98.【白銀連盟】レナ勘づき一人で考え込む
【レナ】
立ち去ったサブサブロの背を見ながらちょろエルフことレナはじっと考える。頭の中にあるのは彼が何者であるのか。いや、その問いに関してはずっと考えてきた。白銀連盟のメンバーの誰もがそうだろう。
ただ今までになかった疑念が彼女の中で芽生えた。サブサブロが悪ではないかという疑い。ペルシアギルドの長ダンプストは悪だ。そんなギルドの悪意から救ってくれたサブサブロは正義に思える。でも──
彼がそれを上回る巨悪だったら。こんなことが過ったのは彼が嘘を吐いたから。死んだことになっているのが本当なら冒険者がそこに攻めてくるだろうかと。
やって来るのは何だか本当っぽい。でも、それは別の理由なんじゃないか。サブサブロが不器用なのは違いない。余りにも分かりやすい嘘だから。
(意外と優しいし、私達を傷つけないように吐いたってこともありえるけど……)
さっきのサブサブロとの会話で分かったことがある。それはここがさほどペルシアから離れていないという点。でなければ戦闘は起きず彼も守るなんて言葉を使わないはず。
続いて彼の従魔。数を減らしたテイマーだがあれぐらいの魔物を飼うことはそう珍しいことでもない。魔物農場を持ち、飼育する者だっているくらいなのだ。ペルシアに住むモードックも昔は従魔が大量にいたって聞くし。
でも、彼の持つ魔物達は桁違いに強く知能も高い。まるで戦っていると迷宮のフロアボスと対峙しているかのような気分を味わわされるのだ。
「ダンジョン……マスター?」
自分で言っていやいやないないとレナは首を振る。ダンジョンマスターは伝説上の存在だ。英雄よりもずっと珍しくそもそも実在するかどうかも定かではない。ただ迷宮という謎の産物があるから皆いるんじゃないかという空想上の存在、与太話なのだ。
最終層奥が余りにも人工的過ぎてダンジョンマスターの間って呼ばれている。善か悪かは分からないけど、古文書には混沌を呼ぶと書いてあった気がする。
(英雄にダンジョンマスターとかどんな神話体験。流石にありえないわよね)
考え込むレナはふと思い出した。そういえば不落の連中がダンジョンマスターのことを話していたのを耳にした記憶があったと。あの時は冗談かと思ったが彼らは知っていた?
いや、考え過ぎかあいつら酔っぱらってたし。しかし、不落もなんだってあんな依頼を受けたんだろう。Cランクという成功者なんだから危ない橋を渡らなくても良かっただろうに。実際、自業自得とはいえ死んじゃったわけだし。
ダンプストと知己があった?会ったことがないと言ってたのは嘘だったか。
「エルフの方聞いていますか!」
「え?」
バっと見ればソバカスのシスター、クレハがレナを覗き込んでいた。サブサブロが連れてきた新たな住人。ミハエルとかいう男の方には邪さを感じたがこの子は普通の人間だった。この場所の食べ物に魅了されていて、ウットリしている。
「これ何て飲み物なのですか」
「えっと……ミックスジュースだったかしら」
「ミックスジュース、それが神水の名前なのね」
「しっ神水?」
「サブサブロ様は私達が信仰サブカル教の使徒ですから」
「しっ使徒?アイツって神の使いなの?というかサブカル教?」
知らないワードのオンパレードでレナは混乱する。そういえばミハエルというハゲ神父がそんな話をしていたような……。やばそうなので近づかず碌に彼らから話を聞いていなかったとレナは思い立つ。
「そうよ。どんな文化も愛せよ平等。サブカルチャーに光を」
何だそれ。ヤバい宗教にしか思えない。アイツがそんな神の使徒?とレナの口元が引き攣る。サブサブロって偽名だと思ってたけどアイツそっからとったの?
「偏見なく世界の文化を愛されたからこそこの世にないものを生み出されたのよ。あー私が間違っていました神様。全身全霊尽くします」
ヤバい目をしたクレハがハンバーガー旨っ旨っと貪り出す。セルフ餌付けされてる。バッとレナが周囲を見渡せば白銀連盟の皆々もそれぞれのアイテムに魅了されていた。更にハッとすると自分の手にカフェモカフラペチーノのが握られている。
(いけない。なんて中毒性。サブサブロは命の恩人。でも、彼に全幅の信頼をおくのは違う。私がしっかりしてアイツを見極めなきゃ)
サブサブロの正体は何なのか。神の使徒とか他人が言ってることを鵜呑みにせず。レナは注意深くサブサブロを観察してやると心に誓ったのだった。
決してアイツに近づきたいからじゃない。恋人候補になりえるのかどうかの確認とかそんなんじゃないわよとチョロ氏は語る。




