53.【俺】初配信にトライする
「うっし」
激闘に勝利できたこととユニークモンスターゲットで感情が湧き上がってニヤニヤしてしまった。誰もいなくてよかった。妹、奈々がいれば気持ち悪いって言われただろう。
お前に負けたことがショックですと言わんばかりに放心し、じっと見つめてくるワーグのハヤテ。わふわふ言ってるので話しかけているのかもしれない。バワンが舞い降りてきて騒ぎ出した。勝利を祝ってくれているのかと思ったが急速に近づいてくる青い点に気づき、俺はハヤテとお座りさせていたグレーターウルフ達を一匹だけ残してその残りをファームへ転移させた。
真っ直ぐやってこない。ウロウロしながら近づこうとしているところを見ると驚きだが依頼に来たMOBということなのだろう。
距離が縮まり、魔怪鳥専用スキル≪魔力羽≫と併用で離れていても中位鑑定を掛けることができた。≪魔力羽≫はサポートスキルの効果範囲を伸ばす力。これ強くて便利。後で検証しよ。冒険者の名前はヒューイット。一瞬、誰かわからなかったが思い出した。
最初に鑑定した時に不落と白銀と共にギルドにいた人物。ソロで装備が整っていたので記憶に残っていた。
まだ見つかっていないようなのでその場から撤退する。
(依頼を受けにきた人までいるのか。現実だったら当たり前だけど普通ここまでしないよな。やっぱこのゲームの作り込みとんでもねえや)
こういうの表面だけが暗黙了解だったりするのにとサブサブロを駆けさせれば横にグレーターウルフのフィーラ(4番・雌)がピタリと並走してきて余りの近さに首を捻る。
「ん?モンスターライド?」
表記の下にカーソルが出ていたのでボタンを押してみるとピョンっとサブサブロが乗っかってぎょっとなった。
「いやいや、重さ」
鎧ですげえ重そうなのに軽々と運ぶフィーラ。嫉妬しているのかコココココっと肩に乗ったバワンが嘴で兜を連打してきた。しかし、これで移動が楽になる。
新たに移動力を得た俺はこれまで以上に依頼をこなし、魔物を回収するのだった。
◇◇◇
そしてちょっとだけ経った日曜日。
「イチ兄、はいこれ」
「おっサンキューな」
アマホンから届いた荷物を開封していると奈々がやってきて俺に足りない機材を貸してくれた。そして欠片もキュンとこない妹の上目遣い。
「ねえイチ兄」
「なんだよ。金ならねえぞ」
「違うよ! 横で見ててもいいかなって」
「別にいいけど、声入れたりすんなよ?お前のこと妹って説明すんの面倒だし、身バレすんのヤダからな」
やった!と喜ぶ奈々。何が嬉しいのかニヤニヤしている。でも、そういえば妹とこうやって揃うことはここ最近飯以外無かった気がする。まあ兄貴の配信横で見れて嬉しいってよりは俺がどう失敗するかを見たいって好奇心からだろうけど。
学校の友達?といっていいかわからないが約束した高瀬さんと親友である弥彦に身バレワード厳禁の念押しして今からやるの連絡を入れる。
今日のために色々下準備を行なってきた。後で紹介するが魔物達も少し増やし、更に6傑は強くなっただけでなく配信映えするように装備まで整えた。紹介するものも豊富でネタ切れすることもなく、カンペも用意した。
(完璧だ)
スゥっと息を吸い、そして吐く。やっとこの日が来たと。
「早くやりなよイチ兄」
「シャラップ妹っ! 自分のペースでやらせてください!」
何せ俺は配信童貞で今日そのベールを脱ぎ去るのだから。
「押すぞ」
「スッと押しなよ男らしくないなー」
外野が五月蠅い。オホンと気を取り直してポチっと生放送開始ボタンを押した。手が震える。緊張がヤバい。人気配信者になっちゃったらどうしようとか思っちゃう。
猿でもわかる配信者への道にはスタートダッシュが肝心だと書いてあった。恐る恐る目を開けてみたら2、視聴者数2。不思議だ。視聴者の彩高とヤヒヤヒという名前、初見なのに正体が誰だかわかるじゃないか。
フっと笑みがこぼれ、身内だけじゃねえかっと俺は天を仰いだのだった。後、高瀬さんのネーム由来はお茶かな?




