67.【俺】変な奴はゲームだけで勘弁して欲しい①
約束の日=次の日。起床した俺はくわあっと欠伸をする。メッセの事が気掛かり過ぎたのと普通に爆睡したのでデュアルミッシュは全くできていない。
まあ、≪不落≫を倒したことを白銀の面々に話しでもしたらまたシナリオが進んで時間をとられてしまいそうだし、魔物達の状況も確認したいし学校から帰ってからでいいだろ。
朝の支度をして降りると既に母さんが作った料理を妹が食べているところだった。母は朝から友人のママさんとお出かけ。この出不精な息子を産んだと思えないほど彼女はアクティブだ。そしてそんな用事があってもしっかり飯を作ってくれる優しい母である。元ヤンキーでキレたら超怖いけどな。
「おはよ」
「お兄ちゃん髪ボサボサだよ」
「んー」
開かない目のまま食事を貪る。いつもは部活があってさっさといく奈々は珍しく話しかけてきた。いや、デュアミという共通の話題を得てから何か兄妹の関係が少しだけ変わりつつあるのだ。
「ねえ、上手くいってる?」
「何が?」
「動画だよ。もう収益化した?」
「するわけないだろ。まだやり始めたばかりっつうのに」
「いく人は一日とかでいくよ」
「それ最初から有名な奴とかだろ絶対」
「兎に角、できたら教えてね」
「何で?」
「機材貸してあげたじゃん。お小遣い頂戴。私もゲーム手伝うし」
「はぁ?っつかゲーム手伝うってなんだよ」
「イチ兄がやってるデュアルミッシュってRPGっていうやつなんでしょ?レベ上げとかやるよ私」
別にいらんけど、最悪連コン使うし。もうそれだったらいっそnew gameでやれよ。セーブデーターまだあるしと思ったが答える前に立ち上がってしまった。
「あっ私出るから鍵。あと私の分の片付けもお願いねお兄ちゃん」
実の兄を顎で使う。とんでもない奴である。俺の妹以上にヤバい女はこの世に存在しないんじゃないだろうか。そう、フラグを立てつつ俺は味噌汁を啜ったのだった。
「しょっぱぁ!」
絶対アイツ作ったろこれ。
◇◇◇
ちょっと遅刻したので親友の猿においてかれた。教室に入ってムスっと弥彦を見たが何故か窓に張り付いている。いや、結構な男子生徒が窓の外を見ていた。
「何してんだあれ」
鞄を下ろせばお隣から声がかかる。高瀬彩、陸上部所属クラス人気一位の美少女だ。俺の配信のコメ欄に某お茶の名前で降臨する。奇跡なのか普通の隣人以上に仲良くなれてる気がする。まあ、彼氏いるって噂があるからこれ以上は進展しないんだろうけど。
「白百合学園の生徒の子が来てるんだって」
「へー」
「興味ないんだ最上君」
「関わる訳ないし見たところでな」
「ふーん」
何のふーん?
「ねえ、私最「おい、イチ!来てるなら言えよ。こっちこいって早く早く」」
遮られてムーとする高瀬。後で聞くよと断りを入れて猿のもとへ向かう。放置すれば確実に五月蠅くなるのがこっちなので。
「んだよ」
「あれっ!あれっ!バスの子だよな」
確かに帰りに出会った変なプレートを首に下げてた変人お嬢様である。ただ、本当に美人で離れていても人の目を引く魅力ってものを持っている。そういえばゲームショップでも会った記憶があるな。
「あーだな。けど、何でお前がそんな興奮してんだよ」
「もっもしかして俺に会いにきたんじゃ」
「100ねえよ」
気のせいかお嬢様と目が合った気がして俺は仰け反ったが、あれが件の人物なわけないしなとその場を離れた。
「おっおい!どこ行くんだよイチ」
「悪いな猿。こうみえて俺は忙しいんだ」
「あっ明らかに寝坊なのにか?」
そう、俺はそれどころではないのだと油断なく周囲を見渡す。
(この学校にメッセを飛ばした奴がいるはず。いや、このクラスだって例外じゃねえ。必ず見つけ出してやるっ犯人ってやつをな)
キリ
「最上君髪ボサボサだよ」
◇◇◇
そして遂にきてしまった昼休み。猿こと弥彦は男子達と一緒にまだいるかもしれないとお嬢様を探しに行った。男ってアホだと思う。ただ、俺も理由の言えない用事があるため同じ貉と思われているのが悔しい。
ニヤけ顔の猿にお前も男だからなと肩ポンされたのが本日の最イラポイントである。
さて、九十九高校の最上階には屋上がある。綺麗な場所らしいが過去に在校生がふざけたことがあり落ちたらしく鍵が掛けられ閉鎖されていた。が──
「開いてる」
ドアノブを捻ればガチャリと音が鳴る。意を決して俺は扉を開いた。そして──飛び込んできた光景と人に言葉を失う。
何故か屋上にカーペットが敷かれ、アンティーク調の椅子と机が設置されている。広げられた傘が日光を遮り、そこにいた者に影を与えていた。
恐る恐る近づけば顔が見えてくる。やはり……白百合学園の制服なので正体はわかっていた。
黒真珠。そんな言葉が似合いそうな美しきお嬢様。生意気で悪戯な瞳が俺を捉えていた。だが、これは現実、ゲームじゃない。一般人であるこの俺にこんなイベントが起こりうるはずがない。つまり、これは何かの間違いだと俺はすっと戻りそっ閉じするのだった。




