78.【俺】女の闘いを蚊帳の外から見守る
急に眠くなった。そういって眠りについたら許されないだろうか。
「一緒にいこ最上君」
無理ですね。はい、知ってます。ラッキーなのにアンラッキーとはこれ如何に。いや、落ち着け最上一郎。素数を数えることなく冷静になれ。一体何が悪いのかと。お嬢様とは何か始まったわけではない。そもそも好意を持たれてるのも男特有の勘違いって割合の方が高いのだ。ってか絶対そう。
一方、高瀬さんとだって付き合ってるわけじゃない。高瀬さんが俺を好きとかありえない。彼女はゲームに興味を持ち、それを友達として家に見にくるだけだ。
ノットギルティー。そう、俺は罪なき少年だ。だが、何故だ。あのお嬢様の前あたりの空間。凄まじく嫌な予感がするのだ。
が、現実というこの世にポーズは存在しない。渋々降り立つと高瀬が彼女に気づいた。
「あれ?あれって白百合学園の生徒さんだよね?そういえば昨日も来てた気がするし一体何の用なんだろ」
「何だろうな」
ついとぼけてしまった。だが、お嬢様の待ち人が俺じゃなかった時恥ずかしいってもんじゃないし、高瀬さんに何て説明すればいいかも分からない。ここはスルー。
そう二日連続で俺に用とかないない。また会いに来るとか言ってたけど昨日の今日だし、流石にこんな人の目がある場所で堂々と会いにこないだろ。前回人の目を避けた屋上指定だったし、普通は家に来る。どんな用事があろうと他校に朝から乗り込んだりはしないだろ。平然といけば通り抜け──
「ご機嫌好う最上一郎、私を待たせるとは大した度胸ですね」
「ごっごきげんよう……」
はい、やっぱ俺と口元が引き攣った。有栖川夜花の目が俺を射抜いていた。その黒目がギョロリと隣の高瀬さんを捉える。怖。
「それでそちらは?」
「あっと高瀬さんで、俺のクラスメイトかな」
「ちょっと待ってこの人と知り合いなの?最上君」
「知り合いっつうか。昨日ちょっと喋った程度の仲といいますか」
「昨日来てたのも最上君に会うため……」
何故か高瀬が薄暗い表情をしたので俺は慌てた。
「あーっと違うぞ高瀬。この人は俺の動画を見ててくれてて。ゲームが気になったらしくて」
「その通りです。最上一郎とはまだ軽く言葉を交わした程度。ですが彼が誘い私が受けた。もう、これからはそれだけの関係とは言い切れないでしょうね」
おいいいいいい。ってか誘ったって何?俺誘ったっけ?え?何か誘ったの俺?いかんっ最上一郎、全く記憶にございません。
「兎に角、貴方は関係ないようなので彼と二人きりにさせて頂きませんか」
異様な間があった。今、帰っていいですかって言ったら殴られそうな雰囲気が。ちょっとムッとした高瀬が俺の前に入った。
「私関係なくありません。私、今度最上君の家にいきます」
ちょっ
「そう、やっぱりそういうこと。貴方、私より先にホーム入りするのね」
家に行くことホーム入りっていうの!?あら上品。じゃなかった。君、俺の家来るとか言ってた?いかんっ最上一郎、記憶喪失説浮上。
「まさか貴方も」
観察し合い黙り込む二人。今だ!ここで行くしかないと俺は踏み込んだ。
「ちょっと待ってくれ。絶対二人とも勘違いしてるって」
「最上君は黙ってて」
「貴方は黙ってなさい」
「はい」
え?何で怒られてるの俺。可愛いのに圧がすげえ。このタイミングで救いのチャイムがなった。こちらを窺っていた野次馬たちも慌てて校舎の中に入ってゆく。
「やべえ遅刻するかもだぞ」
「待ちなさい。貴方との連絡手段がないとこに気づきました。それを今日は頂きに参りました」
レコチューブのメッセでええやんって言いそうになったのを堪える。ささっとやって終わらせよう。誤解は後で解こう。そう思った俺の肩がポンっと叩かれた。
「最上君、私も交換しよ?いいよね?」
「……いっいいけど、前した「電話番号はまだだよね?」」
「はい」
凄い空気の中、俺は今二人の女の子のスマフォを持って一人でアド交換している。何この状況。母さん俺、付き合ってもないのに二股掛けた男みたいになってます。助けて下さい。こちら一郎、女の子の気持ちがわかりません。
「それでは最上一郎、いずれまたご機嫌よう」
そういってお嬢様は去っていき──
「最上君私先行くから」
何か高瀬は怒ってるし、ボーっと立ってると手に持ったスマフォをひょいっと取り上げられてしまった。生活指導の鬼瓦陸道先生である。
「違反だ最上一郎ぅ。九十九校則第11条、我が校はスマフォの所持を認めているが電源はOFFにしなければならない。そしてお前の足は今ぁ校内に入っているぅ」
何その嬉しそうな顔。先生それ私怨入ってませんか?そして、何で口調がドラボのセ〇なん。もうそこまで真似るなら“ぶるわ”って言えよ。
「よって女生徒二人と交換したこのスマフォは没収うとするぅ。連絡できぬことを後悔することおぉお。悔しいなら校則を守れええぇええ。残念だったな最上みぃいい」
絶対私怨入ってますよね。去ってゆく先生の頭を見つめながら俺はまだ始まってすらいない一日のリザルト評価を下した。
「厄日だ」
と。




