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9.【俺】叱られて癒しを求める

 これは闘いだ。子どもにも決して引いてはいけない闘いがある。


「母さん頼むこの通りだ。もう二度としない。小遣いゼロはあんまりだ」


 俺は母に向かって土下座。トントントンとキッチンで調理中だった金髪の母はギロリと俺を睨んだ。流石元暴走族。迫力がヤバい。だが、ここは負けられない。大体ゲームに消えるけども俺の高校生活が懸かっている。


「誰が悪いんか言うてみ」


「俺」


「晩から朝までゲームは100歩譲っても付けっパは絶対アカン言うたやろ」


 東京住みだが母は大阪出身。方言が出て俺も若干だがうつっている部分がある。っと余談。んな場合じゃなかった。ゲームは切ったが画面と部屋の電気を俺は消し忘れてしまったのだ。何という失態。


「はい」


 誠意を込めた息子のじっと見に母は顔を(しか)めた。


「アンタ全然反省しとらんやろ」


「してます!この通り」


「ホンマうちの息子が土下座だけ上手くなってゆくわ」


「これで問題起こしても安心だな母さん。いだっ」


 ペチっと軽く叩かれてしまった。


「一週間は抜き。これで我慢しいや」


「はい」


 うちは一週間ずつに支給される小遣い制。正直、懐に大ダメージだが仕方がない。ここでごねても碌な事にならない。


「イチ、アンタ新しいゲームでも買うたんか?」


「買った。10円のやつ」


「ゲームやるなとは言わんけどホンマほどほどにしときや。現実とちゃうんやから」


 何だろう。ちょっと母の言葉が響いた。


 ◇◇◇


「あー人生オワター」


 宿題を終えて伸びをする。高校の宿題が多すぎる。疲れたと息をついた俺はチラっとゲーム機を見た。流石に朝まではしないがちょっとだけやろうかと思ってしまう。午後8時。母に叱られたので4時間で留めよう。今回はやらかさないようにタイマーを掛けておく。


「俺ってばいい息子だな」


 母が聞いていればぶん殴られであろう言葉を無意識で呟きつつ、俺は鼻歌をうたってゲームの電源を入れた。オープニングが始まり、new gameの下にコンティニューの文字があるのを確認。やっぱりオートセーブかとホッとする。


「ってかパッケにも会社名無くね?」


 パッケージをチロリと見たが会社名の記載がない。やはり個人製作かそれとも海外か?もしかしてパッケと中身が違うパターン?


「まあ、10円だしな」


 怪しいことこの上ないがオフゲーなのでまあ大丈夫だろうと開始する。どこかに戻されるとか飛ばされるということもなく、MMOのように落ちた場所から再開のようだ。サブローとして覚えのある場所に舞い戻った俺はキャラを振り返らせて光景に絶句した。森が広がっていた。


「ちょっ! いや待て待て!お前ら増えてね?」


 悲報トレント増加。ただでさえ多いと思っていたトレント達が膨大な数となって画面を埋めている。


「えぇええ……」


 まさかファームに繁殖効果があるのかと見たがそんな説明は書かれていない。


「え?ってか連れてきたの?増殖したの?トレントって繁殖すんの?」


 混乱する俺に寄ってくるツリー。何か誇らしげに見えるのは気のせいか。とりあえず犬っぽいので頭を撫でておく。ってか爺さんみたいなトレントも横にいる。新しく加わった奴だろうか。あれ?キテンって名前付いてる。いたっけ?こんなの。


「んーやっぱファームの効果だよなこれ?ってかまさか時間経ってる?」


 内蔵時計でカウントしてくれるタイプだろうか。シムっぽい要素があるからありえる。製作時間とかいう表記もあったので上位の建物を作る場合。リアル日数が掛かるかもしれない。ふむっと顎に手を当て考えようとした俺だったが通知音が鳴り出した。


 ≪配下となった魔物に名前を付けて下さい≫

 ≪配下となった魔物に名前を付けて下さい≫

 ≪配下となった魔物に名前を付けて下さい≫

 ≪配下となった魔物に名前を付けて下さい≫


 ……。


 怒涛のシステムコール。


「うおおおお何だこれっ」


 思わず口元が引き攣る。配下トレント率100%。いや、前からそうだが増えた分なお絵面が酷い。


「俺の理想の魔王ライフから遠ざかってゆくんだが……」


 そして何故ツリーはドヤっているのか。まあ、撫でるけども。


「流石にもうトレントいらねえっつうか……放逐(ほうちく)したいな」


 そう思った俺にテトテトと小さいトレントが近づいてきた。


 《トレント幼生体が仲間になりたそうに様子を窺っています。確実に野垂れ死ぬことになりますが放逐しますか?みきみき つんぱつんぱ かるていは イエスかノーか半分か》


「……」


 何だこのシステム文。タイミングが噛み合って会話したみたいになった。そして流石、昔のゲーム、意味不明な文言が付いている。俺はトレント幼生体を画面越しにじっと見る。純情無垢なトレント幼生体がコテンっと首を倒した。


「くっ並べ! てめえら! 無礼講だ! もうこうなったら全員配下にしてやる」


 ズラリとコミケ会場の如く大人しく並ぶトレント達。その様はサイン会のよう。俺は一匹一匹カチカチとスティックを動かして名前を付けるのだった。

今日より11時18時20時ごろの三回更新 ブクマ・評価励みになりますのでお願いします

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― 新着の感想 ―
[一言] つ、辛い……………ww
[気になる点] new gameがあるということは、魔王しながら勇者したりも今後の展開によっては…? [一言] スティックで名付けて面倒くさいよね。 Excelのオートフィルみたいにできたらいいのに。…
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