34.【俺】切り株最終層ボス
切り株ダンジョンは別名初心者の迷宮と呼ばれ、ここが冒険者を仕分ける一つの分水嶺となるらしい。踏破することでD級に昇格することができ、駆け出し商人の護衛や討伐依頼を受けられるようになるとのこと。また当然D級までのダンジョンにも挑戦することができるようになる。
逆に到達できなかった者は向いていないという烙印を押され、引退を余儀なくされる。Eランクだが切り株は必須ダンジョン。そもそも冒険者ギルドを設立するには初心者ダンジョンの隣接が条件らしくわざわざ発見してから近くに町を設けるのだそうだ。
そして重要なのが──
「ダンジョンは密集しやすい……性質を持つか」
さて、この設定に意味はあるのだろうか。
ファストトラベル機能を使った俺〈サブサブロ〉は10層ボス部屋に到着していた。肩にナルケットラビの大福を乗せ視界を振って周囲を確かめる。
「大福、お前降りてくれよ」
「きゅい」
俺の声に反応したわけではないだろうが、偶然重なった。動かない大福。こいつ不動である。引きカメラだとこいつのお尻ドアップである。丸い尻尾が可愛いが視界が取られて観にくい。
戦闘になると動くと信じて11階へと降りてゆく。ポップしたのはシャドウという人型の影の魔物。仲間にならないということで申し訳ないが殲滅する。
「きゅい」
ヤバいこの子戦闘でも動く気配ゼロだ。思ってたのと違うがサブサブロはそれでも身軽に攻撃してくれる。
「よしっ」
フラフラと揺らめくシャドウの隙をつき、俺は剣で一閃した。ここの狭い迷宮では斧が使いにくいということで急遽剣にポイントを振り剣術のスキルをゲットした。
≪スラッシュ≫と≪カットブレード≫。前者は溜め切りで、後者は抜刀術だった。ちなみにゲームなので刀じゃなくても抜刀術が使えた。まあでも基本的には斧を使用するつもりだが敵が使ってくると思ってもいいかもだ。
「いい加減、魔法とかも覚えてえなっと」
もう一体を倒し、クリア。迷宮の敵はちょっと強めという話だったがゲーマーの俺にとってすればまだまだ温い。でも一気に難易度が跳ね上がる予感も感じていた。
◇◇◇
15階。予想通り強敵になった。相手はリザードネイルという手爪を装備した蜥蜴男。
「っ」
かなり素早く、特に挟んでくる尻尾の攻撃が厄介だ。直撃を貰いHPが半分まで削られてしまった。ヤバい。
≪チュートリアル:仲間モンスターとの共闘。魔物には体力が存在し、連続戦闘参加ができません。ピンチの時の運用を。上手く利用してください≫
「へえー珍しいな」
ピンチと悟ったか勝手に飛び降りてくれた。フシーっと白玉兎が威嚇してくれている。
「やっちまえ大福」
「きゅい」
≪大福:全力体当たり≫
ギュルルルルっとその場で回転し、凄まじい勢いでの体当たり。慌ててリザードネイルがガードするが弾け大きく仰け反った。すかさず俺も攻撃を入れてバックステップのヒットアンドアウェイ。
うん、制限掛かった理由がわかった。よく考えれば階層主とプレイヤーの共闘なのでチート気味だ。これはモンスターとスキルの組み合わせを考えるのも楽しそうだ。
無事に倒した俺達はレベルを上げながら20階層──最終層へと辿り着くのだった。さくっと行ったけどまあ最初のダンジョンだしね。
【20階層──最後の間】
ボスへと続くであろう大門は相変わらずだが、これまで以上に豪華である。魔石が埋め込まれていてつい持って帰れないか切りつけてしまうほど。
「しかし、一時間くらいか?さくっと行けたな」
「ぴゅい」
何か大福の鳴きのタイミングが噛み合い過ぎてるが偶然である。ここまで大福を温存してきてるので準備は万全だ。ゆっくり扉を開けば中心に萎れた状態で配置された一輪の花──蕾状態。
【BOSS 切り株に咲いた花 ホワイトフラワー】
その閉じた花がぐんっと顔を回し、下から葉っぱが飛び出すとまるで腕だと言わんばかりに自らの体を立ち上がらせた。
異形。これまでとは全く違った魔物。根っこという根っこが噴出し、立ち上がれず這いずった姿。錬金術で失敗した魔物──そんな印象を抱かせた。
「行くぞ大福」
「きゅい」
ん?やっぱ俺の声聞こえてね?と思う俺であった。