45.【魔物6傑】私達は攫われました
【トレント ツリー】
私の名前はツリー。偉大なるお方から頂いた大切な名前。木のアルビノという特異体質が幸いしてか私は主に認められ、ファーム運営の長に任命された。
トレント種の未来を占う大役である。特に命令を受けていない私だったが配下を増やしこの地を守ることに注力した。
古樹キテン様は、キトゥエを私の傍付きにした。彼は小うるさいが優秀だ。彼のお陰で上手くいった。兄貴分で他のトレントの信用があり、いう事を聞いてくれたのだ。が、直ぐ調子に乗るのでやっぱり嫌いである。
「ツリーやっぱ頭は俺の方がいいんじゃねえか?お前一人でばっかいたから友達の一人もいねえじゃねえか」
「主は私の頭脳を認めて下さったのだ」
「おい、てめえそりゃ暗に俺の頭がよろしくないって言ってんじゃねえか?」
「賢くなったじゃないかキトゥエ」
「お前、枝ブチ折るぞ。おらあ向こういってくるからな止めんなよ」
主の配下となったことで彼だけでなく私、いや全てのトレントの能力が向上している。一体あの方はどれだけの力を内包しているというのか。
しかし、なんという魔力だ。ここは空白の大地であり、マナが枯れ果てているはずなのに大地から湧き上がってくる。果実が実っているトレントがいるくらい。皆、生き生きとしている。
「驚きじゃなこれは」
「キテン様」
「様はいらんというたじゃろ。もうお主が長なのだから」
トレントには樹齢で偉さが変わる。どうにもなれない。
「すっすみません。しかし、驚きとは?」
「我らが主、サブサブロ様のことよ。わしらトレントにこのような力があったとはな」
「我らの力?」
キテン殿は皺がれた枝をガサガサと動かす。
「このマナ溜まりよ」
「なっ! これを私達がやったというのですか!?」
「左様。ここまでのトレントが密集した姿はわしといえど見たことがない。トレントは最弱だからこそ、群れることも庇護も受けることも許されんかった。じゃが、この規模ともなればマナを生むようじゃな。主はわしらの生かし方を導いてくれたのじゃ」
私は目を見開いた。一体どこまで……どこまで見通しておられるのかと。
「守られるというだけじゃない、トレントとしての矜持をあの方は示してくださったのじゃ。なんと慈悲深きお方か。ツリーよどんな犠牲を払おうとあの方の意志に寄り添うのじゃ」
「はい」
私は主の期待に応えるため4万もの軍団を作った。
◇◇◇
遂に主が帰ってきた。お褒めの言葉はなかった。少ししょんぼりしていたが私とキテン殿が呼ばれた。本拠地へ行くらしい。本拠地?ここじゃないのか。この素晴らしい場所が仮であったことに驚きを隠せない。
キトゥエが呼ばれなかったことにショックを受けていた。主に反感を抱かせてはならないと私はフォローする。
「主はお前を試しているんだ」
「俺を?一瞥すらしなかった俺をか?」
「そうだ。事実お前がここのトップだ。このファームをキトゥエに任せて良いかと聞けば良いとおっしゃられた。私もお前しかいないと思う。だが後任が育てば必ずお前は呼ばれるはずだ」
腹は立つがこいつにはトレント達からの並々ならぬ信頼がある。キトゥエもトレント代表としていずれ呼ばれるべきだろう。
多種族と共に連れてこられた私達は度肝を抜かれた。町ができていたのだ。それは集落を築く概念のない魔物にとって革命であった。
主よ、貴方は一体何者なのですか?
