5.【俺】振り返ると 後悔がついてくる
「どうしてこうなった……」
恐る恐るサブローを操作して後ろを振り返る。はあっと溜息をつくのも仕方がない。画面には大量のトレントが映っているのだから。
結論から言うと彼ら全員を使役してしまった。なんとその数──
≪配下となった魔物に名前を付けて下さい≫
「後で」
≪配下となった魔物に名前を付けて下さい≫
「だああもう分かったって。覚えられねえし面倒だからキーワンからキートゥエンティーで」
20体。もはや移動する森である。木の後ろにただ数字を振るという雑な名前を付けてやったら全員が喜び踊った。花粉持ちが発狂しそうな光景である。
「何でトレントしかでてこねえんだよここ」
こうなった原因の一つがそれでもう一つがこいつと俺はツリーを見れば仲間が増えたことで彼もまたガッサガッサと葉を揺らしていた。
ツリーを仲間にしてしまった手前、殺せなくなったのだ。開幕から俺の思い描く理想の魔王像からかけ離れてしまった。とはいえやり直す気にはなれない。
「まあいいか何かの縁だ。役に立ってくれよお前ら」
コミュニケーション手段がエモートしかないが、ガサーっと動くトレント達。ツリーだけ真っ白の白樺で見分けがつくということで幹部候補だろうか。
(斧持ってるし木引き連れてるわで絵づらヤベえな。良かったMMOじゃなくて、MMOなら絶対スレネタにされてる)
間違いなく動画化されそうな馬鹿プレイになってしまった。いや、むしろ動画として上げた方がいいかもしれないと一応俺は撮っておいた。
「お前がリーダーだからな。纏めてくれよ」
モーションを使ってツンツンと突いてみるがツリーはポケーっとしている。コミュニケーションとれればいんだがなと悩んでいるとポンっと音が鳴りまたシステムメッセージが入った。
≪おめでとうございます。使役した魔物が全部で20体を超えました。迷宮を解放します≫
「おっ」
どれどれとメニュー欄に増えた迷宮を選択して早速確かめる。バーッと説明が出るがこれはまた今度でいいだろうとぶっ飛ばす。
≪迷宮を設置してください≫
「おおおお」
スケルトンで設置したらどうなるかが分かるようになっていた。十字キーで動かすだけで楽々移動。しかも遺跡、穴倉、空中迷宮の3タイプから選べるらしい。他にもスペースがあってそこに鍵マークがついているので今後解放されるのだろう。
「マジか海外のゲームかこれ?」
まさかここまでできるとはと驚かされた。ガチの迷宮作成ゲームはマジで久しぶりである。超面白そうとテンションが上がる。
「いや待て待て落ち着け。こんなとこに置いたら詰むよな」
魔王で迷宮というのだから、恐らく人間を倒すとポイントに変わるとかいう類のものなのは容易に予想できる。であればポジショニングは重要だ。こんなトレントだけの場所に設置しようものなら“人こない死”という魔王にあるまじき最期を迎えてしまうだろう。
日本産は比較的何やっても大丈夫な造りになっているが、海外産ならマジでやったことを後悔するレベルで詰むのである。
「ふっ俺はゲーマー。ノリで置いて失敗なんてヘマなんてしないぜ。ふっふっふ」
時刻は三時。深夜テンションである。それにと俺はスティックを倒しカメラを回転させ我が配下達を収めた。
「今作って戦えたとしてもこいつら秒で死ぬよな」
正直、雑魚なトレント達。ほぼ勝手についてきたとはいえ愛着ゼロとはいえない。まあ、鍛えられるか不明だけども。
「とりあえず、地図と戦力拡充だな。ってか何体テイムできんだろ。制限あるならトレント20体は絶対やったなこれ。まあいいや。よし行くぞお前ら! ついてこい」
俺は回避行動であるローリングを連続して行う。こっちの方が早いと気づいたのだ。ゴロゴロと転がる俺を大量のトレント達が追う。傍から見たら完全に頭おかしい集団。でも、これはオフゲー誰も見ていないからできるのだ。