77.【俺】隣の高瀬さんとゲームオーバー
「ふわあ」
登校。バスを待ってる間の欠伸が止まらない。昨日は早めに眠りについたが逆に寝すぎで頭がボーっとする。
「ん?」
スマフォが震え取り出してみると親友、弥彦からのメール。
”悪いイチ、今日遅れるかいけねえかも。フェスが面白くて止められねえ”
書いてることが大分ヤバくて、大丈夫かアイツと心配になる。VRMMOが登場し、その面白さは既に人々を虜にしている。社会現象にもなる一大ブームを巻き起こすが同時に大きな社会問題を引き起こしている。
要は廃。現実よりもゲームの方が楽しくなって活動時間が逆さまになる病気。酷い人だと生活が壊れる。俺も過去MMOでなりかけたので人の事言えないが、流石に16時間とかそこまで長時間はやったことはない。
「まあMMOって最初糞楽しいしな」
出会いがあって盛り上がったまま一緒にクエスト行って手に入れるのはただのデーターだけど最高の時間を味わう。きっと弥彦はリアルなファンタジーを堪能しているのだろう。ちょっと前は死ぬほど羨ましかったけど、今の俺にはデュアルミッシュがある。
VR筐体『パンドラボックス』は本体も高額な上、電気代がヤバい。あれでいて弥彦はそこそこ裕福なのだ。流石にあの母に遊ぶために大金下さいとはいえない。俺がVRの世界に飛び込むのはきっと大人になってからだろう。
来たバスに乗り込む。割りと学校前を利用する客は多くて座れるかは運次第。
(おっ空いてるラッキー)
後ろの2人座席に空きがあった。ただ荷物だけおいてあった。勝手にどけるわけにもいかず仕方なく横に座る。デュアルミッシュのことを考えスマフォで音楽を聴き、俺はいつしか眠りについていた。
「トントンとそれはちょっと迷惑かもだよ最上君」
「ん?」
肩が揺らされてハッとすると、目の前に高瀬彩が軽く覗き込んでいた。俺のクラスメイトで、陸上部所属の女の子だ。茶髪をスポーティーに後ろで結んでいる。
「横にズレてくれると私も座れるんだけど?」
「え?」
隣を見ると荷物が無くなっていた。取ったことにも降りたことにも気づかないとかどんだけ爆睡してたの俺。
「あーごめん、はい」
「ありがと助かったぁ」
よいしょっと座る高瀬さん。いい匂いがして何だか緊張を感じた俺は眉間を揉んだ。普段から隣同士だがこれはちょっとドキドキする。ってか家近かったのも衝撃だ。喋るけど流石にそんな話はしないから。
「寝不足?最上君」
「いや、寝すぎて逆に眠い感じ」
「アハハ何それ最上君、絶対変だよ」
クスクスと笑う高瀬。高嶺の花だって思ってたから無心で接していたけど、クラストップの人気者だけあって高瀬は滅茶苦茶可愛い。いや、今までと変わらないはずなのだがお嬢様からの猛烈アピールを喰らったせいか変に意識してしまう。
あっそうそうお嬢様なんだがやっぱり俺のこと好きとかいう話は勘違いだろうと思い直した。改めて考えた結果悲しいがお嬢様が俺に惚れるとか100%ありえないという結論に達したのだ。デュアミに興味あるんだろ。ゲーム屋にもいたし。あの2000万がマジだったら怖いけど。
お嬢様ジョークだったんだろ、知らんけど。
(今気づいたけどここよりにもよってあのお嬢様座ってた場所だな)
だから何だというわけでもないが。
「私見てるよ最上君の動画。デュアルミッシュ。凄い面白いよね。特に最上君の仲間の魔物さんたちがすっごく可愛い」
「あーありがと?実際やっても滅茶苦茶面白いぞ」
何かはっず。やっぱ白銀連盟の話上手く削ろうかな。女の子ばっかなのを高瀬とかクラスの奴に見られるの何か嫌だわ。早く男のモブをスパーダに引き入れたい。もうどんな変な奴でもいいから来て欲しい。っと話に花咲かせないと。どうにか話題が尽きないようにせねば。
「正直、高瀬さんがゲーム好きだとは思わなかった」
これは偏見だが明らか陽である彼女の前でゲームの話はしにくい。進んでしようとする男子はいないのではなかろうか。
「好きっていうか。私、人がやってるの見るのが好きなの。お兄ちゃんがいてそれを横で見ててね」
成程、兄妹あるあるパターンな気がする。うちも妹、奈々がそうだった。ちょっと大人になって離れていたけどその関係がデュアミでまた修復されつつある。
「俺も妹いるから何か分かるわ」
「え!?最上君妹さんいるんだ」
「二人兄妹だな」
「じゃうちと一緒だね。へーそうなんだ」
何故か嬉しそうな高瀬。彼女は少しもごもごしたかと思えば意を決したように俺を見た。
「そっそれでね。でっできればちょっ直接隣で見たいっていうか」
ふぇ?それって家に来るってことなのでは?隣って俺の部屋に二人きりがいいって言っちゃってるってことなのでは?いや、別に二人きりとは言ってはないわけだが。
「駄目かな?」
高瀬さんの上目遣い。ぐはっと吐血しそうになった。こんなの断れる男いないだろうと。
「いっいや、別にいいけど」
「本当に!!やったぁ」
「あっとすぐにはあれだぞ」
「それはうん、私も陸上の大会近いから練習しなきゃだし」
何だこの奇蹟。どんな善行つめばこんなことになるのか。いや、彼女の興味がゲームにあることは分かっている。だとしてこんないい朝を迎えていいのだろうか。ありがとう、デュアルミッシュ。
学校前に着いてバスが減速する。緩やかに流れる景色の中に見慣れない高級車があって白百合学園の制服を纏われたお嬢様が立っているのが目に入った。ふざけるな、デュアルミッシュ。
何でだろう。不思議だ。現実なのにGAMEOVERの文字が浮かび上がった気がしたのだ。




