91.【夜花】一体どういうことなの!?これは!!
私は自分の誕生日が嫌いだ。それは父、ゴーディーと同じであるから。11月11日、彼と会ったのは生まれてこの方一回きり。そう肉親なのにだ。顔を合わせたのは彼の誕生祭に母と共に招待された時。仮面をつけた彼を見て、私は幼いながら自分の父の異常性と毒親であることを理解した。
ファンタジーに囚われた彼は馬鹿げた催し事を披露して人々を魅了していたが、当然冷めきっていた私は無視し彼の豪邸をぼんやり探索していた。そして見つけた簡素な扉にまるで吸い寄せられるように私は手を掛けていたのである。
その光景に息を呑む。天まで積み上げられたゲームソフト。世界中のものがここにあると言われても信じられるかもしれないほどの量。
「ゲームに興味があると聞いたよ。それに今日が君の誕生日だとも」
背後で声が鳴り、ギョッと振り返れば父がいた。奇抜な仮面に少し恐怖を感じる。私は睨みつけることしかできなかった。
「夜花、君に一本プレゼントしよう。どれでも好きなものを選びなさい」
誰がいるかと出ていきたかったがどうせならこいつから一番大事そうなものを奪ってやろうと考えた。だから一番厳重に保管されていたそれを私は指さしたのだ。
「あれ」
「ほう、流石私の娘遠慮がない。それは『ネバーランド』というタイトルだ。プレイした者達はライフイーターと呼びだしているそうだがね」
「???」
言ってる意味が分からない。開けてみろと言われ手にとって更に首を捻る。私はゲームが好きだ。でも、初めて見る形だった。
「まだそれをプレイすることはできない。何せまだハードが発売されてないからね。夜花が中学になったらきっとできるようになるはずさ」
何だそれは。あり得るのだろうか?それにさっきプレイした者達って言っていたのにこの人頭おかしいんじゃ。
「貴方が作った?」
「いや、私じゃない。自分のものをコレクションする趣味はないさ。さあこれはもう君のものだ。プレイするもしないのも所有者の権利だ」
そうやって手に入れた『ライフイーター』。正直、存在すら忘れていたけれど中学2年となってVR筐体『パンドラボックス』が発売されたことで私はこの時のことを思い出した。何となくだった。私はプレイしこのライフイーターにドハマりした。
そして同じライフイーターのプレイヤーである親友と出会い、その子と共に国を作って更にエルダインの世界に私はのめりこんだ。まさにネバーランド。けれど幸せな時間は終わる。ある集団によって破壊され、私の親友はプレイヤーキルされてしまった。
その親友のため、再起するためにもライフイーターがどうしてももう一本必要。そして辿りついたのが最上一郎であり、彼の配信を見ていたわけだが……。
驚きのあまり立ち上がり、椅子を倒しても見入ってしまう。
「そんなっこれは!一体どういうこと!?」
音声書き込み機『コメ書き君』によって書き込まれてしまったが気にしている場合ではなかった。私はライフイーターを一年以上プレイし地図は埋めきっている。あの世界を知り尽くしていると自負している。なのに──
あり得ないことが起こっていた。いや、何て自分は馬鹿なのだろうか。≪ライフイーター≫が見つかったことに有頂天になって碌に彼の動画を調べていなかった。もっと調べるべきだった。ただレベルやジョブだけを見てずぶの素人と断じたことも油断を生んだ。
「やっぱりないわ……」
広げるのはエルダインの世界地図。そのどこにもペルシアと呼ばれる町は存在しない。いやそれどころかリーデシア帝国もドラムニュート王国もメルカトル魔導大国なる場所も地図上に描かれていないのだ。であれば彼がいる場所は一体何だというのか。
「ライフイーターじゃない?」
いや、あり得ない。どう見ても彼がプレイしているのはライフイーターだ。であればこれは……。
