43.【白銀連盟】何よコイツ何なのよ!
【冒険者レナ】
私はレナ。エルフとしては若い63歳、白銀連盟の治療師を務めている。あっステータスは誤魔化してる。でも、人間換算だと正しいから決して不正じゃないわ。ってそんなことはどうでもいいのよ!話を戻すわ。様々な種族がいるけれど今の時代、人族が圧倒的な領土とその力を治めている。ここまで実力に差が開いた理由は色々あるけれど、一番の原因は魔訶不思議な魔法具が出土する“迷宮の独占”と言われている。
私達エルフの王は英断した。比較的差別のマシな東の地へとエルフの戦士を送り、協力関係を結ぶことで戦士を鍛えようというのである。
無茶苦茶な手。逆に言えばそうせざるを得ないレベルまでエルフが追い込まれているということだ。
私は男が嫌いだ。特に人間の。顔を見せるだけで好色の目に晒される。更に強者の立場だから奴隷にできると思っているらしい。汚らわしい。
そんな私だから女性だけのPTに加入したのは当然といえた。
チームリーダーのイミールは人族であるけれど、差別しない素晴らしい人だ。ドワーフのパイネや獣人と分け隔てなくチームに入れている。
私達は同郷といっているが詳しくは違う。様々な人種が揃う集落で暮らし、イミールの幼少期から一緒に暮らしていたのでもうそういうことにしている。人間だけど凄く信頼している。ちょっと自己犠牲じみたところがあるけれどね。
白銀連盟は女だけなため侮られることも多かったけれど、PTとしても調子がよくCランクとなってペルシアの町でも上位に食い込んでいた。
流れが変わったのはチームの二人が家族のことで帰郷することになってから。
中級ダンジョンの攻略していたけれどPTの戦力を欠いた私たちは急遽クエスト変更をすることになった。
ライザとエリーというメルカトル魔道大国、その学園生である彼女達の迷宮レベリングの護衛。イミールには悪いけれど人間に思い入れの無い私からするとこの依頼は地雷だった。
彼女達は目を付けられていた。ただ、私達も序でとして狙われていたのだろう。黒幕はどうせ男。きっと体目的。下種、下種、下種の極み。男なんて嫌いだ。
私達は切り株ダンジョン最奥へ追い込まれた。こんなに堂々とそして大規模に仕掛けてくるとは思わなかった。本当に女性を攫うだけでここまでするだろうか?ヒュドラの毒を使われてエリーという護衛対象の子が生死の危機に陥った。
私の力では癒せない。無力さを感じた。
こんな場所に立て籠っても事態は進展しない。誰かきたとパイネが言った。終わった。お腹が空いて力が出ない。自己犠牲のことを詰ったが私がどうなってもイミールとパイネには無事に逃れて欲しいと思った。
絶望。けれど、私たちの前に現れたのは鎧の男だったのだ。
◇◇◇
人族にも恐れられているというリーデシア兵。帝国リーデシアに属し、彼らの使う魔道具は何世代も先に進んでいると言われているほど強力らしい。
逆らえば容赦なく奴隷とし、まさにモノのように扱われ戦争の駒とされる。魔物殲滅に対し異様な熱をもっているのも彼らの特徴とされていた。
元々はこいつの調査で私達はここに入ったのだ。恐らく罪を着せる要員であり、こいつも被害者なのだろうが腹が立った。
更に助けられる方向に話が進み、頼るイミールの姿が癪に障った。リーデシアの者が助けてくれるわけないじゃないかと。
結論から言おう。この鎧の人間に助けられ、私はお姫様抱っこという辱めを受けた。
「離してっ離しなさいってば」
全くビクともしない。まるで壁を相手にしているような感覚。この男には厭らしさはなく、私など興味ないといわんばかり。
更に『転移』という高位の呪文を操り私達の度肝を抜くと、人気の無い場所へ飛ばし、ここは自分の町だと意味が分からないことを宣った。そして用は済んだと去ってゆく。
(何なのこいつっ! 本当になんなのよこいつは)
「ねえ、どこなのここ?これだけ発展してて人がいないってあり得るの?怪しいことこの上ないわよ」
私は危険で逃げようって言ったけど、皆聞いちゃくれなかった。
「レナ、彼は助けてくれたのだ。悪い人じゃない。私はリーデシア兵を酷く誤解していたようだ」
「イミールっ貴方はチョロすぎるのよ!私達を奴隷にしてとっかえひっかえパンパンしようとしてるに決まってる。男なんて獣なの。例外なんてないんだから」
「レナ、パンパンとか下品」
もきゅもきゅと料理を頬張るパイネ。くっ確かに異常なほど料理は美味いがこのドワーフ、しっかりセルフ懐柔されてやがる。
「私、あの人に礼を言いたいです。エリーの命の恩人だから」
護衛対象のライザが顔色の良くなったエリーを看病しながら言い、それにと彼女は横にいる大福とかいうふざけた名前の従魔を撫でる。
「こんな可愛らしい使い魔持ちなんですから悪い人じゃないですよ」
「あああもうっ」
皆から分かって貰えないことに苛立って私は席を立つ。絶対に下心があるに決まってる。母から人間の男は巨悪だと教えられてきたし、実際私はそれを目にしてきたのだ。伊達に60年生きてないのよ!若いけど。
「こうなったら直接問いただしてやるわっ」
疲れたとか言って半日経ってもあいつは現れなかった。しかし、どこにいるかは特定済み。エルフの聴覚を舐めないものね。ふっ正体を見せるのよ自称リーデシア兵。
奥のこじんまりした部屋。奴はここにいる。意外にも鍵がかかっておらず楽に侵入でき、私はベッドに横たわる奴の姿に顔を顰めた。
(なんでこいつ鎧のまま寝てるの?)
正体を知られたくないにしても方法はあるし、鍵をかけとけって話。鎧つけっぱなのは顔見られたくないからじゃないの? やっぱり変、変な奴。でも、消耗したのは嘘じゃなさそう。『転移』は凄まじい呪文なのだ。
「ふん、見られたくないなら隙を見せないことね……。兜とるわね?いいの?本当に取るから」
私はこいつを魔族と踏んでいた。私たちを実験体にするつもりなのだろう。ごくっと息を呑んで兜を取った私は絶句した。
予想と違って若い男の人。人間だ。眠っているが信じられないほど美形で、エルフよりも整っている。スースーと上品な寝息を立てている。エルフの眼でもとても邪な奴には見えない。何より無警戒が過ぎる。
「不用心にもほどがあるんですけど、寝首掻かれたらどうするつもりなの?馬鹿、ホントに馬鹿な人間」
男なんて皆、獣だと思ってた。でも、もしかすると極稀にイレギュラーがいるのかも知れない。まだ信じられないけれど、わかったことはただ一つ、こいつは間違いなく変人ってやつだ。後、何故だか顔が熱い。間違いなく風邪をひいた。きっとあんな場所で一晩明かしたせいだ。