【魔怪鳥バワン】
ムカつく、ムカつく、ムカつくさね。アタイ達をこんな場所に閉じ込めておいてアイツは顔を見せることすらしないのだ。
「むっぐもぐもぐ、うっめえええここの木の実うめえや姉者」
弟が懐柔されようとしている。確かにここの食料は美味い。空白の大地内とは思えないほど魔物にとっての馳走、マナが満ち溢れているためだろう。
「あんまり食べるんじゃないよ弟。逃げだす時、たんと苦労するからね」
キリっとするがアタイもお腹がパンパンである。恐ろしいほど中毒性があるのだ。餓えた親や家族に食べさせてやりたいと思う。けれど啄む嘴が止まらない。
(くっこれが奴の手さね。全く恐ろしいやり方さね)
◇◇◇
来ない。あれから何度も日が暮れたというのに奴は一度として姿を見せなかった。顔を見たいというわけではないのに何だかモヤモヤする。更に食が進んだ。
最悪のタイミングで奴がきた。食べ散らかした地面を奴に見られた。カっと熱くなってアタイは怒る。それでも全く気にした様子もなくアタイは肩に乗せられた。
逃れようとするが足を離すことができない。魔力を感じ取れるアタイは理解した。前回よりも使役の力が上がっていると。きっと食べ物が原因だ。やはり罠だった。
「弟者よく聞きな。食い物は罠さね。奴の魔力がアタイらの隅々まで。あっ」
「姉者じゃああああ」
また嘴を撫でられた。なんて手さばきっ!このっいけないっ理性を保てない。
「弟者っ見るなっ見ないでくれさねっああああああ゛」
「姉……者……」
光悦とした表情を弟者に見られた。アタイは辱められたのだ。許さない。アタイはこいつを絶対に許さない。
「貴様ああああああ」
弟が咆哮し飛び掛かるが弟も撫でられスンっとなっていた。
「あ゛あ゛Aaaaa。姉者あ゛あ゛ き゛も゛ち゛いい゛」
絶対に敵わないと理解した。けれど、であればアタイはこいつの肩を占領してやる。どちらが主人かわからないくらい撫でさせるのだ。
アタイ達は町に運ばれ絶句し、アタイは出会うことになるのだ。
生涯に渡って肩を取り合うことになる永遠のライバル、白玉団子糞兎の大福と。
【ゴブウェイ】
眠い。オデは睡眠が大好きノラ。寝て、死体を漁って寝ての規則正しい生活。そんなオデの幸せな日常はある日をもって終わりを迎えた。
オデ達ゴブリンは人間に捕まってしまったノラ。
でもオデはついていたノラ。
使役され、奴隷のようにこき使われると思ったノラが人間は変な奴でただ死体を漁れというノラ。
それでも惰眠を貪ることができなくなった。めんどくさい。誰が上だろうとゴブリンなんて捨て駒だ。本気でやる方がどうかしてる。
みんなそう思ってる。だから死体荒らしをしている。戦ったところで碌に勝てないし食べられない。正直者が馬鹿を見る。
けれど、流れが変わった。フライデーが死んだ。それはいつものことだった。人間が謝るまでは。
全員がキョトンとしていた。意味が分からなかった。
ゴブリンを気に掛ける者なんて存在しないと思っていたから。彼は二匹の鳥とトレントを引きつれていた。
6匹の中で一匹だけ何かに選ばれるらしい。ゴブリン達が騒ぎ出した。オデはいい、面倒そうだと隠れる。でもそれが逆に目に付いてしまったようだ。
俺は彼の町に連れ去られ、部屋を与えられた。
生まれて初めて寝そべるベッド。仲間に申し訳ないと思いつつオデは生まれて初めて熟睡した。そしてオデは更に堕落するのだ。
【大福】
私の名前は大福。新しいご主人が付けてくれた名。“前回の主人”は私を捕まえて階層主にしてから一度も会いにきてくれもしなかった。
それに比べてサブサブロ様は私をパートナーのように扱い、怪我をしようものなら回復薬まで使ってくれる。大切にしようって気持ちが伝わってくる。
私を籠から放ち外へ連れ出してくれた王子様。好き。まだ短いけどずっと一緒にいたいと思う。彼の肩が私の特等席だ。あそこは誰にも渡さない。
今も噴水で入念に体を清め匂いを落としている。あの神聖な場所に飛び乗るために。そう思っていたのにサブサブロが人間の女を捕らえ、またどこかへ行ってしまった。しょんぼり。
◇◇◇
帰ってきた。今度は魔物を引き連れてきたけれど、私はピシリと固まった。匂い、雌の匂いがするのだ。ハッとすれば私の特等席を陣どる糞鳥がいた。
目が合い、理解した。こいつは肩を取り合うものであると。フシーっと威嚇するとふふんっとした態度。ムカつく。
そこは絶対に譲らない。