内、限界が来るぞ?」

「ここだ!!」


 ロウルが話しかけた瞬間を勝機と見たイアンは即座に重心を落として、ロウルの足元を狙う。


「強くなったな」


 その剣撃が届くよりも先にロウルの剣先がイアンの顔面を強打した。




    ___________________




「ああ、クソ」

「あそこまで粘るとは思ってなかったよ」


 全体訓練終了後、レトロ、イアン、ミクロの三人は招集された。


「要塞での戦闘で思うところがあるんだろ?」

「うるせえな!それよりなんで俺らを集めた?」

「レトロは戦闘の訓練を受けたことがないからな、戦えるように仕上げるつもりだった。ミクロは弱すぎる。そしてイアン、お前はさらに強くなる」


 この時期に集落も巻き込んでの訓練だ。これは何か重大な事件でも起すのかもしれない。そのときに、ただ見ているだけでは嫌だ。せめて獣化したラエルとも一緒に戦うくらいには強くなりたい。


「そういえば、ラエルとレフは?」

「レフは俺と魔法の訓練、ラエルはドランとの戦闘訓練だな」


 司教ドラン――司教でありながら門番を務めている男。


「あの人に任せて大丈夫ですかね?」


 レトロも城から出るときに何度か話したことがあるが、なんとも非常に接しづらい男だった。


「まあ、実力的には申し分ないだろう」

「はあ」

「それとお前とイアンは夜も訓練だ」

 


   _____________________



 夕食を済ませ、レトロとイアンは約束の訓練に向かう。もうすっかり暗くなってしまった。


「よく来たな」

「何をするんですか?」


 わざわざこんな時間に呼び出したのだ、きっと特別な訓練なのだろう。


「まずレトロ、お前には魔術の才能がある。なにせ、無詠唱魔術を勘で使えるんだ。詠唱だけ教えてやる。後は、ひたすら撃ちまくれ」

「分かりました」


 まさかロウルに褒められるとは思っていなかった。縁のなかった魔術の訓練はとても新鮮だ。


「そして、イアンは俺と刃を潰した真剣で模擬戦だ」

「・・・こんな夜に正気か?」

「夜だからだ」


 これからレトロ、イアン、ミクロは三人で潜入や隠密行動を担うことになるそうだ。


 種族的に夜目の効くミクロとは違い、レトロとイアンは闇の中での戦闘に不慣れだ。このままでは、任務どころではない。


 そこでロウルはレトロとイアンが夜に目が効くようにしているのだ。


  

 地獄の訓練が今、始まった。







 

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