95.【俺】近づく2つの決戦に武者ぶるい
ベッドに広げた俺の勝負服たち。うん、ものの見事に黒一色。俺にお洒落は無理だと悟った。日曜日まであと数日、高瀬さんが家にきてデュアルミッシュを披露、夕方にお嬢様と外でお話しする約束がある。
付き合ってないしデートでもないが、流石に同じ日に違う女の子と遊んで会うのはやっぱ駄目なことしてる気がしてならない。次からマジで気を付けようと思う。まあ俺がモテるなどありえないし、こんなイベント人生これきりなんだろうけど。
「いつも通りでいいなこりゃ」
とりあえず、服を片付けてデュアルミッシュの電源を入れる。前回の続き、マルタノダンジョン19層から再開する。呼び出す魔物を6傑の誰にするか悩む俺だったが漸くそこで脅威度がアップしていることに気づいた。
「ん?あれ?脅威度あがってる?何でだ?」
ログを出して確認。ざーっと情報をスクロールして赤い文字で止める。ファームにNPCから索敵が入ったと書かれていてゲッとなった。
「まじかー」
ハヤテとゴブウェイを召喚しながら対策を考える。ファームの存在がペルシアの冒険者にバレたということで間違いない。まさかあっちが先に暴かれてしまうとは想像もしていなかった。いや、まあ野ざらしだけど、ほらだって空白地帯って人いなかったし。
攻められるだろうか?そうなったら戦闘能力が皆無といえるトレント達は一溜まりもない。かといってマナを生んでくれる彼らを失うのも痛い。見た目木とはいえ何だかんだ愛着も湧いてるし。
ファームがあるから迷宮を稼働させずに迷宮街スパーダを維持できているのだ。可能なら正体を隠し危険度を上げずに撃退したい。いや、しようと計画を定める。場所バレしたわけだがきっと何とかなるはずだ。
「決戦イベントの日程弄れるよな?」
そういえばちゃんと見てなかったとメニューからTIPSを選び、リアルタイムアドベンチャーの欄を開く。どういうシステムなんだっけと。
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≪TIPS【リアルタイムアドベンチャー】≫
プレイヤーの選択、またはタイミングによってイベント進行は大きく変動します。貴方が仲間や拠点を持つ場合、オフ状態でも攻め込まれ仲間を失う可能性があるため予め備えて動くのがこのゲームの基本となります。
≪TIPS 【ストラテジーシステム】≫
計略。嘘の情報を流す。罠を仕掛けるなどによってイベント発生タイミングをズラすことができます。上手く操作し、有利な状況を作るのがコツです。メニュー+ボタンでタイムテーブルを表示。
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「おお」
何か帯型のタイムテーブルが画面上に表示された。うん、絶対これ先に読むべきものだった。まあ何となくこういうもんだろと思ってたけど。しかし、こうなるとあの【不落】の襲撃は滅茶滅茶タイミングが良かったのかも。ある意味ついていたのかも知れない。
決戦イベントを可能ならば高瀬さんが来る日曜の時間に合わせたい。そして乗り越えるためにも、戦力不足の改善は急務。魔物を鍛え、戦略を練り、全力で工作活動を行おうと決める。
「ん?」
歩くのを嫌った怠け者のゴブウェイが嫌がるハヤテの上に登ろうとしている。
≪TIPS :【魔物合体】特定の魔物が揃えば合体することが可能≫
ゴブリンライダーの文字に一瞬目を輝かせる俺だったが──
「……うーん弱そう」
練度が必要なのかハヤテは我関せずと歩き、ゴブウェイがクターっと反り返って地面で後頭部を擦っている。言うまでもなく駄目駄目だ。
それにハヤテは単体で強いので、やるにしても適当な魔狼を見繕って乗せた方がいいかも。いや、化けるかもだし試すだけ試すか。やるだけは無料と練習させてみることにした。
「こんなのあるなら魔物の種類を揃えた方がいい感じかな?時間できたらこの辺の魔物適当に捕まえてみっかな」
そういえば迷宮に放り込んだゴブリンどもはどうなってるだろうと見て見れば寛ぎ怠けていた。こんなの率いてあの手強い冒険者達を退けられるのだろうか。
ため息が出そうだったが、逆にこれで打ち勝つシーンを思い描けば気持ちは高ぶる。何だかケルベック戦だけじゃなく大規模な戦闘が起こる気配。逆境をはね返してこそのゲーマーだ。楽しくなってきたと俺はスティックを強く倒しサブサブロを前転させたのだ。




