284.【俺】新たな展開に眉を潜める
俺、最上一郎は二兎追い両兎を得る者。アホな俺にことわざの教えなど通じない。それどころか三兎、四兎を追うことになるかもしれない。陸上大会、高瀬さんの出番になってキュッとスマホを胸に抱いてしまうが、危ないと下に。スマホを翳すのはバットマナー。盗撮疑惑で捕まった鬼瓦先生の二の舞になりかねない。
緊張した面持ちでラインに並びだす高瀬さん、陸上着姿が眩しい。両方気になるのでチラチラする。
戦闘オートで動くサブサブロだが、やはり人がやった時に比べると動きが単調で強さは数段落ちてしまう。配下の事を考えると俺がコントローラーを握って、全力出した方がいいに決まってるけど配信者の勘、ここはこれでいい気もしてる。
あくまで魔物達がメインであって欲しい。サブイチチャンネルの視聴者達はずっと彼らの成長を見守ってきた。彼らの日常ショート動画なんてメインを食う人気を誇ってるくらいだ。見せ場にしてほしい。
バワン :ふるっふうう(アタイの方が好きさね)
大福 :ピュイピュイ(私の方が好き)
うん、だから君らいつまでもサブロにくっついてないで戦って。帝国、魔物、冒険者、三つ巴だがそう呼ぶには困難なほど入り乱れてしまった。思ったより銃を連打してこないのは弾に限りがあるからか、それとも別の理由があるからか。
(そもそも帝国は何で参戦してきたんだよ?)
流れで受け入れそうになるけどぶっちゃけそれも分かっていない。戦力を見る限り完全に殺しに来てるし、あの特大魔法は王国の冒険者諸共消し飛ばすつもりで撃っていた。サブロ参入イベントが無かったと思うとゾっとする。
自宅警備兵:裏にいるの あいつらだよな?
百獣 :真四角とマリオネッタ。13番、ナンバーズと誤解しているってストーリーの気がしますね。サブサブロの存在を知らないでしょうし、魔王討伐が目的なのだとしたら冒険者ごとはいかないでしょうし
確かに。絶対にぶっ潰したいという意思を感じる。流石百獣さんである。
≪13番がシーザーライオネルを殺害しました≫
「おっ」
迷宮の方も見たいがここまで来たら後でリスナーと振り返りムービーを見る予定。一回目はそんな機能があるって知らなかったから見ることができなかったが今回は設定したのでジェイクとファザチルの戦いを拝むことができる。チート個体だから勝てるだろうと信頼してる。
木のみん:トングさん……
クラスメイトである木本木ノ実はトング大好きなためずっと彼の心配をしている。
小蕎 :何故帝国は冒険者まで手に掛けようとしたのかな
丸助 :操れる。戦力にされるのを恐れたんじゃないか?プレイヤーNPC戦は拠点ごと潰すのがキーになる可能性すらあるぞ
同じくクラスメイトの丸山宗助。頭が良く、百獣さんや自宅警備兵に続きサブイチチャンネルの頭脳役。指摘が鋭く彼の意見を重宝してる。
「拠点潰しか」
規模でか過ぎとツッコミたいが確かにそれを想定しているとしか思えないほど仲魔にできる人数(匹)が多い。戦争が前提としか思えないシステム。だから通常NPC戦だけとは思えないと違和感を持っていたわけで。
真四角と人形使いで終わりじゃなくこれ以上の敵が存在するならどんな戦いとなってゆくのか。考え込みたいが事態が動く。
「やられたっ」
転移を使われ、裏に回られた。やりたいことをやられた形。そりゃ自由に転移を使えるのだからそうなる。。通常帝国兵は連打できないのか三大将だけだったのが救いだがサブロ達が挟まれる形。こう見ると転移ってマジでチート技だ。
ユーリ :どけっ!おっさん!
