68.【俺】変な奴はゲームだけで勘弁して欲しい②
ふう危なかったと息をつく。危うく君が待ち人か?貴方誰ですか?っていう人違い事故で究極の恥をかくところだった。ここは違う……となるとだ。
「九十九高校にもう一つの屋上があった?」
「あるわけないでしょうに。貴方やっぱりアホなのかしら」
振り返るとお嬢様がいてぎょっとする。彼女は顎をしゃくってこっちこいと示した。
「早く来なさい。私日光に当たりたくないのよ」
じゃあ、何でこいつ屋上指定したの。まさかこいつアホなのではないか。100件も同じ文章送ってくる奴だし。そうだ。この可愛さに騙されてはいけない。思い出せ、バス時点でこの子は変な奴だった。
目的はわからないがこいつはきっとタフな話し合いなる。そんな予感を感じながら顔に力を入れ俺は踏み出した。ちょっとでもカッコよくみえるように。俺だってそう思春期の男の子なのだから。
ストンと音もなく座ったお嬢様はふっと笑って座りなさいといってきた。恐る恐る高そうな椅子を引いて彼女の反対側に座る。
「まず言っておくけど、私に触れることは許されないので変な気をおこさないように。もし、指一本でも触れれば校内放送で貴方が痴漢行為を働いたと流れるようになっているから。私もここまでしなくていいと思うのだけれど父がね、過保護なのよ」
口元が引き攣る。親子揃って本気でヤバい奴だ。あんたらライトノベルの登場人物か何かですか。まあ、何か意図があって……いやないなこれは単なる男嫌いと娘大好きパパさんだろう。取り繕うのやめるか、顔はイケモードを保つが。
「それで?白百合のお嬢様が俺なんかに何の用だよ」
「もう分かっていると思うけれど単刀直入に言うわ。貴方の持つデュアルミッシュだったかしらそれをお譲り頂けないかしら」
だろうなと思った。ぶっちゃけお嬢様が俺に接点を持とうとするなどそれしかない。そもそもが動画サイトのメッセだったのでそりゃそうだ。
ただ理解できない。偏見だが彼女はゲームをしなさそうな上にどう見たって金持ちだ。今流行りのVRだって余裕で買えるだろうに何だって10円のゲームにここまでするのか。いや、デュアルミッシュ面白いけどさ。むずいぞ?
「勿論、タダとは言わないわ。これ……ちょっと貴方これを机の上に置きなさい」
足元に置いていたアタッシュケースを持ち上げられないお嬢様。何で俺がと思ったが涙目なので仕方なく手伝ってやる。ってか重っ。
そして開かれ現れたものに俺は目を剥いた。
「ここに2000万あるわ。どうかしら悪い話ではないでしょう?最上一郎」
最上家では人生ゲーム以外で絶対にお目にかかれない大量の札束。固まる俺に対して、お嬢様はニヤリとした笑みを披露したのである。
◇◇◇
ゴクリと生唾を呑んだ。恐る恐る手を伸ばしてチラっと見ればどうぞ確認しなさいと言わんばかりにお嬢様が手で示す。
束をとって遠慮なく手で捲ってみる。本物っぽい。外側以外は紙ですってオチでもない。10円が2000万に化けた。え?それなら売ってもと一瞬魔が差したが俺は気づいてしまった。
(何だ?)
お嬢様の目が油断なく此方を観察しているということを。
そもそもこれはあり得ない話だ。だが、1000歩譲って仮にこれが本当だったとしても彼女の目はとてもお願いする者のものではない。そして気づく。アタッシュケースに不可解な赤い点が灯っていることに。
(成程カメラ。理解した。これはドッキリだ)
確信する。だてに妹が好きなドッキリ番組モニタールームを毎週付き合わされている俺じゃない。おかしいと思ったのだ。だが、流石に2000万はやりすぎだと俺はケースを手で押し返した。
「悪いが売らない」
「仕方ないわね。なら3「値段の問題じゃない。金で俺は動かない。あいつらのためにもな」
10円とはいえそこそこ面白いし、魔物には愛着が湧いている。帰ったらすぐにやりたいし、ワザと掛かったふりをするために一時たりとも貸し出すつもりはなかった。
「っ!?そう、もう仲間がいるのね。もしかしてもうこちらの事はバレているのかしら」
コクリと頷く。目を見開くお嬢様。おいおい、そんな顔されると何かごめんってなるじゃないか。深刻そうだし結構大がかりだったか。きっと引きでも撮っているのだろう。悪いことをしたな。
「俺は演技が下手だからフリはできねえ。どうすりゃいい」
「……可能なら無かったことにして貰いたいわ。誰にも漏らさないでくれれば」
「無かったこと?いいのか?」
結構手が込んだドッキリっぽいがいいんだろうか。彼女は少し考えた末に口を開いた。
「そうね……。貴方と関係を結んでおくのも悪くないかも知れないわね」
ん?関係を結ぶ?そもそもだ。どうしてこの見ず知らずのお嬢様が俺にドッキリを仕掛けるのか。てっきり猿辺りが仕掛け人で協力者かと思ったがそれは勘違いでマジでこれ彼女主導なのではないだろうか。
では、何故初対面の者にドッキリを掛けるのか──その答えは一つしかない。俺の事が気になっているから。
決して自惚れじゃない。そう考えれば合点がいくのだ。あのメッセ連打も繋がりを持ちたいという心の表れではないだろうか。どう見ても男嫌い。そのムーブをとっているのに関わらず彼女はわざわざ違う学校に来てまで俺と二人きりの空間を作り上げた。……待て待て暴走すんな俺……考え過ぎ──
「それで今すぐ一緒になればいいってことかしら」
「!?いっいや、こういうのは段階を踏んでからだろ」
間違いない。これは告白ってやつ。意外と大胆だなお嬢様。いや、もうリア側の者はこういう感じなのか。出会って即告白時代。
「そうね、じゃあ互いに知るところから始めましょうか」
「そっそうだな。ちょっと用事があって!おっ俺行くから」
「ええ、また会いに来るわ最上一郎」
恥ずい。こういうのに俺は不慣れだ。変な子だけど超可愛い女の子に好意を寄せられていると思ってヘタレな俺は逃げ出すようにその場を後にする。
が、これは勘違いであり、付き合っていると周囲に思われこれが切っ掛けで冗談抜きでえらいことになってゆくことをこの時の俺は知らない。




