28.【俺】はじめて仲魔を失う
ふいー食った食ったと自室に戻った俺は囲まれたサブローを見て慌ててコントローラーを握った。
「やべ」
時間進むんだったと操作すれば群がりが離れた。
≪冒険者の評判が低下しました≫
「うわっそんなのまであるのかよ」
高く維持するメリットが不明だが、とにかく下がると面倒そうである。デュアルミッシュは電源を落としても時間が進行する。席を外す時もちょっと気にしないといけないかもしれない。
(しっかし確定だなこれ)
これだけ時間が経ったのに『不落』と『白銀連盟』がいるのは変だ。あっ普通に『不落』も現地にいた。
「ゲームとはいえ、隠密下手くそ過ぎるだろこいつら」
もしくは魔王であることが露見し、掃討作戦の予定なのか。Lv20台の冒険者に囲まれていると考えるとゲームながらもブルリと身が震えた。
気にしすぎかもだが、難易度は高めと考え仮にできても目の前での使役を使うのは控える。そして止まっていても仕方がないと俺は切り株ダンジョンへと足を向けた。冒険者達が付いてくる気配を画面越しに感じながら。
コグの森──切り株ダンジョンは入口が切り株が切り抜かれて作られていた。下へ降りてゆくタイプで全20層。10層ごとにボスがいるという典型的なダンジョンである。
「あーやっぱ無理なのか」
入場を果たした事でTIPSが解放され、ダンジョンモンスターは使役できないことを知った。
「ってそりゃそうだよな。同じ場所にリポップするだろうし外より強いってなるとダンジョンだけで集めることになるだろうし」
となると外で捕まえて育成しなければならない。ダンジョン運営も結構シビアかもしれない。
≪ただし例外があります。二つ名、ユニークモンスターと呼ばれるものが存在します。知能が高いため稀に説得することが可能≫
「へーでも自分が強くないと無理じゃね?」
思ったより難しそう。迷宮を構築するタイミングと自分の強化のバランスを考えなくてはならないだろう。
「まっ習うより慣れろだよな」
TIPSを閉じて何とかなるだろうと俺は迷宮の奥へと進んだ。
◇◇◇
「キィッ」
ここの迷宮は狭い。メインウェポンは斧だが、ガンガンと横壁に当たるのであきらめて初期装備であるリーデイルの直剣を使って戦っている。スキルが使えないが低層のおかげか何とか戦える。
蝙蝠のような魔物を何匹か倒し、レベルが7に上昇。スキルポイントを獲得したが保留。隠蔽を取る選択肢を残す。
「仲間にできないって分かると秒で倒せるな」
ドロップ品のキースバットの翼。アイテムボックスに放り込めば音が鳴って職人のタブにnewの文字が躍る。魔物の素材でも色々作れるのだろう。まあ、その確認は後まわし。
「職人システムあるしもの作った方が高く売れるとかってねえかな?でもそれで足ついたりして」
早く色々やりたいとどんどん進む。冒険者ともすれ違った。俺は無言で進み、相手がぎょっとする反応を示す。あんまりリアクションのレパートリーは設定されていないのかもしれない。皆似たような感じだ。まあ黒鎧が陰からにゅっと現れたら敵かと思って驚くか。
≪ゴブリンフライデーが戦死しました≫
「え?」
唐突に告げられた初めての仲間の死亡に目を瞬かせてしまう。一回命令を下しただけでほぼ関わりが無かったがやっぱりちょっとショックである。死因は冒険者によるものと書かれてある。
「あー俺のフライデーが。冒険者側強すぎだな」
まあこの世界の魔物は魔王が倒されボコられているということなので解釈通り。もうちょい頑張って欲しいといいたいが……。
(冒険者の活動場での素材集め指示はやり過ぎたか。流石に俺のミスだな)
でもあそこを生息地としている以上、テイムしなくてもゴブリンは死んでいたと俺は思う。戦力にするなら安全な場所で育てる必要がありそうだ。
(ゴブリンをファームまで戻すか?いや、申し訳ねえけどこっちでの活動を維持するための犠牲になって貰うか?うーん、ゲームとは言え流石に可哀そうかな。でも、全員死なずとか無理だよなこれ。絶対縛りプレイとしてやる奴とかいそうだけど)
極力生存を目指したい。迷宮運営のことをグルグルと考えながら俺は奥へ奥へと進むのだった。