66.【俺】謎の者からのメッセージを受ける
「うっへい、終わったー」
勉強机に座っていた俺はパソコンから手を放し、大きく仰け反るように伸びをした。動画の編集が大変すぎる。思わず寄声を発してしまうレベルだ。配信者って凄いんだな。まあでもちょっとだけ慣れてきたけど。
「サムネはこれかな」
目を閉じたバッツと苦戦するサブサブロを並べ、『バッツ死す!?しかし不死鳥の如く』と宣伝文句を記載。そして金色に輝き翼を広げた魔怪鳥のシルエットをその後ろに配置した。一度でもバッツを見た者なら興味を引くこと間違いなし。
ちなみに被写体は死んだときのものではなく、寝ていた時のものを使用。同じ目を瞑った姿なのだがしっかりと違う。余りにも死亡状態がリアルで何だか嫌だったのだ。
ふいーっと俺は息を吐き背もたれに凭れて、ぎしりとゲーミングチェアを鳴らす。頭で思い返すのはバッツが死んだ瞬間だ。あまりにショックだった。徹夜で仇をとってしまうほどに。
「あんなに情が湧くだなんてな」
NPC。所詮はゲームのキャラ。それも鳥。でも、殺したNPCには相当イラっとさせられたのだ。ホント復活させられてよかったと思う。
俺は?とゴブリンフライデーさんの囁きが聞こえてきた気がしたけどきっとそれは幻聴。でも、ありがとうフライデー。君の事は忘れない。ポイント余ったら絶対復活させてやるからそれまでお星様になっててください。
それでめっちゃ差が開いちゃって
「お父さんごめんね、私ゴブリンキングになっちゃった」
「え゛え゛ええええ」
とかなるかもだけど子供ってほら成長するもんだからどうか発狂しないでね。
さて、フライデーさんのことはさておき、驚かされたのはこのデュアルミッシュの難易度だ。コンティニューありという優しさはあるが敵は恐ろしいほどに強く、油断すれば簡単に殺されると分かった。ヌルゲー化する近年のゲームでは珍しい。マジで今までのゲーム人生で一番コンティニューしたまである。
「迷宮開始するのかなり考えねえとだな」
目の前にノートを置いて計画を立てていく。ゲームでここまでするのはいつぶりだろうか。何がいいって攻略情報が全く出回ってないのがいい。この模索してゆく感じが最高だ。まだまだ実況スキルがないのであれだがゆくゆくはリスナーと生で攻略相談しながら進んでいけたら最高だと思っている。
多分、間違いなく行くことになるドラムニュート王国とかコメと和気藹々としながら入国とか超ワクワクする。
「ホントこんなに面白くて有名じゃないんだもんな」
流石にちょっとおかしいんじゃないかと思い始めている。名前すら検索にヒットしないのはどういうことなのかと。動画のコメントでもどこで買えるのか。何故調べても出てこないのか。自作ですかなどの意見がほんの少しだけ出始めてるし。
デュアルミッシュ、もはや出所不明の怪しいゲームであることは疑いようがないが、今更止める気はなかった。
「まっ捕まるわけじゃねえしな」
一応、10円とはいえ俺がお金を出して買ったものだ。堂々とやればいいだろう。何よりもう止められないレベルには嵌ってるし。
「ん?」
編集作業も終盤。息抜きでもしようかと思った俺は大量にメッセが入っていることに気づいた。1,2件ならまだしも100という数字に顔を顰めてしまう。
「うわっチャンネルとかにも迷惑メッセとか来るんだな」
新着通知が目障りだと一斉消去しようと思ったが、どうやら違うと分かり開いた俺はその内容に固まった。
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九十九高校 最上一郎様
貴方にお話があります
7月13日の天に日が昇ったお昼時、屋上に必ず来るとお約束してください
お返事をお待ちしております
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「何だこれ……」
同じものを100送ってくることも恐ろしかったが何より怖いのが高校と本名が知られていることだった。
「もしかしてうちの生徒か?」
何せ待ち合わせ場所が昼休みの学校内なのだ。外の者とは思いにくい、少し恐怖が和らいだが意味不明だと混乱する。
「何で呼び出し?嫉妬とか?」
再生数なんて全然だし、底辺の域を超えてるわけじゃない。俺はまだまだ雑魚配信者である。ということはだ。
「ゲームそのものに興味持った奴が話したいって感じか?ってか7月13って明日じゃん」
無視したかったが学校と名前を知られている以上、断っても向こうからやってくるだろう。めんどくさいと思いつつも俺はOKの返事を送るのだった。




