56.【スパーダにいる者達】快適過ぎ、あいつは一体何者?①
【ライザ・エリー】
白銀連盟。それは私たちの護衛役を受けてくれた冒険者さん達であり、彼女達には多大な迷惑を掛けてしまった。
「はぁ……」
「溜息ばっかり吐いてると幸せ逃げちゃうよエリー」
「これ以上ないってくらい不幸でしょ。命は狙われるし、迷惑かけちゃうし」
その通り俯くべき状況なのだが……。ハムっと頬張ったハンバーガーなるものにライザの頬っぺたが落ちそうになる。
「んー美味しい」
「ライザ貴方ね……」
「でも、すっごく美味しいよエリー。学園でもこんなのありつけたことないし。メルカトルも凄いって思ってたのに本当にリーデシアって信じられないくらい文明が進んでるんだね」
「……」
ムスっとしたエリーも一口運び、余りの美味しさにホワっと表情が溶けそうになった。が、ブルブルっと頭を振って彼女はなんとか耐えた。その様子を窺いつつペロっと平らげたライザが言う。
「ねえ、確かに白銀の人たちには申し訳ないことをしたって思う。でもさ。私達の直感スキルはしっかり働いてたって思うんだ」
「毒に倒れ、何の罪もない人を巻き込んでも?」
「うん、だってどっちにしろ襲われてたと思うんだよ。それはきっと回避できなかった。でも、実際エリーは毒から回復して、白銀さん達も助かってこうやって生きてるし寝床もご飯も美味しい。それにこれはよくない考え方だけど、白銀さん達もサブサブロさんに出会ってなかったら危なかったって思うんだ。狙われてたって言ってたしね。まあ、だからといって巻き込んでいいってことにはならないんだけどさ」
「……」
「ねえ、エリーは何が気に食わないの?あの人は命の恩人だよ」
ライザは気づいてた。エリーの怯えの方向が自分たちを助けてくれたサブサブロに向かっているということに。
「分かってるっ全部彼のお陰だって。私の命があることもっ」
「エリー……」
「でも、怖いの。英雄の力を以てしても心を読むどころか鑑定を通すことすらできない彼が。こんなの初めてで。読み取れたのは影の薄いローリングナイトという情報だけ。何よこれ。こんなのっ嘘に決まってるわ」
ライザはぎゅっとエリーを抱きしめる。二人は英雄のスキルを使用し、のらりくらりと危機を躱してきた。逃れられたと思っていたところでのギルドぐるみでの暗殺作戦。目的が分からないだけに得体の知れない恐怖が彼女達の人生にずっと纏わりついている。それは彼女達の性格形成に影響を与え、つい些細な事にも疑心を抱いてしまう。
「何で英雄って狙われちゃうのかな。いっそ相手が魔族なら分かりやすいのにね。いや魔族かもしれないんだけどさ」
「分からない。でも、存在すること自体都合の悪い人がいるんだと思う」
二人とも黙り込み、はあっと溜息をついた。
「食べよ。悲観してたって事態がよくなることなんてないし」
「……うん」
「ねえ、エリー。私は貴方がヒドラの毒にかかって死にかけた時、目の前が真っ暗になった。昔、捕まった時もそんなことなかったのに。確かにリーデシア兵のいい噂は一つも聞かないし、正直サブサブロさんは怪しいってもんじゃない。それでも、どんな理由にせよ彼が命を救ってくれた。たとえ私達を利用する気だったとしてもせめて受けた恩を返すまでは付いていくべきだって思う」
「碌に話したことのない男の人に?」
「寡黙だけど紳士的だし、ご飯美味しいし」
「ライザ絶対それが一番の理由でしょ」
「う゛」
図星といわんばかりに固まったライザの口を拭ってあげてエリーは外、スパーダの街並みを見た。そしてエリーは考える。
英雄のスキルが彼の下へ導いたとしたら彼は一体何者なんだろう。そして神は何故彼に引き合わせたのだろう。空がある。だからここはきっと“外”なのだろう。
(鳥?)
影が過った。スパーダという誰もいない町。私達は今、エルダインのどこにいるのかすらもわからない。
【白銀連盟】
「アイツ全然帰ってこないじゃない」
イミール、レナ、パイネの三人は同じ一室に詰め込まれていた。といってもペルシアの町の宿など比べ物にならないレベルの豪華な部屋で文句なんて無かった。
「匿って貰ってるんだ。文句を言うべきじゃない。まさかここまで快適に過ごさせて貰えるとは思ってもみなかったがな。流石はリーデシアというわけか」
ブンブンっとこんな時にしかも部屋の中で素振りを行う我らがリーダー、剣士イミールにレナはジト目を送った。
「イミール、貴方まさか魔道具でこれ全部やってるとか思ってないでしょうね」
「違うのか?」
「なわけないでしょ!」
「どういう手段にせよ。彼がただの一兵卒じゃないのは確実」
魔道具弄るのはドワーフのパイネ。手持ち無沙汰になるといつも彼女はこうだった。
「でもだからこそ助かった。いいじゃないかそれで」
「何者なのって気になるでしょ普通」
「レナ、彼の機嫌損なったら駄目。ここの魔道具を調べられなくなる」
じゅるりと唾液を啜るドワーフにレナはドン引いた。
「何でこのチームにはまともな人がいないのよ」
「お前もいいのか?」
「何がよ」
「同じエルフ同士積る話もあるんじゃないのか?依頼中だからって避けてただろう」
イミールがライザたちの護衛依頼を引き受けたのは実はレナに配慮したというのが大きかった。他のエルフに会ってみたいと常日頃から言っていたから。
「別にエルフも生息地で色々変わるから。私の知らない森の子だったってだけよ。ねえ、アイツ……エルフに劣情すら抱かない男が人間だと思う?」
「そういう者もいるだろう。とにかく、彼が情報を持ち帰ってくれるというのだ。何もかも頼りきりで申し訳ないが、邪魔になってもあれだからな。それまでは待機でいいだろう」
ブンと振るってイミールは汗を拭った。サブサブロが何者なのか気にならないわけがない。けれど、雑念を払う。それが助けてくれた者へ対する礼儀であるとイミールは思うから。