「待って考えるべきだわ。この地図がいつ作られたのか、分からないけど恐らくかなり最初期に作られたもの」
ということはそれより前に隠れていなければおかしくなるのではないか。
「もしくは地図製作者と協力関係にあったとか?」
謎。ただハッキリしたことはやはり一人ではない、最上一郎が所属するであろうハウス(プレイヤーの集団)がかなりの集まりであることは間違いないだろうということか。
「真白を殺した≪百鬼会≫の連中に匹敵、もしくは……」
それすらも超える。想像し、ブルっと身が震える。エルダインにおいてやはりプレイヤーの力は圧倒的であり、数は単純にして絶大な力となる。百鬼会との闘いでそれを私は痛いほどに学んだ。子供が大人の集団に突っ込むようなもの。私は彼らを出し抜きライフイーターを手に入れることができるのか。
「いや、やるわ絶対に」
心を折ってしまった友人を奮起させるためにも必ず果たしてみせると闘志を燃やした。
後日、私は最上一郎の配信がまた始まったことを知り、慌ててページを開いた。
「こんにちはー」
女の子の声でぎょっとする。コメント欄も女?雌だ彼女かと驚いている。
「ちょっ!?お前入ってくるなって!あーもうしゃあねえ。すみません、前にも声入った妹です」
「どうもーって何て呼べばいいんだっけ。えっサブイチ?ダサくない?」
「お前サブ子な」
「嫌だよおおおぉ。ださいよおおおぉ」
「おいっコラくっ付くなって」
私達は何を見せられているのだろう。だが
「ふっ私は騙されないわよ最上一郎」
私にも兄がいるから分かるのだ。兄と妹がそんな仲いい訳がないのだ。それに親族だろうとライフイーターを触らせるものか。つまり──
「彼女も団員ということね」
やはり、彼らはライフイーターを複数持っている。高瀬彩という女生徒も候補の一人。そして──
「上手いっ」
彼のプレイングを見て思わず唸る。迷宮ボス戦。アンチヒーロー魔王の闘い方を初めて見たが、レベルのわりに初心者の動きじゃない。
予めやっていた経験者、更にサブ~というネーミング。導き出される答えは一つ。彼は一本丸ごとサブキャラとして運用しているのだ。
ライフイーター、一本にセーブデータは“一つ”。世界一入手困難と言えるゲームソフトをこんな使い方をするなんて想像だにしなかった。圧倒的有利でありながら情報を公開するその胆力。いや、だからこそ彼らは仲間を集められるのだろう。
使い捨てじゃない。最上一郎は丁寧に仲間の魔物と接し、可愛がっている。これが偽りだとは思えない。
「最上一郎、貴方は怖くないの?」
全てを失うことが。触れ合えば触れ合うほどその喪失感は大きくなる。仮令ゲームだとしても私も立ち直るまでかなりの時間を要した。
自らの姿を魍魎たるプレイヤー達に公開し、その上で平然と遊んでいる彼に私は恐怖と興味を抱いた。
知りたい。彼自身がどういう人物なのか。私の目標は友人のライフイーターを確保すること。だけれどもう一つ目的できた。最上一郎という男を探る。呼び鈴を鳴らし執事である黒沢を呼ぶが来ない。肝心な時にと仕方なく私は席を立ったがその結果見落とすことになってしまう。
つけっぱなしのパンドラボックス、ソフトは勿論ライフイーター。それが音を放ち音声書き込み『コメ書き君』に拾われることで彼のコメ欄にカタカタと書き込まれてゆく。
“ラリルレ リリリ 皆 皆 気を付けてデュアルミッシュがやってきた”
けれど、ちょうど10層ボス討伐の盛り上がりで流れてしまい誰も気づくことは無かった。最上一郎が操作することでサブサブロが勝利のポーズを決めた。
「しゃあ!バワン大福ナイス!俺ら最強」
自宅警備兵 :うおおおお
視聴者C :バワンッ!バワンッ!
視聴者E :大福こっち向いてくれー
≪マルタノダンジョン10層突破しました≫