頭に血が上っていると言わんばかりに真っ先に踏み込んできたのはユーリ君。彼の目はアライアに向けられていてボッシュを撃ったのは彼女だと確信しているよう。
(英雄って直観スキルってのがあるんだっけか)
覚醒とあったが明らかに能力値が上がっている。条件があるんだろうか。ユーリ君が後ろに飛んだタイミングでキャスカの魔法がサブロに向かうが、見事に斧で切り飛ばすことに成功。サブロが顔に手を翳し兜を身に着けた。
背後からアライアが迫るがサブロは振り返ることなく擬人化した大福とバワンが受け止めた。おい、オート俺より操作上手いの止めろ。
ヤヒヤヒ :可愛っ
自宅警備兵:かっ
擬人化初披露。普段ならB連打するところだが、今回は無礼講。魔物の姿でLV50オーバーを止めるのは厳しい。奥で背景のように王国の冒険者と帝国兵が戦い、動き出そうとしたレグナードとノストラを再びゴブウェイの銃弾が止めた。
丸助 :サブイチ、途中からでも突破だ。二者相手どるのは絶対不味い
「分かってる」
といっても操作できないので任せるしかないが。放置プレイとはいえ、ここまで育ててきたのだ。こんなところで負けて終わる奴らじゃないって思ってる。
ただ、ゴブウェイだけでレグナードとノストラを相手にするのはどう考えたって厳しいだろうと『でゅ』アプリで魔物召喚を使用。6傑の神狼ハヤテを緊急招集。プニキは移動が遅くマトになるため冒険者側に配置し、ツリー達に犠牲が出るだろうがここは壁役、遮蔽となって貰うしかない。
ユーリ :どけえええっ
キャスカ :ユーリ、バフを掛ける。そのままいって!
ペルシアの星、ユーリ君達がかなり邪魔でうっとおしいとバッツとビバップを召喚し、彼らにあてる。覚醒した英雄とやらに敵わないだろうが不死鳥の真骨頂は不屈のメンタル。人気ナンバーワンである魔物をイケメンに当てて評判を落とそうなんてそこまで俺の性格は歪んでいない。歪んでいないのであるニチャァ。
さてほぼ戦うことになってしまったが形は作れた。
サブサブロ+バワン・大福 VS 帝国三大将
神狼ハヤテ+怠惰のゴブウェイ VS 大森騎団+黒槍
不死鳥バッツ+繋がれたビバップ VS ペルシアの星
後は仲魔とオートに託す。顔を上げればスターターピストルの合図と共に高瀬さんが走りだした。今の俺は見守り役。まだ俺の舞台じゃない。絶対一対一のビックイベントが来る。これはゲーマーとしての直観だ。
(すげえ)
当たり前だが陸上選手がハチャメチャに速い。キラキラしていて改めて俺なんかと関わる人じゃないって思ってしまった。盛賀優斗 (ゆうゆう) に峰岸心愛、白百合学園のお嬢様たち。本来、交わることが無かったクラスメイト達を含め繋げたのはデュアルミッシュ。そして配信だ。
(視聴者数……一万越え)
考えてみればこの大会より見られてるのだ。幾らお手軽に見れるものとはいえ、トンデモないことになってきている気がする。止められないが謙虚に行こう。流石に自分の力だという勘違いは俺でもしない。歓声があがり高瀬さんがトップ。テープを切った彼女の姿に拍手を送る。
このゲームのゴールラインってどこなんだろう。プレイヤーNPCが出てきたことによって予測不能で行方不明になった感がある。
(デュアルミッシュ)
最高に楽しいのにどこか怖さを感じさせるゲーム。一体どこまで広がりを見せるのか。
「お兄さん駄目だよ、盗撮しちゃ」
「あっ」
失態。両方気になり過ぎてついスマホを翳してしまっていた。ヤバい、これは鬼瓦先生の二の舞になってしまったかも知れない。帽子を目深に被った金髪ピアスの男。警備員にしてはやけに軽薄そうな男だと俺は眉を潜めたのだった。
14日




