54.【俺】三日間でスパ迷宮はこうなりました①
「お兄ちゃん始まるから!まだ待機なんだから人来るわけないよ」
「そういうもん?」
「そういうもんだよ。人気ゲームならまだしもそもそも何のゲームかわかんないし」
「う゛……じゃあまず人気ゲームで人集めて――」
「駄目だよ。そういうのこそ知名度で差が出るんだから。皆人気の人を見るから凡人のイチ兄のなんか見ないよ」
オブラートなしの右ストレート。兄の自尊心が抉られたと俺は胸を押さえた。
「でも、デュアルミッシュってゲームやってる人誰もいないからチャンスだよ。凄い、アーカイブにもない!こんな古いゲームやるの数ある配信者の中でもお兄ちゃんだけってこと!天然希少配信だよ」
奈々さんそれ褒めてます?でも、碌に人がいないとわかって緊張がほぐれた。そしてこんな過疎配信をあの高瀬さんが見てると思うと申し訳なく思う。
(そもそも高瀬さんも何で俺なんかの配信をみたいんだか……)
まあでもせめて最高の幕開け配信をやろうと思う。今日に向けて主にゲーム内で色々準備してきたわけだし──
「ねえ、イチ兄。タイトル変えていい?」
「ん?まあいいけどもう始まるけど変えれんの?」
「配信中でも大丈夫だよ。デュアルミッシュってだけじゃ人来ないよ」
分かりやすくていいと思ったがそういうものなのかと配信者としては先輩である妹に託してみる。
「えっと、開発者不明の超激レアゲーム『デュアルミッシュ』ゲット。アーカイブで見ようと思ってる奴残念。残すかわからないのでもう遅い」
長え。そして後半ツッコミどころしかねえ。それお前のさじ加減だろ。アーカイブ残せよって思うのは俺だけなのだろうか。
「お前……『小説家になりたい』の見過ぎだろ。こんなんで人来んのか?」
来た。5人になった。増えた数字に固まってしまえば妹がフっとドヤった。
「配信者の数なんて膨大なんだからワードで引っ張らないと。イチ兄だって知らない配信者が知らないゲームやってても見ないでしょ?しかもこれコンシューマーのゲームなんだし」
「まあ、それはそうだけど」
「ほらお客さん入ってるんだから早く喋って」
コホンと咳をうって仕方なくマイクに顔を寄せる。名無しさんが二人と百獣さんが入ってきた。少なすぎて余裕で覚えれそう。
彩高 :こんにちは
ヤヒヤヒ :こばー
名無しA :タイトル『なりたい』かよ
百獣さん :初見
名無しB :初めまして過疎ってますね。デュアルミッシュって何のゲーム?
「こんちっす。五分から始めますーデュアミはファンタジー迷宮ものっすね。一応概要欄に貼ってますー」
と言われても見ないだろう。俺だって見ない。雑談スキルもないので早速ゲームを始める。俺はデュアルミッシュの画面を映し、スパ迷宮入り口前を披露する。まだ冒険者を呼び寄せていないがかなり整備したし、マナをふんだんに使って門も立派なものに変えた。
「これが俺のスパ迷宮。今回は内部と配下の紹介と町チラっと見せれたらと思ってるので良かったら見て行って下さい」
ゲーム画面を見せたので視聴者が三人増え食いつきが良くなった。もう高望みはしない10人、50人を目指したい。大事な視聴者。もう君たちを逃しはしない。一生。
名無しB :え?何これ
名無しA :なんのハード?これ
自宅警備兵 :初見
ヤヒヤヒ :すげえ
「ハードは数世代前のPG5かな」
自宅警備兵 : 嘘乙
「嘘じゃねえけど、証明も面倒だからその辺まあお好きにって感じで。ちなみに製作者も不明ゲーね。じゃあ行くぞ。俺が作った迷宮案内開始しまー」
弥彦から思ってたより面白そうなんだが後名前wというメールが届き、だろっと返しておいた。高瀬さんこと彩高は最初に一回打っただけでコメントがない。ただ、視聴者は減っていないので見てくれてはいるようだ。
スパ迷宮内部をサブサブロを移動させることで披露してゆく。
「現状、10層まで作っててこんな感じ。短いって思うと思うけど一層作るのもマジで大変でさ。ダンジョンワームってのを仲間にすると楽になるらしいんだけどこの辺には生息してないんだよな。で、階層主は後で紹介するとして先に俺の迷宮のトップシックスを見せたいと思う」
俺がターンっとボタンを弾けばカシャカシャっと奥に向けてスポットライトが焚かれ6匹の姿が影となって浮かび上がった。この演出。マジで一日掛かるレベルでこだわりぬいた。このためにアホほどマナも使った。切り抜かれて100万再生超えしたらどうしようと夜も眠れなかったが、今はもう察してあれは一体何の時間だったんだろうと後悔している。
6傑に被りを無くそうということでバッツを降格させ疾風のワーグ、ハヤテを加えた。トレントのキテンも悪いが降格対象だが今回は適任がいないのでトレント二匹を左右に配置。真ん中をハヤテにし、その脇をゴブウェイ、魔怪鳥のバワン、デカ兎の大福で固める。最強の布陣である。
「これがスパ迷宮最強して最強の配下、スパーダ6傑だ」
名無しB :弱そう
名無しA :絶望的に弱そう
自宅警備兵 :ダンジョンものなら秒で踏破されそうな布陣
ヤヒヤヒ :ある意味ポンコツであるお前らしい
彩高 :可愛い
とりあえず弥彦だけはぶっ飛ばすと決めた。




